第6節 天の困惑 地の困惑
ミズチは困惑していた。
眠りにつくべく目を閉じてしばらく、最も心地よい微睡みの中に意識をたゆたわせていると、己の頭のはるか上から「ひああああ……」と何かの音がする気がする。
妙な夢を見ている。そう思ってかまわずに微睡み続けているとその音は次第に近づいてきて、しまいにはミズチの頭頂にガツンとした衝撃を与えるに至った。
衝撃を与えた何かはミズチの身体を伝うように弾み転がり落ちると、そのまま地に落ちて止まった。
乱暴な形で至福の時を邪魔されたミズチはガッと目を見開き猛り狂う。
ミズチの眼が、背が燦燦と燃え上がり彼の怒りの咆哮を上げると、それに共鳴するように地が鳴動する。
「何が降ってきたか知らぬが、眠りを妨げられたこの怒りどうしてくれようか。」
そう言って眠りを妨げた物の正体を見極めようと地にあるそれに目を向ける。
砕くか、燃やすか、いずれにしてもそのようなことぐらいでは我が怒りは静まらぬ。
そう思っていたのだが、その正体の予想だにしない形に目が点になる。
「……これは人、か。女であろうか。なぜ空から人が。」
そこに落ちていたのは人の形をした物。
生きているのか死んでいるのか、あるいはただの物なのかは分からぬが、うつ伏せになったままピクリとも動かない。
我がつむりを打った物は別にあるのではないか。そう思い周囲を探してみるのだがそれらしいものは見当たらない。
「では、やはりこやつがそうなのだろか……。」
恐る恐る鼻先でつついてみる。すると、
「ううん……。」
とわずかな声ながら確かに呻くのが聞き取れた。生きている。やはり人か。
「なんじゃ、こやつは。」
先程まで文字通り、地を鳴動させるほどの憤怒の炎に身を焦がしていたとは思えないほどに、目の前にある女の扱いについて困惑するばかりだった。
神々たちもまた困惑していた。
真相を突き止めるためには今一度オオトリを召し出し、事情を聴きださねばならない。
しかし、それは太陽神の御子神であるオオトリの言を信じていないということになり、万が一、我が子が疑われていると太陽神の耳に入ったら、あの純真なお方のことだ。岩屋にでも閉じこもって出てこなくなってしまうのではないか。
かといって、にわかには解決しようのないあまりに不審な証言が、事の真相を突き止める障害になっている。
「知恵神の力を借りてはどうか。」
一柱の神が言った。
知恵神とはその名の通り天界随一の知恵者である。
しかし、知恵が回りすぎるため周囲の者と打ち解けられず、普段は辺鄙な場所に庵を構えて外界との関係を断って暮らしている。
なるほどあのものであれば妙策を授けてくれるやもしれぬ。意見の一致を見た神々は、善は急げとばかりに知恵神の庵へと使者を立てた。




