第30節 憎念飛翔
長き眠りから醒めたオオトリは大空を行きながら考えていた。
(まずは兄神を何とかせねばならぬ。)
オオトリは忘れていない、自分の目的を。――オオトリの目的はあくまでも天界復帰にある。そしてそこでのうのうと暮らしている自分を追放した憎き八十神どもを一柱残らず放逐する。それが成った時初めてオオトリの目的が完遂されたと言えるのだ。
だが、そのためにはまず天に昇るだけの力を手に入れなければならない。
だからオオトリは兄神のミズチを頼った。兄の助力を得れば天に帰ることができるだけの力が手に入るはずだった。
しかしようやっとの思いで邂逅を果たした兄神は猛り狂うばかりの荒神で、とても話の通じる相手ではなかった。
(許せぬ。如何に同じ母を戴く兄神とは言え、妾をあのような目に……。)
あの邂逅のことを思い出すたびにオオトリは恐ろしさに震え、悔しさに歯噛みしていた。
だからオオトリは決めたのだ。永久とも思えるような微睡みの中で、あれをどうするべきか決めていたのだ。
(弑してくれよう。)
そしてあの力を我が物とする。
あれが本人にも御し難いほどに荒れ狂う神として生まれ落ちてしまったのであれば、その方があれのためともなろう。
(しかしそのためには準備が足りぬ。)
できれば一刻でも早くあれを楽にしてやりたいという慈愛の気持ちを堪えてオオトリは思った。
地の底深くに潜むあれを呼び出すことだけならば、再び人の子を用いれば容易くもできようが、あれを討ち取るとなるとこれは生半なことではない。
(今のこの体では……。)
オオトリは自分の体を顧みていた。
長き眠りの中で気が付けばオオトリの体は一回り以上も縮んでしまっていたのだ。元々の優美さこそそのままだが、かつての雄大さはどれだけ失われてしまっただろうか。体の縮小化はそのまま神威の縮小化と見ることができる。
そんなじり貧になりつつあるオオトリに対して、あれは再び地の底に潜ってかの地の力を我が物としているはず。あれは以前よりもますます大きく強い神威を手にしていることだろう。
力の消耗を惜しむあまり時の流れに身を任せての治癒を選択したが、失策だったやも知れぬ。邂逅した時でさえあれほどの力を有していたとなれば、今のオオトリではどうあっても太刀打ちできそうもなかった。
(ええい。口惜しや。)
オオトリは折角目覚めてもすぐには行動を起こせないことがに焦れた。
しかしこれだけの時を耐え忍んだのだ。今さらもう少しの我慢ができぬ妾ではない。
(見ておれ。高尚なる妾を侮る下郎匹婦どもめ。妾に歯向かう者は目にもの見せてくれよう。)
悠久の時を超えて再び憎悪の炎に身を包んだオオトリはそうやって彼方へと飛び去ってゆく。




