第83話『来ると信じてたよ』
僕の中の悪役のイメージどうなってるんや_:(´ཀ`」 ∠):!?
『そろそろ来る頃だと思ってたよ』
「予想通りバックアップとしてデジタル化した人格をネットに残してたか枯葉坂 輪玄」
健也は意思男と火盧理が失踪した後からずっとネットの海を彷徨い、そしてダークウェブへと辿り着き、そこでかつて健也が所属していた組織のサーバーにアクセスし、複雑な暗号を二週間かけて解いた先には、現実世界では死亡した枯葉坂のデジタル化した人格が姿を現した。
現在、健也のパソコンには枯葉坂と思われる壮年にして厳格な顔の男が映し出されていた。
これが枯葉坂の顔。現実世界では最後まで見れなかった男の顔だ。
『ふむ、私に聞きたい事があって、私の元に来たのだろう? 大方、荒蒔 火盧理、荒捜 意思男の二人でも居なくなったか?』
「まるでずっと見てたかのような言い草だな」
『当然だ、今の私は肉体を持たない単なるデータだ。色んな機械にアクセスしてハッキングなぞ造作もない』
つまり、日常に存在する機械で健也達の行動を把握していたようだ。
肉体を失ってなおも脅威的な男だと感じる健也。
『本題に入る前に、この姿を変えても良いか?』
「どうしてだ?」
『今の私はただの1と0の集合体、その気になれば、どんな姿にもなれる (インストール完了) 』
「?」
画面に映る枯葉坂と思わしき人物の顔が変形していく。
だんだんと顔が小さく、頬が丸みをおび、髪も長くなって……。
『はーい! バーチャルアイドルのぉデッドリーブちゃんでーす! 気軽にぃドリーちゃんって呼んでねぇお兄さん!』
「……おぇ」
『ちょっとぉ、女の子に向かって「おぇ」はないでしょぉ?』
「いや、ちょっと待って、お前本当に枯葉坂なの?」
『そうだよー、実はここだけの話ぃ、私こと枯葉坂 輪玄は生前から女体化に興味を持っていたのです! 現実では不可能だったけどぉ、ついにデジタルの世界でそれが実現して超絶ハッピーなわけなのよぉ! アハハ!』
「おぇ」
2回も吐きそうになった。さっきまで厳ついオッサンだった奴が二次元のかわいいアイドルみたいな姿に変貌して喋り方まで変わってしまった事に酷くショックを受けてしまう。
『それじゃぁ、早速『邪悪』について話すわねぇ〜』
「すまん、チェンジで、さっきの顔と喋り方に戻してくれ、それだとシリアスな感じが出ない」
『贅沢な注文だなぁ、だが断る! アッハッハッハ!』
うっっっっぜぇぇぇぇ!! ヤソカも大概ウザかったが、コイツもコイツでウゼェ、健也が知る悪役はみんなこんな感じなのか?
せめて枯葉坂だけでもシリアスキャラを押し通してほしかった。
『ではではぁ、気を取り直して、邪悪の正体は荒蒔 火盧理なのは薄々感じてたでしょぉ?』
「まぁね、正月に俺に接触してきた意思男おじさんに違和感を感じてた時点で疑ってたよ」
『母親すら疑うとは薄情だねぇ、まぁ事実だから仕方ないけどさ、にゃは〜★』
コイツ、このウザいキャラで押し通す気だッ!
それから、健也はドリーちゃんから全てを聞いた。
火盧理が荒覇芭木の人体実験を密かに続けていた事も、そして荒覇芭木の技術とヤソカの電子複製体を組み合わせて、世界から平気で人を傷付ける外道に落ちた人間全てを消し去る計画までしていたことを。
「母さんは、荒覇芭木とヤソカの技術を使って、何をしようとしてたんだ?」
『そこまでは、わかんにゃ〜い。でも、私の計画と火盧理の計画は大きく違っているのは確かだねぇ』
「と言うと?」
『私は全人類を完全犯罪者にするのが目的だったのに対し、火盧理は一部の弱い人間に力を与え、弱き者を苦しめる者達を皆殺しにして、一部の人間だけを救おうとしていた。私は人類全て、火盧理は一部の人間、ハッキリと言うと相容れないのよねぇ』
「でもお前は取り引きして、自ら自決した。何故だ?」
『単純な話、実力で負けたからだよぉ』
「なんだと?」
『純粋なる腕っ節で完膚なきまでに負けた。私は100を超える戦場で生き抜いた現役兵士であった。にも関わらず、見た目12歳の小柄な女に指一本で負けて屈服させられたのだよ』
「え……」
『信じられない? 証拠の映像があるから見せてあげるねぇ〜』
と言って、パソコンの画面が変わって、監視カメラの映像となった。日付は去年のクリスマス前夜。どこかの社長室のような部屋で枯葉坂と火盧理が椅子に座って会話を……ん?
「ちょっと待て、母さんと話してるのは誰だ?」
『これが枯葉坂の本当の顔だよ〜さっき見せたオッサンの顔は、あくまでそれっぽくしただけだよぉん★』
健也は言葉を失った。画面の向こうに居るのは自分であった。
否、厳密に言うと健也そっくりの別人であった。
『枯葉坂 輪玄の正体、それは君の三つ上の兄だよ』
「……はぁ!?」
訳もわからず困惑する健也。
『枯葉坂は6年前に戦死している、当時は普通の傭兵だった。その枯葉坂の跡を継いだのが、君の兄だよ、君の兄は枯葉坂の息子にして側近だったからねぇ、枯葉坂が亡くなった後、すぐにヤソカの電子複製体手術を受けて、新たな枯葉坂となって、例の組織を立ち上げたんだよぉん★』
なんとも漫画みたい展開。そもそも、自分に兄なんて居たのか?
じゃあ、あの公園で出会ったのは、健也の兄で、健也の背後で死んだのも兄だったのか?
残酷すぎる。
『ほら、ここから枯葉坂、もとい君の兄と火盧理の対決だ。結果は枯葉坂の惨敗。アレは人体実験で肉体を強化してるだけじゃないね。戦闘技術だけでも達人レベルの域にまで達してる。あんなの誰も勝てないよぉ、例え荒覇芭木の最高傑作とまで言われた意思男でもね』
「母さんは、力づくでお前を従わせたのか?」
『残念ながらね。多分、私の組織の力を全てで叩き込んでも、精々かすり傷が付けられたらラッキーな感じだね。ゲームで言えばストーリーに隠れていたラスボスだよアレは』
化け物すぎる。ずっとそれだけの実力を隠してたのか?
能ある鷹は爪を隠すとは、まさにこの事。
『さて、問題の火盧理と意思男の行方なんだが、残念ながら分からん。そもそも火盧理がどんな行動をしようとしてるのかすら予想できない。だがこれだけは言える。健也、火盧理を止めろ。でないと取り返しがつかないことに発展するぞ!』
「言われなくても」
そう言って、パソコンの電源を切ろうとした時であった。
『待った待った。逆に考えた事はない? 火盧理は長年人体実験に加担していた。しかも単騎で我々組織を滅ぼせられるだけの実力もある。そんな怪物が、何故今の今まで何のアクションも起こさなかったと思う?』
言われてみれば、何故だ?
『答えはキッカケだ。火盧理は全てを隠して、君達と平穏な日々を過ごすつもりだった。だが、彼女を突き動かしてしまったのはキッカケ、そのキッカケを私が作ってしまった。今から、彼女が堕ちる瞬間の話をしちゃうぞぉ〜★』
今から大事な話が始まろうとしてるのに、そのウザいキャラを続ける枯葉坂に若干の苛立ちを覚える健也であった。




