第16節 底の蛟 上の鳳 二柱を繋ぐモノ
「そなた容赦がないのう。我はあの太陽神の御子神なるぞ。」
「ええ。ですから率先して民に範を示さねばなりませんよ。」
ミズチは土まみれで文句を言いながらも土を掘り進めていた。
――民を動員できないのであれば、我々だけでやるしかありません。――
侍女神はそう言って、灌漑用水路の施設の計画を立てた。
そして、ミズチは言われるがままにその巨体を生かして水路を掘り進めている。
「こうしてわたくしたちだけで事業を進めておけば、余った分でたとえささやかでも祭もできるかもしれませんよ。」
「なるほど。それはそうかもしれんが……。」
祭はミズチが思い付きで言い出したことだけに、そこを突かれると黙って従うしかない。
「ああ、いけません。そこは行き過ぎです。」
「むう、そうか?少しぐらい行き過ぎても良いのではないか。」
「いいえ。いけません。」
侍女神の厳しい指導に文句を言いながらも楽しそうなミズチ。そのミズチを見て微笑む侍女神。
(ああ、なんじゃろうなあ。この温かい気持ちは。)
侍女神が来てから毎日が楽しい。ずっとともに在りたい。
ミズチの中で日に日にその気持ちが強くなってゆく。
「さ、もうひと踏ん張りですよ。」
手を止めて侍女神の様子を見つめているとそう催促される。
彼女の指示なら、たとえどんな苦役でもやるかと作業に戻ったその時、突然強い衝撃がミズチの背中を襲った。
「なんじゃ!」
瞬時にカッと頭に血が昇って、おのれの背中に衝撃を与えた何かに向かって三つの首すべてで威嚇するミズチ。
ミズチの怒りに呼応してぐらっと地が揺れた。
「きゃ……。」
侍女神はぐらつく地面に足を取られてミズチの体に張り付いて揺れを堪える。
ミズチは自分の怒りのせいで侍女神が難儀していることに気が付いて怒りを収めようと努めたが、なかなかどうして一度火が付いた怒りを鎮めるは難しかった。
(何か知らぬが我を打ちつけるとは許しがたき愚行。)
しかし、ミズチはその不届きモノの正体を見るとすっかり怒りを忘れ、地の揺れもおさまる。
「むっ。」
侍女神は地の揺れが止まるのを待ってミズチから離れると落下物の元へと足を運んだ。
「あら?」
と侍女神。
二柱の視線の先にはある物は人だった。侍女神の時と同じに天から人が降ってきた。
オオトリはもう何度目かの威嚇を以て、集結しつつあるヤマドリどもを追い払った。
(羽虫どもが鬱陶しくてかなわぬ。)
何度追い払ってもしばらくするとまた群がってくる。
ヤマドリと言いながらもこのしつこさ、実際には羽虫のごときではないか。
(大方、妾の美しさに当てられたのであろうが。)
オオトリはうんざりしながらも、ならば仕方のないことかと諦めかけるのだが、
「ええい、寄るでない。」
威嚇ついでに、舞い上がった羽毛を焼き尽くす。
ヤマドリが集まってくると方々で行われるオス同士の諍いが煩い上に彼らの羽毛が舞い散るのが不快で仕方がない。
(兄神よ。早う妾に会いに来てたもれ。)
オオトリは何度散らしてもすぐに集結するヤマドリに辟易しながら兄の到来を待った。




