第60節 神殺しの皇子 其之九 決死のオオトリ
炎を纏って急降下してくるオオトリの気配に気付いたミズチは空を見上げていた。
(あやつ、今さら何をしようと言うのか。誤魔化しているつもりかも知れぬが、我には分かっておるのだぞ。うぬはすでに神威が尽きかけておるではないか。)
あんな我儘で身勝手なオオトリではあったが、それでも血を分けた妹。
だからそんな妹のことを憂慮したミズチ。
神威を失った神は神ではなくなる。だからこのままでは、あやつはただの鳥としてそう遠くない将来、その生涯を終えることになってしまうのだ。
(それでも来ると言うのか妹よ。……ならばそれもやむなし。もしあやつが我が国の住人になることがあらば、その時は存分に語り合ってくれよう。)
一体何がそれほどまでにオオトリを駆り立てるのか。皆目見当のつかないミズチだ。
「妹よ!自ら死を選ぶと言うのか!よかろう。ならばその願い、聞き届けてやろう!」
ミズチはそう言って、突っ込んでくるオオトリにその顎を向けた。
(苦しませるつもりはない。一噛みで全てを終わらせてやろう。)
だが、ミズチの言葉に反論したオオトリ。
――ほほ……どこまでも愚かなる荒神め。誰が好き好んで自ら命を絶ったりするものか!――
「何?」
――そなたは自分が妾より優れておると思っておるのであろうが、そうはいかぬ。妾を侮ったその罪、あとで後悔するがよい。――
ならば何をするつもりだ!?――左右の首でオオトリの行動を注意深く見定めようとしたミズチ。
だが勿論、タケハヤへの警戒も怠ってはいない。何をしようと無力な人の子であることに変わりはないものの、中央の首だけはタケハヤを睨み付けているのだ。
「御神鳥よ!何をなさるつもりか!?」
タケハヤが叫んでいた。
だが無視したオオトリだ。
(ほほ……黙って見ておれ。今に分かる。)
すぐそこに顎が見えている。もうミズチは目の前だ。
(さあ来るがよいわ。愚かなる荒神め。)
ミズチが首を伸ばしてきた。そして襲い来る牙。
躱す。
もうひと首。
(これさえ!避ければ……。)
オオトリはミズチの大顎をギリギリのところで回避していた。
首二つがこちらを向いていたことは分かっているのだ。分かっているのに避けられないほど耄碌したつもりはないオオトリだったが、それでもギリギリだった。
そしてオオトリは地面すれすれのところで方向を転換。ミズチに背を向けるとタケハヤの方へと進路を変えていた。
「なっ!?御神鳥!?」
不意を突かれて身動きの取れないタケハヤ。
突っ込むオオトリ。
(ほほ……悪く思うでないぞ人の子よ。これがおそらく妾の最後の炎……。)
そして――
「うわあぁぁぁっ!」
オオトリの体当たりを食らったタケハヤは紅蓮の炎に包まれていた。
あらすじで「プロットでーす」とかって言い訳しておきながら、最近描写が細かくなったことに気付いた今日この頃。
そのせいでリソース渇々になっちゃってたのでまた、粒度を荒くします。




