第1節 二柱の兄妹
これは未だ天地が人の理を超えた者たちによって支配されていたころの物語。
ある日、天高くのおわす太陽の神の手のひらから、一滴の雫がこぼれた。
その雫は雲間を突き抜け地の原に落ちると、勢いよく燃え上がり辺りはたちまちのうちに火の海となってしまった。
するとごうごうと燃え上がる炎の中から一柱の神が産まれた。それがミズチである。
--アラダマノホデリノミズチ--
燃え盛る炎の中より産まれしこの神は自らの背中をまじまじと見つめると
「ああ、何故私には翼がないのだ。これでは母のおわす天のクニに帰ることは叶わぬではないか。」
と嘆いた。そしてその細長い体をくねらせて穴を掘ると地中深くに潜ってしまった。
ミズチがその身をくねらせる度に地は揺れ、大地の裂け目から炎が噴き出していた。
やがて炎が収まり、一面黒く焼け焦げた野が広がるばかりになると、そこからまた一柱の神が産まれた。
--トヨハラノホオリヌシ--
またの名をアメノオオトリと言い、美しくかがやく羽根を持ったこの神はあたりを見回すと
「兄は地に潜ってしまわれたか。哀れなことよ。」
と言い放ち、その羽根を羽ばたかせて高くにあるに天のクニへ戻っていった。
オオトリが飛び立った後には若々しい緑が芽吹き、たちまちのうちに焼けた野原は豊かな森へと変わっていった。
こうして同じ炎から生まれた二柱の兄妹神は天と地、二つの世界にそれぞれおわすことになった。




