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第三四話 空き部屋


「……」


 俺は都の郊外にある、落ちぶれたときに使っていたボロアパートの一室まで戻ってきていた。今や空室状態ではあるんだが、いずれ必ず戻ってやろうと思って家賃を半年分くらい前払いしてたから一応まだ住めるんだ。


 どうして今更ここに来たかというと、それはもちろん、ここは勇者パーティーも知っている俺の住所だからで、やつらからなんらかのアクションがあると睨んだってわけだ。


「ここがハワードの第二の家ですか? なんだか()()()()を感じますです」


「すんすん……ハワードさんの色んな匂いがするのお。特に、ハスナさんの言うように焦げ付くような感情の香りがっ」


「と、殿方の部屋ということで、それがしは緊張している。しかし、空室だったのが信じられないくらい熱気みたいなものを感じる場所だ……」


「はっはっは……」


 みんな言ってることがそれなりに的を射ているな。ここに来たときの俺はそれこそ人生で最悪の頃だったわけで、そりゃこの部屋から異様な雰囲気を感じ取られるのもおかしくはない。


「――ひぐっ、()()来たみたいなのー」


「「「えっ……」」」


 シルルの言葉で、部屋の空気がガラリと別なものに変わるのを感じた。


「くんくんっ……不吉な臭いはしないから多分大丈夫っ」


「うが……それに、もうどこかに行ったみたいです」


「ならば、それが意味するのは……」


「ああ、()()しかないな」


 俺は玄関に行くと、早速ポストの入り口に手を突っ込んでみたわけだが、外部からよっぽど強い力を加えられたらしく、中がひん曲がってて取れないどころか奥さえ見えなかった。


 そういや、この部屋は色んなところにガタがきてるのか扉も異様に閉めにくいし、アパートの中じゃ一番人気がなくて安かったから選んだのを今思い出した。嫌な思い出ばかりだが世話になったし、あとで神精錬によって一番住みやすい部屋にしておくとしよう。とりあえずこのポストからだ。


 カンカンッ……よーし、これでいい。


 再度手を突っ込むと手紙が投函されているのがわかった。よしよし、俺の思った通りだな。このタイミングで俺に手紙を出してくる連中なんて、もうあいつらしか考えられない。


 さて、手紙を読んでやるとするか。何々――


『――久しぶりね、ハワード、元気にしてた? この前ね、都であなたの姿を目撃したって聞いてね、こうして手紙を出してみたわ。正直な話、当時の私はあなたじゃ物足りないって感じてて、そこをランデルに突かれちゃった感じなの。もちろん悪いと思ってるけど、気持ちが変わってしまったのだからしょうがないでしょ』


「……」


 文字が震え始める。折角手紙を出してくれたんだから最後まで読んでやろう。


『ここで本題なんだけど、右腕の具合はどうなってるの? 別にあなたとのよりを戻そうなんてつもりはこれっぽちもないんだけど、一方的に裏切った格好になっちゃったから謝りたいの。もしよかったら今の状態を教えてほしいな。二人きりで会って話さない? ほら、以前から一緒によく通ってたレストランで待ってるから。約束の日にちは――』


「――もういい、もう……」


 俺は気が付いたときには手紙をぐしゃぐしゃにしていた。


 庶民出身のルシェラが俺に対して物足りなさを感じていたのは、以前から薄々気が付いていたことだ。


 彼女は目に見える輝きを欲しがっていた。それは富であったり血筋であったり。それでも神精錬を施したくなかったのは、彼女にわかってほしかったからだ。


 一番大事な宝はそこじゃなくて、それすらもちっぽけに感じるほどの心の輝き……すなわち真心なのだと。そこに自分で気付いてほしかった。


 じゃないと本当の意味でわかってくれないと思って。俺のじっちゃんも言ってたっけな。本当に大事なことが目で見えないのは、なんらかの劣等感によって心が摩耗しているからで、それで楽だから目に見える輝きを求めようとすると。しかし、心というものは決してそれで補完されるものではなく、減ったことを紛らわす程度の働きしかないのだと。


 一度壊れてしまった心はもう、二度と元の姿には戻らないとも……ルシェラ、お前に残された道は破滅だけだ。お前が自分自身でいずれ証明することになる。真心というものがいかに大事だったかを、な……。


「「「……」」」


「あ……」


 俺はハスナたちに心配そうに顔を覗き込まれて我に返った。


「わ、悪いな、自分の世界に浸ってしまってたみたいだ……」


「ハワード、怖い顔をしてたです」


「鬼みたいだったのー。ハスナさんみたいなっ」


「う、うむ……」


「うがっ。シルル、鬼で悪いですか……?」


「ひぐうぅっ!?」


「ふ、二人とも、こんなところで追いかけっこはやめたほうが無難かとっ!」


「「ぎゃふっ!」」


「……」


 シェリーが危惧した通り、ハスナとシルルは壁にぶつかって折り重なってしまった。でも、彼女たちのやり取りのおかげで、俺は自分もまた復讐という輝きで減った心を紛らわせようとしていたことに気付いた。


 何が真心だ。こんな気持ちじゃ逆に足を掬われてもおかしくない。勇者パーティーに対する憎しみのあまり視野が狭くなってしまったら元も子もないわけだからな。あくまでも民を救うために行動するんだ。それでもあいつらは勝手に自滅して苦しむことになるはずなんだから……。

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