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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第二章 新たなる時代
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第23節 封印の相談

「なんですと!」

「まあ……。」


 ミズチの提案が聞いていた二人を驚かせた。

 今はすっかり夕餉時。

 この地の底の仕組みは一体どうなっているのか、朝になれば陽らしきものが空高くに輝き、夜になれば月らしき物が暗闇に希望をもたらした。

 ここには朝昼夜もあれば雨も曇りもある。

 未だに仕組みがよく分からないまますっかりここの暮らしにも慣れ切ってしまっていた二人と一頭は薄暮と焚火に照らされた宮殿の庭で座になっていた。

 ここは死者の訪れる地。宰相殿と侍女神は共に死せる者である以上、食事は趣味や道楽の域を出ないが、ミズチは生きながらにこの地に参った生ける者、即ち食事は必須のことであった。

 嘗ては一人で勝手に食事を取っていたミズチであったが、何とも味気なさそうに食事を取るミズチの背に哀愁を見た二人はそんなミズチに合わせてともに食事を取るようになっていたのである。


「そんなことができるのですか!」

「本当によろしいのですか?」


 二人は驚いた要所が違っていたようで、それぞれの気になった点をあげつらっていた。


「うむ。我はもはやこの神威に未練はない。」


 ミズチが二人に相談したこととは己が力を捨て去るべきかということだった。


「我が力はあまりに大きすぎる。それは嘗て地上に昇った時に痛いほど分からされた。」

「それは……。」


 宰相はミズチとオオトリの邂逅の際に地上で起きた被害について詳細に見知っていた。

 ここの宮殿に覆いをかけられて安置されていた鏡。それがどういう謂れのある物かは不明ながら、その鏡に向かって念じれば、見たいと思ったあらゆる風景が鏡に浮かび上がるのだ。


「そんなことをすれば太陽神様にお会いできなくなってしまいますよ。」


 侍女神はミズチの目的である天界登昇について言及した。


「それはもうよいのだ。我はこの地に安息を見つけた。母神に会えぬのは確かに淋しいが、それでもそなたがいてくれれば我はそれでよいと思っておる。」

「まあ……。」


 ミズチは普段から侍女神に対する好意をあらわにすることはないのだが、こういう時にぽろっと本音が出てしまうようで、それを聞いた侍女神は困ったような嬉しいような複雑な表情を見せた。


「我がクニ造りに協力してくれた二人には申し訳ないとも思っておるが……。」


 この二人がいなければこのクニがここまで国家の形を成すことはできなかったであろう。

 二人の助力が徒労になってしまうことをミズチは詫びた。


「いえ、そんなこと……。」

「私は死して後もこのような大役を任せられるとは思っていなかったので、クニ造りに関われるなどむしろ光栄なことだったのです。」


 頭を上げてくださいと二人は言った。


「しかし、捨てると言いましても神の力とはどのようにすれば捨て去れるのですか。」


 宰相が訪ねた。


「む。そうか、宰相殿は知らぬか。」


 人の身ではさもありなんとしてミズチは教えてくれた。


「神の力とは捨てるという覚悟を持ちさえすれば捨てるのは簡単なのだ。そうしてただのヒトとして生きてゆけばそのうち老いて死ぬ。」

「なんと、そんな簡単に?」


 想像以上に簡単な回答に宰相は驚いた。そんな宰相に対しミズチは「まあ我の如き者は力を捨てたところで『ヒト』としては生きられぬがな。」と三つの首で笑った。


「しかしな、それは当たり前の神の話よ。我の如き強大な神威を持つ神はそう簡単には行かぬ。」

「ではどうするのですか?」

「うむ。それはな、単純に捨てるのではなく、何かに移してしまおうと考えておる。」

「そんなことができるのですか。」


 力を移す。一体どうすればそんなことができるのか。人間に置き換えて考えてみても全く想像がつかない宰相は聞き返した。


「ええ。それは確かに出来ますわ。」


 その疑問に答えたのは侍女神だった。


「なんと……人の身にはつくづく分からぬことだらけですな。」


 先ほどから疑問と驚きばかりの宰相殿だが、人の与り知らぬ神の理の話なのだから、これは仕方のない事だと言えよう。


「ですがミズチ様。ミズチ様ほどの力を籠めて無事でいられる物など一体どこにあるというのでしょうか。」

「それよ。確かに我も悩んだ。」


 ミズチは侍女神に同意した。

 入れる器が小さければ力に耐えきれず砕けて終わる。そうして弾け散った力は最終的にはミズチへと戻るが、その道程で周囲に甚大な被害を及ぼすだろう。


「そんなことになっては折角ここまで育てたこのクニが……。」

「まあ、聞け。」


 宰相の懸念にミズチは自信ありげに続けた。


「我は悲観しておらぬ。まず、我が力は三つに分けてしまおうと思っておるのじゃ。」

「まあ、三つに。」

「うむ。ただ三つに分けるのではないぞ。三つそれぞれに特徴を分けて封じるのじゃ。火に強い物に火の力を封じるといった具合にな。」

「あら、それでしたら……。」

「できると思うか?」

「はい。名案だと思います。」

「そうか。」


 ミズチは侍女神の賞賛に満足した。


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