第25節 ミズチの狙い
空はすでに暗くなり、辺りに焚いた篝火のその熱を肌に感じながら三者はそれぞれの立場で儀式に臨んでいた。
「それにしても随分簡素な儀式ですね。」
ミズチの行っている儀式を眺めながら宰相は隣にいる侍女神に聞いた。
「ふふ……。そうですか。」
「はい。神の力を封じるものとしてはあまりに簡単に思えるのですが。」
もっと盛大で大掛かりなものを期待していたらしい宰相が儀式から視線を外すことなく答えた。
今回の儀式のために用意された物はどこにでもありそうな机と見紛うばかりの祭壇と、その祭壇の上に三つの器となる物。ただそれだけだった。
その器となる三つでさえもまだ素材がそのまま置かれているだけなので、一見した限りではケモノの牙と枯柴と髪束が机の上に置かれてるだけ。と、まるで不用品の棚卸でもしているかのような光景である。
飾り気も何もないその風景は、ともすれば儀式にすら見えていないのかも知れない。
「……本来であれば儀式なんて必要ないのですよ。」
侍女神は何とも機嫌良さそうに答えた。
「そうなのですか。」
「考えてもご覧くださいな。当たり前の神であれば、要らぬと覚悟を決めるだけで捨て去れるのが神の力という物なのです。それがいくらミズチ様の持つ力が大きなものだからと言って、このように大仰なことをしなければならない道理なんてありはしませんわ。」
その通りなのかも知れないが、それでも自分の中に神の力の強弱の基準など持ちようのなかった人間の宰相は、言われなければ分からぬことだよなと思ったりした。
「それではなぜ、ミズチ様はわざわざこのようなことを。」
「さあ、なぜでしょうね?」
分からない。と、そう答えながらも侍女神はなんとなくミズチの心境を察していた。
ミズチは侍女神にカッコ良いところを見せたいのだ。我はこんなにも畏まった儀式ができるのだぞと。
(うふふ……。)
そんなミズチの心の内を察してしまった侍女神は可笑しいやら可愛いやらといった気持ちでミズチの儀式を眺めていた。




