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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第四章 地底
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第107節 ムジナとオオトリ(一)

 待ちきれなくなったオオトリがムジナを迎えに飛び立った時、彼はそれよりも一足早く地上に帰還していた。


「久しいな……」


 地底世界のそれとは明らかに違う太陽の輝きに目を細めたムジナ。


 懐かしい。――それほど長い間地底に潜っていた自覚はないが、それでも地底では味わえないこの温かさは、郷愁の念を駆り立ててくる。


「いや。今はそれどころじゃないな」


 ムジナは気を引き締め直すと、ミズチより授かった三種の神器のうち、弓と琴の二つを隠した。

 そして、間もなくオオトリが天空より現れ出で――




「剣だけかえ? 三つあると聞いておったが」

「それだけだ」


 神器が一つしかない。そのことを訝しんだオオトリに、ムジナは冷淡に答えた。


「……まあよい。見たところ十分な力を持っておるようじゃしのう」


 納得したオオトリ。

 彼女はムジナから剣を受け取ると、そのまま飛び去ろうと背を向ける。


「おい。約束を果たせ」


 ムジナはオオトリを呼び止めた。

 依頼を果たしたら蘇らせる。元々そう言う約束で引き受けた仕事だ。

 するとオオトリ、そんな約束もしたなと今さらながら思い出したようで……


「おや? ほほ……忘れておったわ。そうじゃの。そなたはよくやった。褒美を取らすぞ」


 オオトリは上機嫌にそう答えたのだ。


「ほれ、受け取れい」


 そう言って目を細めたオオトリ。

 すると、次の瞬間ムジナの身体からブスブスと煙が立ち始める。


「な!? なんだこれは!?」

「ほほ……今までご苦労じゃった。そなたにはもう用はない故、我が褒美、ありがたく受け取るがよい」


 驚いて見せたムジナに、オオトリは嘲り笑って答えた。


「話が違うぞ!」


 そう言っているうちにもムジナの身体から出た煙は黒さを増し、チラホラと火が見え始めている。

「ほほ……人の子風情が。妾がまことにそなたを生き返らせるとでも思ったか? それはかつてそなたが妾を射抜いた報いと心得よ。苦しまぬようにしてやった故、そのまま焼け果てるがよいわ」


 オオトリは、射抜かれた憎しみと復讐を遂げた愉悦、二つの感情の相混じった目をムジナに向けると、彼に背を向けたのだった。


 ふん。やはりな。そんなことだろうとは思ってたが。――わざとらしく驚いて見せた半面、ムジナは内心では自分でもビックリするほどに冷静だった。


 今、ムジナの体が燃えているのは確かだった。

 しかしそれでもオオトリは慈悲のつもりなのか、はたまた仮初の体だからなのか、別に熱くはない。

 それどころか、この体が燃えれば燃えるほど、心は冷たく静かになるのだ。


 今、自分がなすべきことをしろ。――心から湧いてきた言葉に従ったムジナは、背に隠し持っていた神器・生弓を取り出すとそのままオオトリに向けて矢を番えたのだった。


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