第3節 天の暮らし 地に根付く大樹
この奇妙な地を探索して分かったことがある。
まず、この地には治める者、王と呼べるような存在がいない。
ここに暮らす者たちは各々好き勝手にやっているようだが、かといって諍いがあるわけでもなく、そもそも互いのことに関心がないようにも見えた。
また、皆うすぼんやりとして輪郭が定まらず、触れようとしてみても霞のように散ってしまい触れることができない。
無理に触れようとすると先に出会った農夫のように気が付かぬうちに彼方へと移ってしまう。
彼らは自らに課した仕事を淡々とこなし、眠るを繰り返すばかりで、なぜそれをしているのかと問うても、聞かれている意味が分からない、といった感じだった。
大抵の者は田畑を耕しているようだが、中には機織、木工なども数は少ないがいる様子だった。
また、地の底にありながら辺りがはっきりと見渡せる理由は光る木の根にあった。
非常に大きなもので、上は靄ががっていて見通すことができなかった。
この樹が大きく根を張って地の底にできた空洞であるこの地の天を支えている。
これほどに大きな根であれば、地上に顔を出していてもよさそうであったが、そのような大樹を見たことはついぞなかった。途中で朽ち折れているのかもしれない。
「母神に会えない悲しみから地に潜ったが、よもやこのような場所に出くわすとは……。」
この地に留まり力を蓄えればいずれ天に昇るだけの力を得られるかもしれない。ミズチはそう思った。
天上の暮らしは快適であったが同時に退屈でもあった。
毎度の食事は黙っていても出されるが、口に合わぬものも多かった。
その度に下女どもに注意を促していたが、あれらはただただ平伏し許しを請うばかりで、次第に相手をするのも馬鹿馬鹿しくなり、その内、こちらもただ黙ってつき返すばかりになった。
いくつか任された役目も、どれも取るに足らないような些事ばかりで、役が足りていないものばかり。
手早く済ませては分吏に引き渡し、空いた時間を持て余してばかりになっていた。
そうして散策などしていると方々で官吏どもが仕事をしているのが見られるが、どうにも手際の悪さが目につく。
(このようなことでもただ散策して時間をつぶすよりは退屈せずに済むか……。)
こうして、オオトリは無駄の多い仕事に助言をして回ることを日課とした。




