第88話『争奪戦』
――ごめんなさい健也、貴方だけでも幸せになって。
「待って、母さん!!」
健也は手を伸ばしながら起き上がると、そこは理事長室であった。
窓を見ると、外は暗くなっていた。
「あれ、俺……なんでここに?」
「火盧理さんが連れて来たデース」
健也の隣にはアヤナがしゃがんでこちらを見ていた。
「いやはや、ワタシがあの二人を無理矢理帰らせてから理事長室に入ったら誰もいなくてビックリ……と思いきや、本棚が勝手に動いて、そこから階段が現れたかと思うと、その階段から健也さんを抱えた火盧理さんが現れて再びビックリしましたデース」
「母さんは何か言ってた?」
「二度と関わるな。それだけでしたねー、それだけ言って再び居なくなったデース」
「止めなかったのか?」
「ワタシでは火盧理さんを止めるのは不可能デース。今のあの人は正気とは思えません。手を出したら確実に殺されマース」
「そっか」
健也は立ち上がって、自分が落ちた床を触ったが開く気配がない。
他にも、部屋を調べたが何も見つからなかった。
「ふーむ、何があったか知りませんが、ここは一旦帰りましょう、真奈さん達も心配してるでしょうし」
「そうだね……」
今は何もできない。それがこんなにも歯痒いとは思わなかった。
だが受け入れるしかない。
そう思う健也であった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「うひゃー! 何々? みんな健ちゃんの事が好きなの? まじウケる〜」
家に帰ると、リビングに真奈達と今日出会った黒ギャル『鞍部 定叉』とオカッパ頭の少女『時骸 六波』が居た。
「あ、健也さん、おかえりなさい」
「ただいま真奈ちゃん……なんで定叉さんと六波さんが家に居るの?」
話によると、なんでもアヤナが二人を強引に帰した後にバッタリと真奈達と遭遇、そこで意気投合して家まで来たらしい。
「び、びっくりしました。健也さんが他の女の子と暮らしてたなんて(おしおきが必要ですかね?)」
六波さんが何か呟いた気がするが、聞かなかった事にしよう。
「にしても兄ちゃんモテモテだねぇ、歳下限定だけど」
「月名子ちゃん、それは嫌味かな?」
月名子が、からかうように笑っていると、定叉が口を開いた。
「でさー、健ちゃんはこの中で誰が一番好きなわけなのよ?」
その発言で場の空気が変わった。
「急だね」
「だって気になるじゃんよー! 真奈っち、美娃っち、秋歌っちの三人と暮らしてて何も感じないわけないじゃん? やっぱ一番好きな女の子ぐらいいるっしょ?」
メッチャ答えずらい、三人とも好きだなんて答えるのも恥ずかしいし、それより六波がさっきから睨んでばかりで怖いっす。
「そうですわね。もうまどろっこしいからハッキリさせましょう! 健也とワタクシ達は現在大変な状況ではありますが、未だにハッキリとした答えが得られないままなのは我慢できませんわ!」
と言って美娃は宣言した。
「第一回、健也争奪戦を開催しますわ!」
「はぁ?」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「はぁ?」
翌日、学校の校庭に特別な会場が設立され、そこで意味不明な大会が開催された。
題して『第一回健也争奪戦! 恋人になるのは誰だ選手権!』である。
現在、健也に好意を寄せている女の子、総勢6名がトーナメント形式で毎回異なるお題を使って競い合って、優勝した女の子が晴れて健也の恋人になれると言うものらしい。
主催、企画は全て美娃が行ったものであった。
勿論、健也に拒否権はない。
何故こうなったか、それは前日の夜に美娃は健也にこう言った意図で開催すると言う事は伝えてあるのだが、本当にこんなことして意味があるのだろうか?
〜回想(前日の夜、健也の部屋にて)〜
「美娃ちゃん、また意味が分からない事を始めたね」
「大丈夫ですわ。ちゃんと計画はあります。確かにこんな茶番をしてる暇はありません。ですが手っ取り早く火盧理さんを引きずり出す為でもありますわ」
美娃によると、まず大袈裟な大会を開いて、全校生徒や教職員全員の注目を集めて、その隙に天ヶ屋率いる警察が学校に潜入して、徹底的に火盧理が荒覇芭木の人体実験をしていた証拠と火盧理本人の身柄の拘束、火盧理によって監禁されてる意思男の救出をするのが目的らしい。
「そんな急に警察が動けるの?」
「無理矢理にでも動かしますわ。健也は今日火盧理さん本人と直接会ったのですわよね? なら今動かないとまた見失いますわ。このチャンスを逃したら一生火盧理さんを捕まえる事はできませんわ。それに、健也は火盧理さんを助けたいのよね?」
「あぁ、助けたい、あの人が何に苦しんでるのかハッキリさせたいしな」
「決まりですわね! まぁ茶番とは言え、今回の大会で優勝するのはワタクシですけどね! オーホホホ!」
〜回想終わり〜
急拵えな大会ではあるが、健也本人は恥ずかしくてしょうがなかった。
だって、何も知らない人達からすると、昨日赴任して来たばかりで、まだ人柄も分からない新米教師を巡って6人の女の子が競い合う大会が急に開かれたのだ。
当然、健也は全校生徒と教職員達の視線を一身に受けている。
今すぐこの場から逃げたい衝動はあるが、今は天ヶ屋達が火盧理を捜索してくれているのだ。その為にも少しでも時間稼ぎをしなくては。
「ちょっと待てやぁぁぁ!!」
と、大会がスタートする直前に、バイクに乗った一人の少年が乱入して来た。
アヤナの助手である霧神であった。
「オレも荒蒔先輩の事大好きなのに、オレを差し置いて何始めようとしてんだゴラァ! オレも参加させろぉ!」
健也が面倒な事になったなぁと思ってると、隣に座ってたアヤナが挙手した。
「あ、じゃあワタシも参加しマース」
「アヤナさん!?」
「大丈夫デース、霧神さんが入ったら7人になってしまうでしょう? トーナメント形式なら8人の方が良いと思って、単なる数合わせデース」
「いやいや、一応主催者である美娃ちゃんの許可を……!?」
美娃の方を見るとOKサインを出していた。
つまり、霧神、アヤナの乱入も認めると言う事か。
こうして健也争奪戦が幕を開けた。




