第91話『子供に堕ちる』
職場の同僚「お前……その性格と経歴ありながら、なんで警察官目指さなかった?」
僕「犯人を追うの面倒くさいし、何より僕は小説、漫画、イラスト、アニメを優先したいのだよ!」
「ク、クソマズ料理対決〜?」
次の種目は『デストロイヤークッキング』と言うらしい。
前回の拳銃野球もそうだが、これ誰が書いたんだ?
絶対みんな適当に書いたに違いない。
「えー、それでは審査員を紹介するでごわす。審査員は二名、レフェリーのリキュールと、今大会の優勝賞品のような立ち位置に居る荒蒔 健也の二名です」
解説のゴッドマンによって選ばれた健也は審査員の席に着いたが、リキュールの方は暴れていた。
「いやネ! ワタシまだ死にたくないネ!」
審査員の舌を破壊する競技と聞いて逃走しようとしたリキュールは主催側の小院瀬見財団の人達に取り押さえられて審査員席に無理矢理拘束された。
こんなに嫌がってるなら他の人にすれば良いのにと思う健也はリキュールに話しかけた。
「リキュール、お前腹を括れよ」
「健也こそ、なんで平静でいられるネ! 組織に居た頃からの馴染みとしてワタシを逃してほしいネ!」
「……クソマズとは言え、女の子が作る料理だぞ? 食わないわけには……いかないだろ」
健也も若干顔が引きつっていた。本当は健也も嫌なのだろう。それを見てリキュールは叫んだ。
「誰かー! ここに偽善者がいるネ!」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「えー、ルールの説明をするでごわす。料理はデザートに絞るでごわす。あえて甘いデザートをいかにクソマズにできるか競うでごわす。なお、レシピを見ることは禁止とするでごわす。勝敗は審査員二人の五段階評価の合計が多い方を勝者とするでごわす」
真奈と定叉の二人は制服の上からエプロンをかけて、セッティングされたキッチンへ向かう。
「定叉ちゃん、料理の経験は?」
と、真奈が定叉に質問すると。
「ん? 全然したことないし、デザートなんて写真で撮ってSNSにあげるくらいしかしないし」
これだけ聞くと、普通の料理対決なら真奈の圧勝だったかもしれないが、逆に料理ができない、知らないは、今回の競技において大きなアドバンテージになる。
対して真奈は、美味しい料理しか作った事がないし、それ以外は許せない気質を持っていた。
そんな真奈にとって料理に対する冒涜的な競技だと、これを考えた人に怒りを感じる真奈であった。
「お、おぉ、真奈っち、なんか燃えてるね」
定叉が引き気味になりつつも、両者食材が置いてあるキッチンに立った。
「それでは競技を始めまーす! レフェリーのリキュールさん! 開始のコールをお願いします!」
実況のルーガに促され、リキュールはややヤケクソに叫んだ。
「もうどうにでもなれー! レディ、ゴォォォ!」
両者食材を吟味する。
真奈が最初に目をつけたのはイチゴであった。
ここで本来の真奈であれば、このイチゴを使ったストロベリーサンデーを作るシナリオが頭の中に現れるが、今回それは許されない。
それでは、ただの美味しいデザートになってしまう。
ならば逆算する。何をどうすれば美味しくなるか知ってるなら、その逆をやればいい。
つまりどんな食材を入れたら美味しくなるか知ってるなら、それに当てはまらない方を選べ良いだけの話なのだ。
(いける!)
真奈が食材に手を伸ばそうとした瞬間であった。
「うっ!?」
思わず口を覆いたくなるような刺激臭がした。
「あははは! マジウケる!」
定叉だ。真奈が考えてる間にもう動いていた。
いや、それより何を入れたんだ? 腐ったレモンと腐った卵の匂いが混ざったかのような酷い匂いが、定叉がかき混ぜてるボウルの中から漂っている。
「こ、これは、う、実況席に居ても匂ってきます。会場の皆様、鼻が壊れないようにハンカチで口と鼻を覆って低い姿勢をとってください」
ルーガの指示で匂いが届く範囲の観客達はその指示に従った。
まるで火災訓練だ。
「そーれ、まだまだ入れるぞ★」
まだ酷くなるのか、そもそも何を作ろうとしてるのだ?
しかし、その光景を見ていた真奈の心は穏やかではなかった。
料理ができないとか、この競技の特性とか関係なしに、定叉の料理は料理の外道とも呼ぶべき所業にしか見えない。
食材に対する罪悪感が全くない。
そう、例えるなら、子供が無邪気に、惨たらしく虫を捕まえては潰したり、手足を引きちぎり、それを弄ぶかの如き行い。
真奈は確信した。定叉は子供だ。
定叉がギャルとかじゃない、精神が子供のまま成長していない。
食材に対する感謝を、生産者に対する敬意もない。
故に最強。
この場、この空間限定での最強のダークホース。
負ける。
定叉の料理(?)で敗北を確信してしまった真奈。
このままでは真奈は最高に美味しい料理を無意識に作ってしまう。
(嫌だ、負けたくない)
瞬間、真奈の脳裏に何かがよぎった。
定叉は精神が子供、料理のりょの字も知らない。
無邪気にして無垢……あぁそうか、思い出した。
自分にもそう言った時期があったなと思い出した真奈は、過去に置き去りにした子供だった頃、まだ料理が出来なかった頃の自分を思い出し、それを今の自分に蘇らせた。
「ん?」
最初に異変を感じ取ったのは定叉であった。
明らかに真奈の様子が変わった。
「真奈っち?」
「ふ、ふふ、あははは!」
真奈は突然笑ったかと思うと、真奈は次々と食材に手を伸ばし、メチャクチャに食材をかき混ぜたり切り刻んだりした。
それは最早料理とは呼べない、誰が見ても食材に対して調理器具を使った暴力を行使してるようにしか見えない。
「えぇ? 真奈っちどうしたの? んー、分かんないけどワタシもラストスパート行くぞぉ!」
定叉も気合いを入れて最後の仕上げをする。
なんてこった。これじゃ真奈ちゃんが狂ったみたいじゃないか。




