第19節 兄と妹 それぞれの思惑
ミズチは地上へと続く長い洞穴を進みながら考えていた。
(侍女神よ。)
我はこんなに落ち込んだ侍女神を見たくはなかった。
何とかして侍女神の気持ちを落ち着かせてやりたかった。
しかし、我もまたオオトリと同じ火より生まれ出でし火を司る神。
いま我が彼女に傍に居れば、むしろ焼かれた時の記憶を鮮明に蘇らせてしまうだろう。
(ならば我が今すべきことは――)
妹神。
ついに一度も顔を合わせることなく生き別れになった、自らの半身ともいうべき存在。
それが何を血迷ったのか天界に昇った奴はあろうことか侍女神を殺害し、その咎で地上に追放された。
そして奴はそのことを反省するでもなく、我が力を借りてまた天界に昇ろうと画策している。
得られた情報を整理するとこんなところなのだろう。
(待っておれよ。我が妹神。)
ミズチは轟々と燃え盛る感情を胸の奥にしまい込んで地上へと急いだ。
地の底深くから何か大きな力が湧き登ってくるのを感じたオオトリは興奮を隠せなかった。
(いよいよ……いよいよよのう。)
兄神がやってくる。妾に会いにやってくる。
分かる。分かるぞえ、兄神の力が近づいてくるのが。
オオトリは直ちに飛び立つと兄神の力を最も強く感じる場所の上空を旋回し始めた。
(ほほ……これでいよいよ妾が天界に復帰できる時がやって来たのじゃ。)
見ておれよ、あの忌々しい八十神どもが。妾を天界より追放したことを後悔させてやろうぞ。
そうして飛び上がった空は見渡す限りどんよりと立ち込めた黒雲が月光を遮り、完全なる漆黒の世界を作り出していた。
その黒雲と地の間を多くの雷神が行き来しては山が震え、野森からは異変をいち早く察知した多くの鳥獣が我先にと遠くへ遠くへ逃げ惑っている。
先ほどまであれほど鬱陶しくまとわりついていたヤマドリども、何処へと飛び去ったのかもいつの間にかオオトリは孤独になっていた。
(そうよのう。我ら兄妹神の感動の対面なのじゃ。第一声は何としてくれようかの。)
そんなつまらぬことに気を回して浮かれているオオトリとは対照的に、辺りはついに山が割れ赤く猛る光がチラチラと垣間見えては漆黒に包まれた地上の形を一瞬だけ赤く照らす。
(ほほ……。兄神とはこれほどの力を持つものであったか。)
これならば必ずや妾は天に昇るだけの力を得ることができる。
オオトリは眼下に広がったこの世の終わりのような光景にも心を痛めることなく、むしろ心躍らせて兄神の到来を待っていた。




