第114節 後日談(三) そして物語は続く……
「貴様の謹慎を解く」
「ほ? 今、なんと?」
退出しかけたオオトリの脚を止めたのは、それまでほぼ喋ろうとしなかったミズチの一言だった。
「ムジナの願いを聞き届けろ。そうしたらお前の謹慎を解いてやる」
「……」
オオトリは値踏みするような眼差しで兄神を見た。
ミズチは眉一つ動かさず、ただ鏡に映し出された惨状を見つめるばかり。
「それはまことじゃろうな?」
「おれはこのクニの王。王の言葉は絶対だ」
「……ふうむ、まあわるくはないかもしれんが……」
ミズチの言葉に、オオトリは思案した。
ムジナの手前、「たかが人の子一匹」とは言い放ちはしたものの、その実ヒムカイのことが気になって仕方がないと言うのが、オオトリの本音だ。
――つまりオオトリにとってのこの取引は、自分のお気に入りを助けてやれる上に謹慎も解けてしまうという、これはもう受けない手はないほどの破格の好条件だった。
「ほほ……まあよかろう。そのはなし、わらわ、かくべつのおんじょうをもってのってやろう」
オオトリはこの期に及んでもまだ勿体をつけて、この話を呑んだのだった。
――オオトリはヒムカイを蘇生させた。
それはヒムカイを取り巻く人たちの献身や幸運も重なった結果だったとは言え、オオトリの力添えがなければ叶わぬことであったのは間違いない。
だからミズチは約束通りオオトリを放免し、彼女は晴れて自由の身となったのだが……
最近オオトリは塞ぎ込んでいることが多くなっていた。
「……わらわはいったいなにものなのじゃ……?」
あれほど望んでいた自由を手に入れたと言うのに、部屋から出ようとせず、鏡台を前に自問自答を繰り返す。
彼女がおかしくなったのはヒムカイを取り巻く環境を知ってからのことだ。
「わらわもひめ。あのものもひめ……なのにどうして……?」
もはや人の子だからなどと侮る気も起きない。
それほどまでにヒムカイの周りには光が溢れていたのだ。
「もしや、わらわは……」
――間違っていたのでは?
その言葉が脳裏をよぎるたびに、オオトリはブンブンと頭を振った。
――いいや。そんなはずがないのだ。なぜなら自分はあのオオミカミの子だから。天上天下において唯一無二の尊き存在である母神の子であれば、当然同じように尊く扱われなければならないはず。
ではなぜ、そんな自分の周りには光がないのか?
「……わらわは……わらわは……いや! わらわはなにもまちがっておらぬ!」
懊悩することに耐えられなくなったオオトリは立ち上がり叫んだ。
自分が本当に欲しかったものはその先にしかない。――オオトリがそのことが分かるまでまだもう少しだけ時を必要とするようだ。
しかし、そんなオオトリの成長を、この世界は悠長に待ってはくれないようで……
――ある日、事件は起こった。
この地底世界を地上と同じように明るく照らしていた神木が突如として光を失ったのだ。
<了>
元々投稿テストとしてリリースしただけの処女作ですが、
予想に反して完結まで実に2年以上の時を要することになりました。
これにて二柱の兄妹神のお話は完結です。
長い間、ありがとうございました。




