第77話『無意味な死はありえない』
「ではこれより、ヤソカ•キャッスルハートをタコ殴りの刑に処します」
ここは特殊な留置所。世界のあらゆる危険な犯罪者を日本国内で逮捕した場合のみ収監される場所。
ヤソカも例外ではない。ましてや、ヤソカは下手したら世界全てを敵に回せる程の危険性を持っているのだ。
なので、どんなことをしても逃げたり、何か企んだり、仕掛けたりできないよう、指先から爪先までまんべんなく全身拘束されているのだ。
そんなヤソカは天井からワイヤーで宙吊りにされながら、周囲を健也、天ヶ屋、意思男の三名と複数人の屈強な看守に囲まれていた。
「おいおい、タコ殴りってなんだい? 君達はボクと面会したかったんじゃないの?」
状況が理解できずとも、不敵な笑みを見せるヤソカに健也は言った。
「お前が今までしてきた事は今でも許されないし、何より俺にエロ本を買わせた事は万死に値する」
「それ私情ですよね、わかります」
「そもそも、なんで俺にエロ本を買わせたんだよ?」
「え? 嫌がらせですが何か?」
それを聞いた健也は看守から手渡されたメリケンサックを指にはめる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! え? なに? 荒蒔君ってその歳でエロ本を買うのに抵抗感じてたの?」
「そうですが何か? お前のせいで俺は大恥をかいたんだよ」
ゆっくりと拳を振り上げる健也にヤソカは必死に抵抗しようともがくが、拘束具のせいで何もできない。
「いやぁぁぁ!! それ絶対痛いやつぅ! 荒蒔君、昔一緒に働いていた頃に缶コーヒー奢ってあげたじゃないか! その恩を仇で返す気かい!?」
「そんなショボい恩でなんとかできると思うなぁぁ!!」
「ひぎぃやぁはぁぁぁ!!?」
○ ○ ○ ○ ○
その後、ヤソカは健也と天ヶ屋と意思男の3人にサンドバッグにされる事30分。
「気が済んだがい?」
ヤソカの顔がボコボコになったところで、3人は殴る手を止めた。
「はぁ、はぁ、結構頑丈な奴だな」
「驚くのはまだ早いぞ健也」
天ヶ屋がそう指摘すると、ヤソカの顔がみるみる内に腫れが引いて回復。と言うより再生していく。
「これがヤソカの能力の一つだ。超再生、コイツはどんな傷もすぐ再生してしまう体質なんだ。どうせ自己改造でもしたんだろ」
それを知った健也は看守の一人に質問した。
「延長戦良いですか?」
「了解、許可します」
「ありがとう、もう一回殴れるどん」
健也が構えると、ヤソカはまた抵抗しようとする。
「いい加減にしなよ荒蒔君! 君達はこんな所で遊びに来たわけじゃないだろ!?」
ヤソカの言い分に意思男も同意した。
「まぁせやな。健也、コイツから聞きたい事があるんやろ? 何があってもワイと天ヶ屋さんが守ってやるわい」
流石に冷静になった健也はヤソカに聞きたい事を聞くとした。
「そうだな。まずは枯葉坂についてだ。アイツは自害する人間なのか?」
「その質問に関してはNOだね。あの人が自害するなら条件があるからだ」
「条件?」
「あの人は無意味な死は絶対しない。歪んでるけど、人類救済を本気で考えてた人だからねぇ。例えば、枯葉坂さん一人の死で誰か、もしくは大勢の人間の人生が未来永劫報われるなら迷わず死を選ぶはずさ。でも、そんなの無理だよね? 枯葉坂さんだって一人の人間だ。誰か一人の死で未来が一生明るくなるなんて普通はありえないね」
断言した。
つまり、枯葉坂を自害させた『邪悪』は枯葉坂が無意味ではなく意味のある死だと判断させることができる条件を提示した事になる。
枯葉坂の言葉を思い出す「これはビジネスだ」アイツはそう言っていた。
ビジネス? じゃあ、枯葉坂が死んだ事は何かの伏線か?
「じゃあ次の質問だ。邪悪とはなんだ?」
「それは初耳だ、枯葉坂さんが言ったのかい? ふーむ、あの人をもってして邪悪と言わしめるか、一度会ってみたい気がするな」
「俺達も邪悪を追ってるんだ。何か心当たりはないか?」
「それは流石にないな。ごめんちょ」
舌を出してわざとらしく反省するヤソカ。逆に腹が立つ。
「じゃあ、心のデジタル化なんて可能なのか? 枯葉坂は俺の心を機械で読み取って複製するとか言ってたが、そんなSFみたいな事が可能なのか?」
「できるよ。だって、その技術を提供したのボクだし」
一瞬固まる健也。
「あのさ、なんでボクがヤソカなんて名乗ってると思ってるんだい? ヤソカの語源は日本の八十神からきてるんだよ?」
八十神。つまり日本の神々の総称である。
多くの神の総称が八十神。
心は精神。
精神?
「まさか!? お前のヤソカの意味は!」
「ご明察、ここで言うヤソカとは『大勢の精神』を意味してるんだよ。ボクは他者の心を複製して複製して、偽りの人間を作ったり、この技術で何百年も生きてるんだよ。つまりボクの不老長寿の正体は精神の投影。今風に言えばボクは電子複製体なんだよ。オリジナルのヤソカなんて、とっくの昔に死んでるよ〜だ」
衝撃の事実を知った健也達は同じことを思った。
(またコイツの仕業か)
かつて荒覇芭木の人体実験に拍車をかけたのもコイツだ。
きっと健也達の知らないところでも悪さをしまくってきたのだろう。
「よし、やっぱ殴るの延長するわ」
「ええええ!?」
○ ○ ○ ○ ○
「ねぇ、荒蒔君、ボクの、かお、どう、なってる?」
「蜂に刺されまくったタコみたいな顔してる」
「どんな顔だよそれ、まぁいいや」
やっぱり回復するヤソカ。
それを見てうんざりする健也。
「気が済んだかい? 結局ボクがしたのはあくまでも技術提供だけだよ? その後どうなろうが知ったこっちゃないよ」
「お前って本当に無責任だよな。一緒に働いてた頃もそうだったけど」
使用したメリケンサックを看守に返却する健也は帰ろうとした。
「え? もう帰るの?」
「だって、これ以上収穫ないだろ? なら、もう用済みだ、じゃあな」
「ところがどっこい、そう言うわけには行きません」
呼び止めるヤソカに呆れて振り返る健也。
「まだなにかあるのかよ」
「あるね。荒蒔君、君は重要な事を見落としてるよ」
「へぇ、なんだよ?」
「己の『悪』だよ」
一瞬緊張が走る。
「枯葉坂さんにも言われたろ? お前は悪だってさ。荒蒔君、君は自分がどう言う悪なのか意識してるかい?」
「はっ、そんなの枯葉坂の世迷言だろ? 俺は生まれた時から、組織にいた時からもそうだ。俺は一度も悪行に手を出してない」
「……こりゃ重症だわ」
首を振って呆れるヤソカを見て健也は逆に問い詰めたくなった。
「俺のどこが悪だって言うんだよ?」
「良いよ、教えてあげる。ただし天ヶ屋さんに意思男君も覚悟しといてね。君達は絶対に荒蒔君を味方として見れなくなるから」
「なんやと?」
健也達が身構える中、ヤソカは静かに口を開いた。
「荒蒔 健也君。君は、悪を知らない悪者なんだよ」




