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第四五話 感情の渦


「「「「……」」」」


 俺たちがこの上なく重苦しい沈黙に包まれるのも仕方のない話だった。


 あれからみんなと至聖所の大箱内にあった地下への階段を下り始めたわけだが、それが終わりがないんじゃないかと思えるほど長いもので、微妙な暗さ加減といい血の痕跡といい、正常な精神状態をどんどん削られていくような感覚がした。


 この恐ろしさをどう表現したらいいのか迷うほどだ……。かろうじて絞り出すとしたら、空気中に見えない目玉がひしめいているみたいな感覚ともいうべきか。


 覗かれているというより間近から凝視されているようなイメージで、普通に歩こうとしてるのにできないほど、一歩一歩がとにかく重くて冷たく感じた。


 やはりこの先にコアがいるのは間違いなさそうだ。それが教皇ユミルなのか、はたまた行動を共にしているという枢機卿シュラークなのか、それともあの異様な咆哮の持ち主なのかはわからないが――


「――うがっ……ひっく……」


「ハスナ……?」


 急にハスナが立ち止まったかと思うと、嗚咽を上げ始めた。彼女と行動するようになってからこんなことは初めてだ。一体何が……。


「ひぐっ。ハスナさん、怖いのー? よちよちっ」


「ハスナどの、それがしも怖いのだから気にすることは――」


「――うが……怖さはもちろんありますですが、私が泣いているのはそれが原因ではないです……」


「「「ほかに原因が……?」」」


 俺たちの質問にハスナが目を擦りながらうなずく。


「なんだか凄く悲しくて……()()()()()が渦巻いてると感じたです……」


「……」


 迷宮術士が作ったダンジョンの中で最も暗い心の持ち主がコアになるというから、この先にいる誰かの中にそうした悲しみの感情が渦巻いてるってことなんだろう。それがどれだけ深いものかは、ダンジョンの『+256』という難易度を考えればよくわかる。


「ひぐぅ……なんだかお鼻がムズムズして、匂いもわからないよ……」


「そ、それがしも、ここから先の地形には全然詳しくなく、役立てそうにない……」


 シルルとシェリーが気まずそうに項垂れてるが、これはハスナのいう周辺に充満しているっていう悲しい感情に少なからず影響を受けた格好なんだろう。俺の場合は耐性があるのか大丈夫だったが、この雰囲気だとこっちも辛いしな。


 よーし、俺が神精錬で悲しみの数値を折ってやろう。カンカンカンカンッ……これでよしっと……。みんな少し表情が柔らかくなった気がする。


 正直、ハスナたちだけじゃなくて俺も足が震えるくらい緊張してるんだが、それに関しては神精錬を施さなかった。


 じっちゃんも言ってたからな。少しの緊張感なら、それは力になりうるのだと。雨降って地固まるという言葉もあるように、むしろ心をさらに強くしてくれる調味料なのだと言っていたから……。




 ◆ ◆ ◆





「……い、いけな、い……」


 女王リヒルの視線の先には、暗闇の中で双眸を光らせた不気味に蠢く怪物がおり、さらにその鋭い眼前には自身の父である王様や教皇ユミル、枢機卿シュラークの姿まであった。


「な、何故、動かない……? 私も、みなも、このまま、では……」


『ウオォォォンッ!』


 黒い化け物に彼らが今まさに呑み込まれようとしていたとき、ハンマーを抱えた男――鍛冶師ハワード――が姿を現わすと、目にも止まらぬ速さで武器を振り下ろし、あっという間に暗闇を消し去ってしまった。


「ハ、ハワード……ありが、と――はっ……」


 宮殿の寝台にて、我に返った様子で上体を起こすリヒル。


「……なんと……夢、であった、か……」


 彼女はぼんやりと周囲を見回したのち、ベッドからおもむろに下りてカーテンを開け放つ。すると、傍らにはふんぞり返りながら毛怠そうに部下たちに指示を出す大臣がいた。


「大、臣」


「ん、なんだぁ――って、じょ……じょじょじょっ、女王様ではありませぬかあぁぁっ……! イテテッ……!」


 慌てた様子でひざまずき、頭を床に擦りつけようとしたところで強打し痛そうに頭を抱える大臣。


「……何、か、()()()()、が……」


「あ、そ、それはですなっ、謀反を企む不届き者がいたゆえ、即座に処刑した次第でありましてっ……!」


「なるほ、ど……」


「そっ、それよりリヒル様ぁ、ご容態のほうはいかがなものかとぉ……?」


 大臣が口元を引き攣らせながらも、顔中をしわくちゃにして独特な笑顔を作り出す。


「具合、は……大分、よい……」


「は、はぁ……しかし、お体に障りますゆえ、まだお休みになられたほうがよいかとおぉ……」


「現状、は、どうなって、いる……?」


「は、はひっ、心配なさらずともおっ、勇者パーティーが教皇様を救うべく、果敢に神殿に飛び込んで奮闘し――」


「――ハワード、はどうし、た……?」


「あ……あの者も神殿に入ったようではありますがっ、以前ほどの力はまったくないとのことで、大変厳しいかとぉ……!」


「私は、そうは思わな、い……」


「え……!?」


 リヒルの言葉に対し、余程驚いたのかしばらく目を白黒させる大臣。


「健康、状態、少し鍛えるだけ、でも反動は来るが、それに耐えたら、治ると、言われた……」


「そっ……それじゃあ、あやつめ……いや、ハワードは若干力を取り戻したということでしょうかっ――?」


「――さあ、な。大臣、私は、一人になりたい」


「ぇ……?」


「聞こえぬ、か? 立ち去る、のだ」


「はっ、はひいぃっ……!」


 生気が戻ったリヒルの迫力に押し出されるように、その場から勢いよく走り去っていく大臣。それからほどなくして、大きな奇声が宮中にこだまするのであった……。

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