第102節 尋問
「……」
生きている。
生涯のうちに二度も火に包まれるなどと言う稀有な経験をしたムジナ。
そうして脇を見てみると侍女神と宰相が、二人そろって自分が目を覚ますのを待っていたのだった。
「目が……覚めましたか?」
まず目が合った侍女神がそんなことを尋ねていた。
「ああ」
短く返事をするムジナ。
しかし、目覚めたかどうかなんて見れば分かるだろうに、どうしてそんなことを聞くのか。
「オレは……どうしてここに?」
「憶えていないのですか?」
ムジナの問いに答えたのは宰相だ。
「……」
ムジナは黙りこんだ。
何があったのか憶えているかと聞かれれば、勿論憶えている。しかしそれを言ってしまっていいものなのか。
しまったな――ムジナは密かに歯噛みした。
トラノヲのことは宮殿の誰にも伝えていなかったのだ。
奴の正体が何者なのか知らないが、今になって実は蔵盗人と面識があって、そいつと少し揉めたなどと白状するのは、さすがにマズい気がしたムジナだ。
「どうかしましたか? もしや憶えておられぬと?」
「いや……」
宰相の再びの問いにムジナは言葉を濁すしかなかった。
すると侍女神がこんなことを言う。
「ならば教えて差し上げますが、あなたは裏の森で倒れていたのですよ。それも全身が焼かれた状態で」
それを聞いて、己の腕を掲げて見たムジナ。
そうして見えた手はいつも通りの浅黒さで、とても火に巻かれた人間のものとは思えず。
「そうだ。オレは焼かれたはず。どうして無事なんだ?」
ムジナはあれほどの目にあったにもかかわらず何ともない自分の体に疑問を口にしていた。
するとその言葉を聞いた宰相の目がキラリと光る。
「やはりその時の状況はちゃんと憶えておられたようですね。安心しました」
宰相の言葉にぎくりとしたムジナだ。
しまった。憶えていない振りをしてやり過ごすつもりが、こうも簡単に破綻してしまうとは。
「いや。別にすべてを憶えているわけじゃ――」
言い訳しかけたムジナはそこで口を噤んだ。
元々が饒舌の対極にいるようなムジナのこと。今必要なのは喋ることよりも黙ることだった。
「おや。だんまりですか」
ムジナのことを怪しんでいるような宰相の言葉に、ムジナは警戒感をあらわにする。
どうもおかしい気がしたのだ。
何故このクニで一二を争うほど多忙なはずの二人が、自分が目を覚ます瞬間に居合わせたのか。
二人がいる時に偶然自分が目を覚ました? 勿論、可能性としてはあるだろう。
でも二人は、自分が目を覚ました時、それが既定路線であるかのように、何の感慨も持っていない様子だった。
まるで、自分がいつ頃目を覚ますのかをあらかじめ知っていて、その時に合わせて待ち構えていたかのような落ち着きぶり。
「お前たちは何者だ? 何を知っている?」
尋問されていたはずのムジナは、反対に二人に問いかけていた。
するとその問いに答えたのは二人のうちのどちらでもなく……




