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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第二章 新たなる時代
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第45節 不惑の大蛇

 侍女神への想いとは何だったのか。

 自分の気持ちすら分からなくなったミズチは一人うなだれて、侍女神らのいる宮殿への帰路についていた。


「やはりこの想いは恋慕などではなく、侍女神に母上を求めて……いや、そんなはずはない。これほどまでに熱いこの気持ちが母を慕う幼子の如きものであるはずがない……。」


 何やら独り言を絶やすことのないミズチ。

 どうあっても叶わぬと知らされた慕情から来ているこの悩み。本来ならじっと黙りこんで悶々としている方が様になりそうなものだ。だが、ミズチがそれをすることはなかった。

 そもそも鬱々と悩むのは彼の性分ではないのだ。だから彼は彼の生涯の中で一番と言っていいぐらいに悩んではいても、結局塞ぎ込むということには至らなかった。


「むむう……。我は……我はどうすればいい?どうすれば我が想いが叶う……?我は侍女神を求め、侍女神も我を欲しておる……。ならばそれで丸く収まりそうなものではないか。だが侍女神は泣いておった。火と木?それが一体なんだというのだ。侍女神が木で我が火で、いやそれ以前にこの想いは母への……ああいや。違うそうではない……。」


 ミズチは悩むのが下手だ。結局一晩雨に打たれながら悩み抜いたところで、寒いばかりで状況の整理すら満足にできていなかった。

 だが実際、彼は悩むことに倦んでもいたのだ。先も言ったが、元々の性格からして鬱々と考えるよりも、動きながらふとした閃きを得ることを得意としているミズチのことだ。そんな彼が、良くもまあ一晩もじっと雨に打たれながら悩み抜いたものである。

 しかし性分とは恐ろしいものである。ただ雨に打たれて悶々としているときには全く浮かんでこなかったことが、こうして宮殿に向かって歩いていると、浮かんできたのである。


(ん……?そうか……。そうじゃ。我ながら何と愚かな……。)


 ミズチはそのことを思い出すと、居ても立ってもいられなくなり足を速めた。

 勿論、この問題を解決できる妙案が浮かんできたわけではない。ミズチが思い出したのは、ある言葉だった。


(悩み事があるのなら一人で悩まずお話しください。)


 それは、かつて侍女神がかけてくれた言葉だった。思えば、それは彼女がミズチを気遣ってくれた最後の言葉だったかも知れない。だが今はそんな感傷に浸るつもりなどないミズチ。


(一人でダメなら二人。二人でダメなら三人じゃ。我らは今までもそうやってきたのではないか……。)


 そう。ミズチの拙い頭でどれだけ考えた所で、全部が丸く収まる方法など思い付くはずなどなかったのだ。


(まさかこんな時まで侍女神の世話になろうとは……。)


 愛しい(ひと)の言葉に感謝するミズチ。だが、さすがに今回の件を侍女神に相談することなどできようはずもない。しかしミズチにはまだ頼れる友が一人いるのだ。


(宰相殿!智者の宰相殿であれば、きっと何か良い案を示してくれよう。)


 宰相は元々人の身ではあるが、ミズチ、侍女神と共にこの国の建国に携わった盟友だ。このクニで唯一の生ある者であるミズチしか必要としていない食事にも毎回のように付き合ってくれていたし、最近は少しずつではあるが遠慮のない物言いをするようにもなっている。勿論、侍女神との親交も深い。ならばこれはもう神と人の垣根を超えた友のようなものではないか。


(宰相殿でもダメならまた他に相談できそうな者を当たるまでじゃ。人の数だけ知恵は増えるものよ。)


 ミズチは頭を上げていた。気が付けば、宮殿はすぐそこまで迫ってきている。その建物は、いつもよりもくすんでいるように見える。

 だがミズチは悲観しない。そんなことをしている暇などない。ミズチは使命に燃えていたのだ。


(今度こそ我が……この地底に巣食う大蛇(おろち)、地底界の(こにしき)、業火の化身、アラダマノホデリミズチノミコトが、侍女神ククチビメの笑顔を取り戻さねばならぬ。)


 そしてそれが叶った時、きっと我らの間にある問題も解決しているはず。

 その時が来るまでミズチが下を向くことはもうない。


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