第82話『漫画と現実は違う』
この作品にマトモな親が出てこねぇ!
アヤナ・F・ヴィジョール。
日本名は『藤咲 絢凪』。
イギリスの資産家の家庭で生まれたイギリス人と日本人のハーフのお嬢様。
12歳までは普通の女の子としてイギリスで育った彼女だが、父親が大の探偵マニアで、書斎にはシャーロック・ホームズシリーズや、日本の探偵漫画が数多く収納されていた。
彼女は父親に内緒で書斎に忍び込んで、それらの書籍を読み漁っていくうちに、父親と同じく探偵に憧れを抱くようになる。
13歳の頃、よく5つ上の姉と3つ下の妹を巻き込んで探偵ごっこをしていた。
それから半年後。遊び半分で父親は何か秘密を隠していると勝手に思い込み、妹を助手にして父親の事を調べ始めた。
それが彼女にとっての運命の分岐点になると知らずに。
ある日、父親の書斎を調べていると、偶然謎のスイッチを発見。それを押したところ、本棚が自動的に動いて地下への階段が現れたのであった。
この謎の仕掛けに地下への隠し通路。探偵ごっこをしていたアヤナは興奮しながら妹の手を引いて地下へと向かったのだ。
だが、そこで見てしまった。自分達の父親の正体を。
地下へ下りると、そこは拷問室のような場所で、壁一面には様々な人種の顔写真が貼られていた。
異様な部屋なのは誰が見ても一目瞭然。
怖がる妹の事などお構いなしにアヤナは部屋の探索を始めた。
そこで分かったのは、アヤナ達の父親は何かしらの犯罪に手を染めているらしく、それを追ってきた各国の探偵達を捕らえては拷問していたそうだ。
つまり、壁の顔写真は全て本職の探偵達であり、彼等はここで命を落としてしまったようである。
妹がショックを受け泣き崩れる中、アヤナはむしろ興奮していた。
実の父親が犯罪者。そして探偵に憧れているアヤナがそれを摘発する。
最高のシチュエーションであると考えていた。
この時点で、アヤナには人としての感性など持ち合わせていなかった。
後日、仕事から帰ってきた父親を問い詰めたが、父親はアッサリと犯行を認めた。
拍子抜けであった。
父親が犯罪者であることは認めたが、どんな犯行をしているのか分からなかったので聞いてみた。
「何もしてないよ」
そう、父親は何もしていなかった。父親は犯罪者であって犯罪者ではない。
父親によると、父親は本職の探偵とスリリングな推理対決するのが趣味だったらしく。
メディアを操って架空の犯罪者『罪王』になりすまして、自分の元へやってきた探偵達を返り討ちにするのが大好きなだけであった。
だが、父親はがっかりしていた。現実の探偵は小説や漫画のような推理をする者など居なかったのだ。
だから殺した。
あの拷問室のような部屋で嘘つきな探偵達を葬ってきたのだ。
しかし、その時点で父親は犯罪者であることには変わりない。アヤナがそう指摘したが、父親は予想外の行動に出たのだ。
なんと、アヤナの妹を人質に取ったのだ。
「アヤナ、ボクと勝負しよう。君はボクが追い求める理想的な探偵になれると確信している。だから日本に行きなさい。そこで探偵としての腕を磨いてから、もう一度ボクに挑んで来なさい。それまで、君の妹の命は預からせてもらう」
「おねえちゃん……」
その後、アヤナは父親の手引きで13歳で日本に渡った。
アヤナの監視役である姉と二人であった。
姉と母親は父親とグルであった。
アヤナは妹の命を救う為に日本で探偵としての人生を歩む事にしたのだ。
そこでアヤナは現実に直面した。
日本が安全すぎると言う現実に。
漫画だと日本では殺人事件に遭遇する確率はかなり高いと思われていたが、実際はわずか0.2%の確率でしか遭遇できない。
一応、殺人事件? らしき事件には遭遇したのだが、アヤナは警察から部外者扱いされてしまい。まともに推理を披露することは叶わなかった。
アヤナは焦った。探偵としての推理が全く役に立たない。
落ち込んでいたアヤナを見て、アヤナの姉の薦めで探偵学校に通い、そこで好成績を出せていたのだが、卒業した後も事件には遭遇できなかった。
「……事件がないなら、こっちから探してやるのデース!」
そこでアヤナが目を付けたのは闇サイトであった。
俗に言うダークウェブ。
リアル犯罪者達と接触して、極力警察を避けて犯罪者達と対峙する生活を繰り返していた。
探偵は推理こそ全てだと思っていたが、現代だと推理だけでは足りない。
情報だ。
情報があるなしで優劣が決まる。
現代は情報社会。情報こそが全てである。
こうして、アヤナは探偵でありながら、推理よりも情報中毒に陥るのであった。
○ ○ ○ ○ ○
「以上が、アヤナさんの過去ですわね」
美娃からアヤナの過去を聞いた一同はアヤナに同情していた。
「なんだその父親、キチガイじゃねぇか」
「しかも妹さんを人質にとられてたなんて……」
真奈と月名子が同情していると、アヤナが口を開いた。
「めっちゃプライバシーの侵害じゃないデースか?」
「そうね。アヤナさんを味方に引き入れるには、貴女の過去を知る必要がありましたもの」
「美娃さんは将来、悪〜い人になりそうデースねー」
「褒め言葉として受け取っておきますわ。それでどうします? ワタクシなら妹さんを救えますけど? ハッキリ言いましょう、情報は大事ですが、それ以上に力が必要です。ワタクシはアヤナさんが求めてるいる力を提供できますわよ?」
「と言われましてもなぁ、火盧理さんとの取引を聞いてたでしょう? ワタシとんでもない取引をしたのに、それでもワタシを味方にしますか?」
「します。あなたが必要ですアヤナさん! ワタクシ達と来てくださいですわ!」
美娃がアヤナに手を差し出すと、真奈、秋歌、月名子も手を差し出してきた。
「多勢に無勢ですかねぇ、ワタシに拒否権ないじゃないでーすか。ま、良いでしょう。今の火盧理さんは正気ではない、いや元から正気じゃなかったかもでーすね。依頼と言うことでしたら、手を貸さないこともないデース」
依頼として割り切ったアヤナは、差し出された手を握るのであった。




