第105節 三種の神器
「これが貴様が探していた物よ」
「は?」
ミズチの言わんとすることが理解できなかったムジナは、自分でも信じられないぐらいに間抜けな声を出していた。
「だからそこにある三つの物こそが、貴様が間が探し求めていた我が神器だと言っておる」
「な……に?」
「ここまで言っているのになぜ分からん? もしや貴様、ヒトの善意に慣れておらんのか?」
急に呆けだしたムジナに、ミズチは呆れるよりほかになかったのだった。
「貴様はこの三つの神器を持って地上に上がり、建琴は木の洞に、生弓は背に隠せ。そしてこの生刀だけをオオトリに渡すのだ」
ミズチは己の想いをムジナに打ち明けていた。
ムジナが半死人となって今この地にいるのも、すべて妹の野望の為。兄としての責任を感じているミズチだ。
だからこそ、己の神器を渡そうと決意したのだ。
「――あ奴が貴様との約束を果たすのであればそれでよし。残りの二つは貴様の思うようにすればよい。しかしな。もし奴が約束を違えるようなことがあれば、貴様はその生弓と建琴を用いてオオトリを討て」
「いいのか?」
その言葉に驚いたムジナ。
オオトリを討つと言うことは殺害すると言うこと。同じ妹を持つ者として、とても信じられなかった。
「構わぬ。すべてはあれの野望から出たこと。いい加減責任を取らせる必要がある」
「……」
ミズチの冷めた態度に何も言えなくなったムジナ。
自分は兄としてどうだっただろうか? 引っ込み思案でいつも誰かの陰に隠れていた妹だったが、そうなってしまったのは自分の育て方が過保護だったからじゃないだろうか?
「どうした? 急に塞ぎ込みおって」
「あ、いや。なんでもない」
訝しむミズチの言葉に、ムジナは気を持ち直した。
今はそんなことを考えている時じゃない。反省なんか後でいくらでもすればいいのだ。それよりも今はミズチから神器を受け取ることが先決で……
「よいか? まずはこの太刀だ。この太刀はな、我が牙骨から生み出されておるのだが、その性質はまさしく炎。斬った物は灰燼に帰すまで我が炎に焼かれ続けることになる。
次にこの生弓だが、これは神木の根から作られた物だ。性質は力。我が膂力をこれに封じておる故、その外観からは想像もつかぬほどの剛矢を放てるのだ。
最期に建琴だが……これはそこにおるククチの髪から作られておってな。これには我が憤怒の気が込められておってな、あまり気乗りはしないのだが……」
「ほおう」
一つ。また一つと、神器を受け取る度にムジナは感心しきりになっていた。
どこにでもあるような物ばかりだと思っていたら、まさかそんな力を秘めていたとは。
琴の説明こそ歯切れが悪かったが、元より演奏の心得などないムジナ。使うつもりはない。




