第112節 後日談(一)
ネノクニに落とされたオオトリの骸から魂が抜け出た。そのことをムジナが知ったのは、オオトリの骸がチリと消えた翌日のことだった。
「入るぞ」
と、ムジナが告げたのは、最近覚えた「ノック」と言うものを試したと同時のことだった。
なんでもこうすることで、部屋の主に来訪を知らせることが目的らしい。
しかしムジナ。慣れない作法に気を取られたせいで、返事を待たずに部屋に入ってしまい、そうなっては、せっかくのノックの意味も半減すると言うもので……
「な、なんじゃそなたは? ぶれいな!」
案の定部屋の主は、許可も得ずに部屋に踏み入ってきたムジナをきつく咎めていた。
しかしムジナは、そんな非難もどこ吹く風。遠慮なしに部屋の様子を見回すと、
「ここがお前の部屋か。いい部屋だな」
と、心にもない世辞を言っていた。
しかし部屋の主、この世辞にかえって気分を害したようで。
「だまれげろう! いいへやじゃと!? こんな小さくみすぼらしいへやのどこがいいのじゃ!」
「気に入らないのか? 以前のお前なら不足だろうが、今のお前にはぴったりだと思うがな」
「うるさいわ! だれのせいでこうなったと思っておる!」
激昂した部屋の主は、鏡台の上にあった櫛を投げつけた。
しかしムジナは動じない。
それどころか、彼は避けるまでもなく明後日の方向に飛んで行く櫛を無視すると、鼻で嗤うのだ。
これには部屋の主、ますます激昂してしまい……
「な!? なんじゃそのたいどは!? そもそもだれのゆるしをえてあたまをあげておる! ぶれいじゃぞ! ひれいじゃぞ! 分かったら今すぐこうべをゆかにこすりつけい!」
「やれやれ……」
ムジナはあまりの剣幕に肩をすくめた。
肉体を失ったことで少しはアクが抜けるかと思ったが、ここの部屋の主ことオオトリはそんなことぐらいで改心するようなタマではないようだった。
「実はお前の兄貴からお前のことを頼まれてたんだが、この様子じゃオレの出番は当分なさそうだな」
「そなたのでばんなど、とうぶんどころかえいえんにないわ! ようがないならいね! ここはそなたのようなげろうがおいそれとふみ入ってよいばしょではない!」
部屋を追い出されたムジナは、今になって驚愕をあらわにしていた。
魂は人の形をとるとは聞かされてたが、まさかあんな奴が正体だったとは……
それがムジナが驚愕した理由。今のオオトリは人の形をしていたのだ。
それもただの人ではない。
小さな子ども――まだ十にも満たないような小さな童だったのだ。
常人と違うのは、大怪鳥時代の名残なのか髪の色が鮮やかな緋色だと言う点だけ。
彼女はその髪を後ろで束ねて結いあげていて、わずかにこぼれたもみあげは縮れて巻き毛を形成していたのだ。
「オレは……いや。オレたちは一体何者に振り回されてたんだろうな?」
今日ここに至るまでの経緯をすべて知ってしまったムジナは虚しく天を仰いだのだった。




