第101節 衝突 ムジナとトラノヲ(二)
「焦るのも分かるが、少しは頭を冷やしてから考えてみたらどうだ?」
のしかかっていたムジナごと体を起こしたトラノヲは、驚く彼にそう忠告した。
「頭を冷やせ? ……オレは最初から冷静だが?」
少し考えてから答えたムジナ。
そうだ。自分は冷静だ。この得体の知れない奴の正体を暴かねば、自分の計画そのものが危うくなる。
そしてそのためには力尽くでこいつに本当のことを吐かせるのが、もっとも手っ取り早いのだ。
「知っていることを話してもらう。そうすれば命だけは勘弁してやる」
ムジナはトラノヲに言った。
こんな所で立ち止まっている暇はない。もし邪魔をすると言うのなら、相手が誰であろうが蹴散らすまでのこと。
「ちっとも冷えておらんではないか。貴様ではどう頑張ったとておれには勝てんのは今分かったばかりであろうに、どうやっておれの命を取ろうと言うのだ? と言うかだな。貴様一体ここをどこだと思っておる? 死者のクニだぞ。すでに死んでいる者の命をどうやって奪うと言うのだ?」
「黙れ!」
「ああもう。分からん奴だ!」
せっかく諭してやったと言うのに、こりもせず再び襲い掛かってくるムジナに、少しばかり怒りを覚えたらしいトラノヲ。
しかし彼は何を思ったのか、ムジナの腕が届く寸前で構えを解くと、されるがままに押し倒されたのだ。
「さあ吐け! お前は何を知っている!」
「さあてな。仮になにか知っておっても、今の貴様に答えてやる気にはなれん」
「ならば死ぬことになるぞ!」
「ほう? このおれを殺すと言うのか? 面白い。やってみよ」
首に手を回されてもなんら抵抗しようとしないトラノヲ。それどころか、ムジナが目一杯の力で締め上げても、眉一つ動かさずに話しかけてくる。
「ぬっ! くっ!」
「これで分かったであろう。貴様の力ではどうあがいたとておれは殺せん」
「ぐぬうっ! まだまだあっ!」
「やれやれ。これだけは使いたくなかったのだが……」
諦めの悪いムジナに辟易したトラノヲ。そう言うと、それまで黒かった彼の瞳が、突然赤みを帯び始め、そして――
「ぬっ? うおっ!? ぐああっ!!」
ムジナは自身の体が燃えていることに気付いたのだ。
一体いつの間に?――トラノヲに気を取られるあまり、死角で火を焚かれていたことに気付かなかったムジナだ。
さすがの彼もこれにはたまらず、トラノヲから離れ、そして転げまわる。
「ぬぐうっ……! こ、こんなことぐらいで――!?」
「ほう。その状態でしゃべれるのか。その体、彼奴の造った物だけあって火には強いと見える」
「なんだと!? 貴様は――!?」
「もういい。今は眠れ。次に目を覚ますようなことがあれば、その時また話をしようぞ」
この言葉を聞いたのを最後に、ムジナの意識はそこで途絶えたのだ。
――そうして気を失ったムジナが次に目を覚ますと、まず視界に入ったのは最近ようやく見慣れるようになった自分の部屋の天井だった。




