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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第59節 神殺しの皇子 其之八 タケハヤの野心

(それにしても――)


 一体どうやってあの死角のない巨大な六つの目から逃れて、背後に回り込めばいいのか。――タケハヤは考えた。だが答えは出ない。出るわけがない。

 あの死角と言うものが存在しない六つ目の怪物を相手に後ろが取れるわけがないのだ。

 だが、それでもにやりと笑ったタケハヤだ。


(だだし。それは一人での話ならば、だがな。)


 そうだ。タケハヤにはオオトリがいたのだ。今のところオオトリは自ら手を貸すつもりはないようだったが、それでもずっとこの戦いを見守り、たった今もこうして助言をくれているのだ。

 だったら、もう少しあてにしてもいいのではないか?

 それにタケハヤには、オオトリをあてにしていいだけの理由もあったのだ。それは――


(『人の世を救うために降臨した天津神(あまつかみ)』じゃと?ははは、笑わせおる。あの鳥、上手いこと言ってわしを使っている気になっておるようだが、あまりにも人を見くびり過ぎておる。あんな証拠もないような与太話ごときで、このわしがそう都合よく動くわけがなかろう。)


 道案内の対価としてオオトリの望むようにしてきたタケハヤだったが、「あれを用意せよ」、「これを準備せよ」と、散々こき使われてきた事で果たすべき義理はすでに果たしていると考えていた。

 だから本来ならば、こんな危ない橋を渡れと言われて「はい」と素直に聞かなければならない道理は、すでにタケハヤにはないのだ。

 そう言う算段があったからこそ、オオトリにもっと働いてもらおうと思っていたタケハヤ。

 もしオオトリがその要請を拒否すると言うのであれば――


(――ふん。命あっての物種よ。その時は逃げればよいだけのこと。)


 実はタケハヤは、ずっとそんなことを考えていたのだ。

 己が命を第一にに考える。――それでもこんな死線に踏み入っても尚、逃げ出そうとしなかったのは、タケハヤなりに思うところがあったからだ。


(人の言葉を操る鳥。さすがに只の鳥ではないと思っておったが、これほどの物とはな。ははは。大当たりじゃ。)


 大当たり。それはタケハヤがこれまでに授かった恩恵のこと。

 これまでに授かった恩恵は二つだ。一つは炎や熱が効かなくなる加護。そしてもう一つは――


(この剣。まさしく人知を超えた力を持つ名剣よ。わしは予期せず伝説の英雄となれるやも知れぬ。)


 そう。それがタケハヤが逃げ出さなかった理由。

 タケハヤは人の理を超えた力を得られるかも知れないと考えて、これまでオオトリに大人しく従ってきたのだ。

 とは言え、別に己が功名心に駆られているわけではない。

 タケハヤの想いは、あくまでも己が主君・我が君にあった。己がクニ・ヤマト国にあった。

 だから自分がここで名を挙げれば、我が君の覚えもめでたくなり、さらにはヤマト国の名声も大きく強くなり、今後の使命を果たしやすくなると、タケハヤは考えていたのだ。


(だからわしは退かぬのよ。これもまた天命。邪神よ、我らがヤマト国の(ほまれ)(いしづえ)となってもらうぞ!)


 そうしてタケハヤはオオトリを呼んでいた。


御神鳥(ごしんちょう)!御神鳥よ!申し上げる!」


 そして、空高くに登り過ぎて姿は見えず、声も聞こえているか分からないオオトリに己の願いを声の限り叫び続ける。


「今まで貴鳥のために尽くしてきたわたしでしたが、残念なことに我、菲才にして力及ばず。不惜身命。粉骨砕身。命惜しみをするものではありませぬが、わたしにはもうこやつの背後に回るだけの術が残されておりませぬ。」




 空中高くに舞っていたオオトリは、遥か地上で自分を呼ぶタケハヤの声に耳を傾けていた。


「――こやつの背後に回るだけの術が残されておりませぬ。その大いなる力をもって、どうかわたしにご助力を願いたい!」


(ちっ……あの人の子め……。この期に及んで妾に何をせよと言うのじゃ。)


 いささか不機嫌になったオオトリ。

 タケハヤにはすでに加護と剣。二つの力を与えている。これ以上の助力と言われても神威(かむい)が尽きかけている以上、思うに任せないオオトリなのだ。


(もはや妾に出来ることと言えば、わずかな火を操ることぐらい。)


 だが、たとえどれだけ大きな炎であったとしても、火炎ではミズチは倒せない。かと言って、膂力(りょりょく)で敵うはずもない。だから助けたくともオオトリにはもう打つ手がないのだ。


(じゃが、見殺しにも出来ぬ。あの荒神めを討ち取れる者は、もはやこの地にはあやつを置いて他にないのもまた事実……ううむ……。)


 考えるオオトリ。直接攻撃することはできないにしても、せめてあの六つの目を眩ませてやれればいいのだが……。


(火……火か……。やはり、これしかあるまいか?)


 一応の策を講じたオオトリ。

 だが、そんなことで本当にあの六つの目をごまかせるのだろうか?

 相手はあの荒神。今やあやつは、自分よりもはるかに強大な力を持った地底世界の王なのだ。


(ええい。悩んでいても仕方あるまい。あの人の子が勝つ以外に、もはや妾に生きる道は残されていないのじゃ。)


 オオトリは覚悟を決めると旋回を止め、急降下し始めた。

 目標はミズチとタケハヤのいる森の中。


――ほほ……待っておれ、人の子。今この妾が助けに行ってやるによってな……!――


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