第41節 悲嘆
ミズチと侍女神。――双方想い合いながらもそれが決して叶わぬ悲運であったことを突き付けられたあの日から数日。
「――うぬっ!――ふぬっ!」
ミズチは何もかもを忘れようと一心不乱になって働いていた。
誰よりも大柄で、基本的に頭を使うよりも体を動かすことを好むミズチだ。そんな彼の主立った仕事は未開地の新規開拓や灌漑用水路の新設。要は土木工事の実作業担当だ。
仮にも一国の大王のする仕事ではないような気もするが、頭を使う作業は宰相と侍女神に任せていれば上手いことクニも回せていたため、これも適材適所の結果だと言えよう。
(くそっ!なぜ!どうして!どうして我はこんなことに……!)
大地に深く根付いた木の幹を圧し折り、根を掘じくり返す。――まだ開拓の予定のなかった手つかずの地を、体格に物を言わせて強引に更地に変えて行くミズチ。
あの日以来、侍女神とは顔を合わせてはいない。今の彼女は日々の業務をこなすとさっさと自室にこもってしまって、それまでの習慣だったミズチと宰相の三人で食事を取ると言うこともしなくなっていたのだ。
――喜んでお受けしたのですが……。――
少しでも手を止めると、あの時の悲しそうな侍女神のことが浮かんでくる。
思いは一緒だったのに結ばれない。――こんな思いをするぐらいなら、なぜ自分は彼女に想いを寄せてしまったのか。理屈では説明できないのが愛情と言うものだと、ミズチは分かっているのかいないのか。
「くそっ!この木めが!なぜ折れぬ!」
ミズチは自身の目の前に立ちふさがった一等大きく成長した木を、渾身の力で圧し折りにかかっていた。だが神威の封印によってすっかり萎んだ体では、かつてのように赤子の手をひねるかの如く簡単に、と言うわけにはいかない。
――そう。わたくしは木樹土比売。木と土を司る神にございます。――
侍女神の言葉が思い出されて動きを止めるミズチ。
侍女神は木と土の神。つまり考えようによってはこの木もまた侍女神自身であるとも言えるのだ。
木を傷付けると言うことは、侍女神を傷付けると言うこと。そう考えてしまったミズチはそれ以上力を籠めることができなくなっていた。
「侍女神よ……済まぬ……。」
ミズチは働くのをやめた。どうせもとより予定されていない開拓だ。やめたところでミズチを責める者はいない。
そして天を仰ぐミズチ。太陽もないのになぜか昼夜が巡るこの不思議なクニの空は、相変わらず澄み渡った青色を湛えていた。




