第61節 神殺しの皇子 其之十 火の樹海
「うわあぁぁぁっ!」
炎に包まれたタケハヤは何が起きたのか分からずに叫び声をあげていた。
(裏切ったのか!?あの鳥が!?だが何故?)
今自分を攻撃することに何の得があると言うのか。あの鳥の目的はこの大蟒蛇を討伐することではなかったのか。
――ほほ……気分はどうじゃ?人の子よ。――
「なんじゃと!?貴様、わしをこのような目に遭わせておきながら――」
――ほほ……そう取り乱す出ない。忘れたか?そなたは妾の加護を受けし者。いかに妾の火と言えど、火である以上そなたを炙ることは適わぬ。――
「何を戯言を!火に包まれて炙られぬ人などと言うものが……おお。言われて見れば確かに……。」
気が付いたタケハヤ。火に包まれているのに熱くなかった。その上、煙を吸っても苦しくない。ただの世迷言だと思っていた加護が本物であったことに感動しつつも、オオトリの意図が読めずに警戒するタケハヤ。
――ほほ……そう警戒するでない。妾の目的はそなたを驚かせることにあらず。見るがよい。この辺りの景色を。――
「辺り?辺りが何だと言うのじゃ?」
今は夜だ。しかも少々の明かりなど意味をなさない森の中。見渡せと言われたところで一体何が見えると言うのか――
「なんとっ!?これは……。」
タケハヤは驚いていた。辺りの木々がことごとく燃えていたのだ。
――ほほ……そなた、言ったであろう。妾に力を貸せと。だから貸してやった。それだけのこと。見よあの荒神めを。――
オオトリが指示した先にいたのはたった今まで猛威を振っていたミズチの姿だ。
だが様子がおかしい。今まで対峙していたタケハヤたちに意識が向いていないようなのだ。
「これは一体?」
――ほほ……あやつは見た目だけでなく性質も蛇だと言うことじゃ。そなたは知らぬやも知れぬが、蛇と申すものは光の他に熱にも頼って周囲の様子を探るものなのじゃ。じゃからこうして、そこを逆手に取ってやれば周囲の状況が分からなくなる。そういうことよ……。――
「なんと……。」
オオトリの放った火炎は辺りの木々に飛び火し、今やこの辺り一帯が火の海と化していた。
そして、その火に紛れて身を隠しているのが今のタケハヤたちなのだ。
(……奴が見た目通り蛇の性質を持つものであるかは賭けであったが、どうやら運は妾に味方したようじゃな。)
当然のように解説しておきながら、実は密かに安堵したオオトリ。
――さあ、そなたの願いは聞き入れてやった。後はそなたの働き次第。もうこれ以上妾の助力が適うなどと思う出ないぞ。――
もはやただの鳥とそう変わらぬ存在になりつつあるオオトリ。神威によって辛うじて美しい見目を保ててはいるが、もう火はおろか、熱を発することもできなくなっていた。
――行け!人の子よ。見事あの荒神めを討ち果たし人の世を救い、後の世にまで残る英雄となってみせよ!――
「はっ!」
オオトリの命懸けの助力と激励に奮起したタケハヤは神剣を手にミズチへと向かって行った。




