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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第58節 神殺しの皇子 其之七 無限の再生(下)

(そうか!火!火じゃ!)


 オオトリは気が付いた。

 何故ミズチが首を落とされるたびに生え変わらせていたのか。

 それはミズチが火の化身だったからだ。


(おのれ荒神(あらがみ)め。そのようなまやかしで妾を(たぶら)かしおって……。)


 歯噛みして悔しがるオオトリ。あんな図体だけしか取り柄のないと思っていた荒神に、こんな簡単なことで後れを取ったしまった自分が許せなかった。


(ふん。まあよい。ネタさえ割れてしまえば、あのような下手者(げてもの)、妾の剣の敵ではないわ。)


 これで勝てる。――オオトリはそう思いはしたものの、開戦からすでに二刻以上も経過している。

 その間タケハヤは片時も休むことなく、あのミズチと対峙し続けていたのだ。


(おお、いかぬな……早くして諭してやらねば……さすがの人の子も限界に近づいておる。)


 出逢ってから今日までのほんのわずかな期間。しかもただの人の子とは言え、オオトリの片腕の如き働きで、良く尽くしてくれたタケハヤだ。

 ここまで来て、今さらその片腕を失うわけにはいかなかったオオトリは、タケハヤに自分の呼びかけが届く距離まで急ぎ降下していた。


(それにしてもあの人の子、一体どうなっているのかの……。)


 見ればタケハヤは、限界が近いのは確かなようで、肩で息をしており動きにも切れがなくなっていた。

 あの分では、いつあの荒神の必殺の一撃を受けてしまうか分かったものではない。


(これだけの長きに(わた)ってあのような身のこなし……。ふむ……こやつ、まことに人か?)


 飛んで跳ねてを繰り返し、ミズチの三つの首から繰り出される、かすっただけでも致命傷必至の波状攻撃を交わし続けていたタケハヤだ。

 それがもう二刻以上。例えタケハヤが変態的なまでに優れた身体の持ち主であったとしても、ちょっと考えられないような体力だった。




――人の子よ。聞こえるか、人の子よ。――

御神鳥(ごしんちょう)!」


 オオトリが声をかけると、タケハヤは息を切らしながらもはっきりとした返事を返していた。


「何か……あやつのことを何か掴めましたか?」

――うむ。無論じゃ。――

「おお!それは真にございますか?」


 オオトリの返事ににわかに気力を取り戻したタケハヤ。

 朗報一つでそこまで元気になるのか。オオトリはそんなタケハヤの底知れぬ体力に呆れつつも、ミズチの秘密を語って聞かせていた。


――よいか。よく聞け。火じゃ。あやつは火の化身なのじゃ。じゃからいくら斬ってもあやつは死ななかったのじゃ。――

「なるほど!そのような理由が!」


 ミズチの繰り出す攻撃をひらりひらりと躱しながら相槌を打つタケハヤだ。

 たった今まで死にそうになっていたのは、もしや演技だったのでは?と思いたくなるような、快活な返しだった。


――そなた、ムキになってあの荒神めの首を落とす事ばかりを考えておった様じゃが、あやつは火の化身。燃え盛る火炎をいくら薙いでも消すことは適わぬようにあの荒神めの首をいくら薙いでも無駄なこと。そのように思い知るがよい。――


 滾々(こんこん)と自らの推論を言って聞かせたオオトリ。

 だが実際その通りで、ミズチは燃え盛る火から生まれし火炎の神だった。

 火の上辺(うわべ)をいくら薙いでも火が消えることはないように、ミズチの首をいくら斬ろうと意味をなさない。大炎を鎮めようと思えば、その火の元を始末せねばならないのだ。


――分かったか、人の子よ。分かったのであれば速やかに反攻に移るがよい。――


 そう言うとオオトリは再び上昇を始めた。

 下手に高度を下げて、ミズチの一撃を食らっては敵わない。それは前回の邂逅でオオトリが得た教訓であると同時に、心に刻まれた恐怖でもあった。




「なるほど。御神鳥よ。ご助言感謝いたす。」


 タケハヤは上空高くへと再び飛び去ったオオトリの分析結果に合点がゆくと、ミズチの本体である尻尾を狙うため策を立て始めていた。


(御神鳥はああ申されたが……だがどうすれば良いのだ……?)


 しかし戸惑ってもいたタケハヤだ。

 オオトリはミズチの首ばかりを打ち続ける自分を見て、首に執着していると評していたが、実際にはちょっと違っていた。


(ええい!あんな所にある尾をどうやって斬ればよいのだ……。)


 タケハヤが首ばかりを狙っていたのは、他に斬れる場所がなかったからだ。

 ミズチの攻撃はそのすべてが大顎(おおあご)によるものだった。

 三方向から波状で繰り出されるその攻撃を躱しに躱し続けて、一瞬の好機を突いてその伸びきった首を打つ。それが、今までタケハヤが取ってきた作戦だった。


(紙一重で躱せるのであれば、疲労も少なく良い策であったのだが……。)


 その成果か、どうにかこうにか、こうして今まで持ちこたえていたタケハヤだ。

 だが、オオトリはミズチの尻尾を狙えと言う。それこそがこの大蟒蛇(うわばみ)の本体なのだと。


(はは……簡単に申される。もはやわしに残された力も尽きかけておるというに……。)


 自分に残された時間は少ないことを、タケハヤは自覚していた。

 いかに省力策で戦っていたとはいえ、体力は勿論だが、それ以上に集中力が尽きようとしている。

 ミズチの攻撃は、集中を欠いた状態で躱せるほど生易しいものではなかった。


『もう諦めよ人の子よ。一度その身をもって罪を贖えば、我はそれ以上咎めるつもりはない。』

「くそっ!吼えるな!邪神!」


 言葉の通じぬミズチの想いはどこまで行っても、報われることはなかった。


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