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23「ライン」

子龍はプチトマトを箸の上でくるくる回転させながら中庭に視線を転じた。


 外のベンチでは仲良さげな男女が隣り合って座り談笑している。


「そうしょげるな。それよりも、ラインを交換したというのに、ぜんぜん送ってくれないのはどういうことなんだ?」


「ああ、そういや、そんなこともあったな。……冗談だ。ホントに、最近いろいろあって忙しかったろ? 家に帰ったら送るからさ。わかった。そんな泣きそうな顔するな。けど、おまえのほうから送ってくれても良かったんだぞ?」


「姉が……女のほうから送るのは不作法だと教えられた」


「わかったわかった」


 子龍はスマホを取り出すとラインアプリをタップした。


 その時点で彼女とのやり取りはメイド画像だけだったことに気づき、ちょっとだけ子龍はバツが悪くなる。


 適当にメッセージを送る。

子龍:よろしくな


りんか:こちらこそ! 末永くかわいがってほしいな


 ――なんか重たくね? ただのラインだろ?


 スマホから顔を上げるとりんかは子龍をジッと見て視線を一瞬も逸らさない。

 やはりヤバいやつとかかわってしまったのだろうか、と子龍が悔やむ間もなく通知の音が鳴った。鳴りまくった。


りんか:それだけ?


りんか:もっとたくさん送ってよ


りんか:せっかくふたりの記念なのに


りんか:さびしいよ


りんか:ねえ


りんか:早く


りんか:送って


りんか:ねえ


 ――いや、目の前にいるじゃんよ。


 りんかはスマホと子龍の顔を交互に見つつ、素早く文字を入力している。


「とりあえず今は食事中だからご飯に集中しようぜ? でなきゃ、弁当やきつねうどんを作ってくれた鈴や食堂のおばちゃんに失礼だろ」


「む。それもそうだ。食事中の操作は礼儀に反する。姉がいつも触っているのを注意していたのに、これはよくない。子龍、注意してくれてありがとう」


「いやいや……」


 子龍はりんかと歓談しながら仲良く昼食を楽しんだ。

 昼休みが終わって席に戻る。

 通知の音が軽やかになった。


りんか:まだ?


底知れないものを隣の席の少女に感じ、子龍はガタッと椅子を鳴らしてりんかに怪訝そうな目で見られるのだった。


「そんで。今日はどうすんの?」


 放課後――。


 ようやく解放されたとひと息ついている子龍に向かって帰り支度を済ませた桃花が当然のように声をかけてきた。


「えっと、なにか……?」

「なにかじゃないわよ。りんかの、その、例のやつのことよ」


「ああ、それな!」

「なんだなんだ。楽しそうだな。わたしも仲間に混ぜてくれ」


 子龍の隣に座っていたりんかが身を乗り出してくる。


「いや、りんかが当事者なんでしょうが。メイドのおばけのことよ」

「ああ、そうだったな」


「なんで、忘れてるの? あたしがアホみたいじゃないの!」


「落ち着けって。また人目を引くぞ」


「桃花は昔からこうなんだ。でも、優しくていい子だから子龍も仲良くしてやってくれ」


「あのねぇ……」

「冗談だよ。しかしメイド霊のやつも律儀に約束を守っているようだな」


「確かにそれもそうね。もしかして、学校にいる間、またりんかがおかしくなっちゃわないか、すっごく不安だったけど、とりあえずはよかったわ」


「発作が起きないうちにフケルるとするか」

「わたしは病気かなにかなのか」

「似たようなもんだろ」


「あ、てか、りんか! 部活はどうするの? 先週から顔出してないみたいじゃない。園芸部の……なんつったっけ? 見るからに陰キャそうなコ? よくいっしょにいたじゃん」


「ああ、吉川くんか……でも、今の状態ではちょっと参加できそうもないし、どうしたものかな?」


「なぜ俺を見る」

「だって、そんなのは……子龍次第じゃないか」


「はぁ? まあ、部活のことはよくわからんが、園芸部なら大会に出るとかないんじゃ、しばらくことに決着がつくまで休ませてもらえばいいんじゃないか? 知らんけど」


「そうだな。それじゃあこれから早速部長に話してこよう」


 パッと瞳を輝かせてりんかは入口の扉の前まで移動し、くるっと振り向いた。


 りんかは無言のまま珍しいことにどこかもじもじした様子で子龍を見つめていた。


「なんだよ? いだっ」


 肩を叩かれて子龍が椅子を立つ。桃花が自分の腰に両手を当てながらジッと睨んでいた。


「さっさと行きなさいよ。りんかはアンタについてきてもらいたいのよっ」

「俺部外者なのに……」


「はよ行け」

「桃花も来てくれ。ひとりじゃさびしい」

「仕方ないわね」


 桃花はどこかうれしそうに子龍のうしろをトコトコとついてゆく。


 扉の間口まできたとき、りんかがあからさまに嫌そうな顔をした。


「なんでぇ!?」


 桃花は悲痛な声で叫ぶ。子龍はその表情が面白かったので小さく笑った。


「いや、なんでもないぞ。わたしはてっきり子龍だけついてきてくれるかと思い込んでいたので、他意はないんだ」


「女の友情なんて男が絡むとちっぽけなものね」

「桃花ぁ」

「どうでもいいけど行きたいならさっさとしてくれ」



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