第80話『姉なんていなかった』
……ちょっと展開早かったかな?
「懐かしいわね。こうして二人っきりで学校の屋上から校庭を見下ろすのは」
「せやな。これで健悟郎も居れば、三人で過ごした高校時代を思い出すな」
桜友海学園。
荒蒔 火盧理が理事長として運営している学園。
主に何かしらの問題、例えば家庭や学校での人間関係などで行き場を失った学生を支援する為の学園ではあるが、普通の生徒も入学しているので、ただの支援学校と言うわけではない。
その屋上で火盧理と意思男の姉弟は冬休みが終わった生徒達が学校に向かう姿を眺めていた。
その中には真奈達の姿もあった。
「ふふ、微笑ましいわね。あの子達の誰かが、いずれ健也と結ばれるのだから、早く孫の顔が見たいわ」
「姉貴」
「わかってる、こんな話をする為に私を呼んだわけではないのよね?」
「せやな。単刀直入に言う、なんでワイの変装までして健也に近付いた?」
特に動じることもなく、いつも通りに火盧理は聞き返した。
「どうして私だと思ったの?」
「簡単や。ワイと姉貴は双子、しかも体格も身長もほぼ同じや」
「それだけで私が疑われるの?」
「だってありえへんやろ? ワイらの身長は120cm以下やで? それで年齢は40代以上なんて限られるやろ?」
「他には?」
「声や。ワイの声は結構野太い声や、そして姉貴の声は高い方や、それでも姉貴はワイと同じ声が出せるよな?」
「……」
「『特殊模範型声帯』どんな声もどんな言語も、どんな音も全て再現できる特殊声帯。荒覇芭木の人体実験で獲得した姉貴だけの能力やよな?」
「……ふ、あははは、あーあ、やっぱり意思男は騙せなかったか。そうよね、生まれた時から一緒だったもんね。意思男の自宅で零卦ちゃんに見つかった時点でバレるのも時間の問題だったわね、あははは」
渇いたような笑い声を上げながら火盧理は意思男の方を向いた。
「では問題です。何故私は意思男に変装してたでしょうか?」
そんな質問をしてる時点で認めているんだなと思う意思男は答えた。
「簡単や。姉貴は何かを隠してる、それが露呈しないように健也を間近で監視してた、そうやろ?」
「じゃあ私が意思男が居ない間に意思男の家に居た理由は?」
「何かを仕掛けていた。だが危険物などのトラップではないのは明らか。現にワイは一晩自宅で過ごして何もなかったしな。そう考えると盗聴器あたりか?」
「どうして盗聴器だと思ったの?」
「姉貴はこの学園の理事長やよな? そして今日は冬休みが終わった新学期の初日や。そんな忙しい時期に、こうしてワイと話せる時間を作れたと言うことは、事前にワイが来ることを知ってたから、無理矢理時間を作ったんやないか?」
「はい、全て正解。偉いわ意思男、花丸を上げたいくらいだわ」
笑顔で拍手をする火盧理を見て、快く思っていなかった。
「ねぇ意思男。もう一つ気付いてる事があるわよね? お姉ちゃん何でも答えるわよ」
「……こんな事、言いたくないんやが」
意思男は拳を強く握って答えた。
「姉貴が枯葉坂を死なせた『邪悪』本人やな?」
「その通りよ」
即答。それを聞いた瞬間、意思男は愕然とした。
「……否定してほしかった。言い訳してほしかった。なのに、なんでそんなあっさりと答えられるんや?」
「え? 事実なんだからしょうがないじゃない?」
首を傾げる火盧理を見て余計に心が動揺する意思男。
「現状維持をするってのは、アレは嘘やったんやな」
「嘘じゃないわよ? 私が邪悪であることを隠し通す為に現状維持を選んだの」
「健悟郎は、姉貴の夫は知ってるのか?」
「いいえ、だってあの人、嘘が下手だもん」
ニコニコしてる火盧理が不気味に見える。
「聞かせてくれないか? 何故枯葉坂を死なせた?」
「目障りだったからよ。だって憎いじゃない、健也を過酷な環境に2年間も置いた上に、3年間も健也を監視して、健也の心を闇に堕とそうとしてた組織のトップ、私達の敵、誰かが枯葉坂を止めなきゃいけなかったから、私が止めてあげたの。だって、意思男のやり方じゃ枯葉坂は一生倒せなかったわよ?」
確かに枯葉坂は自分達共通の敵。
だが、それでも。
「それでも死なせる必要がどこにあった! 枯葉坂は憎い! そんなのワイも姉貴と同じや! それでも枯葉坂には生きて罪を償ってもらいたかった! どんな理由があろうが、悪人でも死なせたり殺したらアカンやろが!!」
感情的に叫んだ意思男から目を離さずに火盧理は続けた。
「甘いわね意思男。悪人だからこそ、この世に必要ないじゃない。意思男、この世は理不尽だらけよね? 私達が育った環境だけじゃなく、学校も、会社も、何かしらの組織、集団も、立場が上だったら人は権力と言う名の暴力で弱い立場の人を攻撃するわ。私は、平気で人を傷付ける人間が憎い。そうねぇ、一人残らずこの世から消えてほしい。そう願ってるわ」
「ッ!?」
「それでね意思男、私は枯葉坂を利用することにしたの。枯葉坂がヤソカから受け継いだ電子複製体技術と私が受け継いだ荒覇芭木の人体実験。それらを融合して平気で人を傷付ける愚かな人間全てを消し去ることにした。私の提案に枯葉坂は承諾して死を選んでくれた」
「ちょっと待て、荒覇芭木の人体実験を受け継いだ?」
「隠しててごめんなさい。私、荒覇芭木の人体実験を密かに続けていたの」
「――――!!」
ショックだった。自分達の人生を狂わせた荒覇芭木の人体実験。不老不死を目指した研究を、目の前の双子の姉が続けていた?
「なんでって思ってるわね? それこそ明白、私は不老不死の研究ではなく、誰もが私達のような強力な生物になれる実験をしてたの。この誰もがが重要よ。これで自分は強い偉いと勘違いしたバカな人間達を、弱い立場の人間が一方的になぶり殺せるじゃない。でも実験には予算と場所が必要だった。そこで私はこの学園を選んだ」
「お、おいおい、まさか姉貴……その実験ってやつの被験者はこの学園の生徒やないやろうな?」
「……」
「否定してくれや!!」
頭が上手く働かない、今自分は、どうすれば良い?
混乱する意思男に火盧理は更に追い討ちをかけた。
「あ、そうだ。意思男が喜ぶニュースがあるわ」
「あ?」
「この学園の理事長になってから10年、失敗に失敗を続けてようやく成功した実験体がいるのよ。名前は、荒捜 月名子ちゃん」
「……は?」
月名子……意思男の愛する娘。
「姉貴、ワイの娘に手を出したのか? その意味不明な実験の為に……」
「大丈夫大丈夫、月名子ちゃん本人は気付いてないから」
それが耳に届いた瞬間、意思男の中で何かが弾けた。
「姉貴ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
最早、目の前に居るのは実の姉ではなかった。
人の形をした『邪悪』であった。
補足
今回明らかになった火盧理の設定は完全に後付けです。




