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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第52節 神殺しの皇子 其之一

「でぃやあっ!でやっ!でやっ!……だらあっ!!」


 タケハヤが渾身の力を込めて何度も剣を叩き付けると、ようやく相手の首が地に落ちてドスンと音を立てていた。


(よし……やったぞ!あと二つ!)


 自らの戦果をしかと確認したタケハヤ。見れば、落ちた首はメラメラと炎を上げて瞬く間に塵と化しているではないか。


(こんな化け物の如き邪神を(ほふ)らねば我ら人に未来はないとは……。)


 逃げてよいのなら今すぐにでも逃げ出したいタケハヤだ。

 想像していたよりもはるかに大きかったこの化け物。

 オオトリの計略によって不意打ちが成功して首の一つを落とせたとはいえ、これ以上はどうあっても勝てる気がしなかったのだ。

 しかし、自分が逃げれば人の世が終わる。そう聞かされていればこそ、逃げるという選択肢など最初から存在しないわけで……。


(ならばやるしかなかろう。なあに、わしはやる時はやる男よ。こんな化け物、何ほどのこともない!)


 タケハヤは油断なくその化け物を睨み付けていた。

 タケハヤがそんな決死の決意で対峙している化け物とは――それは三首二尾(みつくびふたお)の大蟒蛇(うわばみ)。つまり深い地の底より這い上がって来たミズチのことだった。




 ――それは、今より数日前のこと。


「なんと!それは(まこと)にございますか!?」

――真じゃ……。妾がこの地に舞い降りたるは、そなたら人の子の世に再び訪れるであろう未曽有(みぞう)の危機を知らせるため……。――


 オオトリは自分がこの地上で動き回っている理由をタケハヤに語って聞かせていた。

 勿論、すべてのことをバカ正直に詳らかにするようなオオトリではない。

 地に潜む兄神は人の世に滅びをもたらす邪神。己のことはそんな人の子を憐れんで天より舞い降りた天津神(あまつかみ)。と、こんな調子で(うそぶ)くのも忘れてはいなかった。


――幸い過去の災厄を語り継ぐ集落があった故、贄となる者はそこから出るであろうが……。――

「なるほど、そういうことであったか……。それで……。」


 数日前に出会った老夫婦の娘が贄に選ばれたことと、オオトリの話がぴたりと一致して得心したタケハヤ。


(贄か……。贄の是非についてはわしにも思うところはあるが……。)


 老夫婦の悲しみに暮れる姿が思い出されて、同情を禁じ得ないタケハヤだ。贄などなくて済むのならば、その方がいいに決まっている。

 そう思ったタケハヤだったが、そんな彼もその場の情に流されて判断を誤るほど初心な子どもではない。


(――贄には思うところはあるが、しかしこれもまた致し方なき事……。)


 必要悪。贄一人の犠牲で数多の人が救われると言うのであれば、そうするしかないではないか。

 人が生きるいうことの意味を知っていればこそ、あの老夫婦に心ばかりの気休めの言葉をかけるだけにとどめて今日まで過ごしてきたタケハヤだ。だから今さら反対などと言うはずがないのだ。


「では、その集落から贄が出る。それでこの件は収まるのですか?」


――いや……残念じゃが、もはやあの荒神(あらがみ)……贄だけで鎮まるような存在ではなくなっておるのじゃ……。――

 無念そうにかぶりを振るオオトリ。知らぬ者が見れば、慈愛の化身の如き神鳥が、か弱き人の子のために涙を流しているようにも見えるだろう。


――じゃが、妾は諦めとうはなかった……。か弱き人の子を見捨てとうはなかった……。――


 オオトリは泣いて見せた。

 本当に泣いているかどうかは別として、それなりの役者なのは間違いないようで、だからそれを見たタケハヤは、


(何と……我ら人のために涙まで流してくださるのか。)


 と、その慈愛っぽい仕草に感じ入るばかりだった。

 そしてそんなタケハヤを見たオオトリは、自らの思惑通りに話が進んでいると満足し、いよいよ話の仕上げにかかる。


――そこで、妾はあの荒神めを討伐しうる者を探し回っておったのじゃ……。――

「なんと!神を討つ者ですと!?」


 神殺し。そんなことが(かな)う者がこの地上にいるのか。驚いたタケハヤはオオトリの言葉の続きを待った。

 だが一向に口を開かないオオトリ。黙ってこちらのことを見ているばかりだ。

 オオトリのさっきの口ぶりならば、その「神殺し」をすでに見つけてあると言っているようなものだと思ったのだが……。


「――っ!?」


 タケハヤはオオトリの視線の意味をようやく理解した。この地上に在って「神殺し」が敵う者。それは……。


――ほほ……ようやく悟ったか……。妾はそなたこそ、その役目がふさわしいと思うておる……。――

「わ、わたしが……神殺し、を……?」

――左様……。そなた、自分では気付いておらぬのであろうが、人の子とは思えぬほどの神威をその身に備えておる。その力、妾のために使うて見せよ……。――

御神鳥(ごしんちょう)の……?人のためではなく?」

――も、勿論人の世のためじゃ……。じゃが、人の世のためがひいては天界のため、妾のためともなる……。そういうことじゃ……。――

「なるほど。いささか不躾(ぶしつけ)な質問でした。申し訳ございません。わが身の不明を恥じるばかりです。」

――よい、気にするでない……。――

「しかし御神鳥よ。そのような恐ろしき邪神。わたしに打つことが敵うのでしょうか?」

――無論、そなた一人だけではあの荒神を討つなど適わぬ話であろうな……。じゃが安心せよ……。そなたには妾が付いておる……。妾の神威をもってすれば、そなたを一人前の国津神(くにつかみ)にするぐらいのことは出来る……。――

「神に?このわたしが?」

――左様……。と言っても、一時的にじゃがな……。さあ、そなた、まさか否やはとは言うまいな……。妾と交わした約束、必ずや守ってもらうぞ……。――

「……。」


 突然のことに返す言葉を失っていたタケハヤ。だが彼の答えは決まってた。「はい。」それ以外の返事は持っていない。

 そういう訳で、オオトリの計略にまんまと乗せられたタケハヤは、ミズチを相手に殺神(さつじん)の剣を振るうことになっていたのだった。


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