21「隠蔽」
「あのなあ白石。先生説教してるんだぞ。わかってるか? 反省して髪の色を戻したのは考慮できるが、その、あの……白石さん? 聞いてます? もしもーし?」
「あ、はい。聞いています。大丈夫です」
――ぜんぜん大丈夫じゃねーよ。
子龍は隣に座っているりんかを見ながら、変わり果ててしまった優等生に戸惑う後藤に同情していた。
――なんちゅーか、以前のりんかは説教中に気もそぞろってことは絶対なかったんだろうな。
そもそも、子龍に比べれば完全無欠に思えるりんかが怒られている光景などあまり思い浮かばない。
だが、今のりんかは後藤からすればコスプレして金髪に染色し、学内の風紀を乱す存在に成り下がっていた。
「と、とにかくだ。白石は反省しているようだし、今朝のことは幸いにも他の教諭にはバレていないから先生の一存で握り潰しておく」
「そんな労災隠しみたいに言われてもなあ」
「面倒なんだよ。いろいろと。だいたい、平山はそういうこと言える立場か」
「ごもっとも」
「うし。それじゃ話はここまでだ」
りんかは担任の後藤に指導されている最中もニヤニヤ笑いを止めることができず、えびすさまの生まれ変わりみたいになっていた。
最終的には気の迷いということで口頭のみの説諭で許されることとなった。
「あ、ちょっと平山」
「なんですか、先生」
「今朝の仕業はおまえにゃ関係ないんだろーが、あきらかに白石はおまえとかかわりはじめてからネジがゆるんできてる。理由は知らんが、注意して見てやってくれ」
「うす」
「なんか相談したいことがあったら遠慮なくおれに言うんだぞ」
「へい」
――まあ、後藤はああ見えて悪い教師じゃないんだけどな。
「というわけで教科書及びノートをすべて置いてきてしまった。今日は一日よろしく頼む、子龍」
「お、おう」
「離れていると見にくいので机と机をぴったんこさせるぞ。よいしょ、これでぴったんこだ」
「別にその行動は構わないんだけど、りんかはいいのか」
「なにが?」
「いや、その……」
二時限目の英語の授業。
教室内すべての視線を集めてしまい子龍は相当こっぱずかしかった。
わざとではないだろうが、りんかは子龍と必要以上にくっつきながら、幸福そうな表情で悦に入っていた。
白石りんかといえば、お堅い口調だけではなく、学園で五本の指に入るであろう美人でありながら浮いた噂のひとつもない女であった。
それが、進級早々、いきなり停学を食らった、今時の高校生にしては珍しいほど無軌道な部類に入る子龍に入れあげているのである。
――まあ、あれだな。俺もアホじゃねぇ。みんな、優等生美少女が押しだけは強いヤンキーに落とされたとか思ってんだろ。事実は違うよ。
「子龍。今の先生の説明だと、そこからそこは小テストに出る確率が高いらしい。アンダーラインを引いてあげよう。一説によると、教科書に線を引くとそれだけでやったつもりになって危険だそうだが、こういう場合は許されるだろう。わたしはこう見えてもラインを綺麗に引くのは得意だったりするんだ。ぬりぬり、と」
「おまえも結構好き勝手やるほうだよな」
「だからなにを?」
「いや、いいんだ」
「あの、平山くんと白石さん? 今は授業中なのでお喋りはやめましょうね」
「これは失礼を――子龍の分も謝ります。申し訳ございません」
「なんで俺の保護者みたいになってるんだよ……」
こうして子龍とりんかは傍から見れば即席カップルにしか見えない空気をクラス内に醸成しつつあった。




