第73話『決断の時』
初詣が終わって帰宅したら玄関のポストに一通の封筒が入っていた。
家を出る前はなかった物だ。
今は深夜なのに? と疑問に思いながら差出人を確認しようと裏返すと。
『この封筒は一人の時に開けてください。この事は荒蒔 健也以外には隠してください』
と、書かれていた。
「???」
何だこれは? と疑問を抱く健也の後ろから真奈、美娃、秋歌の三人がやってきた。
「ふぁ~、さすがに眠くなってきましたわ~」
「もう夜中の1時ですもんね」
「ん? どう、した、健也?」
咄嗟に封筒を隠した健也は早足で自分の部屋に向かった。
「あーその、もう遅いし、みんな先に寝てて、俺も眠たいからもう寝るね!」
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「ろ、露骨に怪しい行動を取ってしまった」
取り敢えず健也は自室に籠って封筒の中身を確認した。
そこには一枚の手紙が入っているだけであった。
「えーと、何々?」
『今夜3時にこの町を一望できる高台に来てください。もちろん一人で』
「……これだけ?」
これだけであった。誰なんだ? 怪しすぎる、せめて差出人の名前ぐらい書いてほしかったものだ。
しかし、よくよく見ると、かなり殴り書きで書かれている。こんな短い文章なのに。
相当焦って書いたのか?
「うーん、怪しすぎるしなぁ……誰が待ってるのか様子だけ見て帰ろう。本当に知らない人だったら怖すぎるし、その場合は警察に連絡しよう」
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約束の3時。この町を一望できる高台なんて一つしかないので、健也は約束の時間より10分早く来て、高台に生えてる一本の桜の木の影に隠れていた。
当然、桜の木は枯れている。今は冬だしね。
「……来ない」
約束の3時なのに誰も来ない。
「イタズラだったのか?」
「んなわけあるか、ドアホ」
「わぁぁあ!?」
突如として背後から声がして、健也は大きく飛び上がった。
後ろは崖なのに、どういうことだ?
てか、最近背後取られすぎ問題。
「あ……」
尻餅をついて顔を上げると、そこには意思男が立っていた。
「意思男おじさん……まさか、崖よじ登ったの?」
服と手が泥だらけなので、なんとなく察した。
この人なら、やりかねない。
「おーおー、男が情けなく尻餅かいな」
「いやいや、背後取られないように背中を崖の方に向けてたのに声がしたら誰だってびっくりするよ!」
「はははは! 悪かったのぉ!」
健也は立ち上がって、尻に付いた土を払って意思男と向き合った。
「で? あの手紙は、おじさんなの? いつも通り電話か通話アプリを使えば良かったじゃん」
「いやぁ悪い悪い、これでも結構切羽詰まっててな。電子機器による連絡は傍受される危険性があると思って手紙にしたんや」
「? 傍受?」
「それは置いといて単刀直入に言う。健也、お前は真実を知るか、このままにするか、どっちなんや?」
突然の質問であった。真実とは、まさか枯葉坂を間接的に殺した『邪悪』が誰かの事についてか?
「……それ、俺もずっと悩んでた。でも決めたよ、俺は知らなきゃいけないんだ。いや、知る義務がある」
「義務か……」
「だって、本当は俺が枯葉坂に引導を渡すべきだったんだ。枯葉坂が本当に俺の実の父親だったのか、俺の事をどう思っていたのか、もし俺が枯葉坂の息子なら、アイツの真意を全て知る義務が俺にあったはずなんだ。その機会を奪った『邪悪』に一言言ってやりたい……『本当に俺を愛してるなら、最後まで見守ってほしかった』」
「……なるほどなぁ、決意は固いってことか」
「正直に言うと、まだ真実を知るのは怖いけどね」
まだ不安定だが、ある程度覚悟が決まった健也を見て、意思男も自分の意思を伝えた。
「昔より大分マシになったのぉ、あの優柔不断歳下少女たらしのあの健也がのぉ、これが成長か」
「ちょっと言い過ぎじゃないかなぁ?」
「マジで前のお前そんな感じやったで? まぁこれで、まだうじうじしてたら喝を入れてこう言ってたやろうな。もしお前が『いつか決める』なんて言ってたら殴り飛ばしてでも『そのいつかはなぁ、永遠に来ないや! 今すぐ決めろやボケぇ!』てな」
あー、ちゃんとした決断持っててセーフだった。
そんな事言ってたら、今頃殴り飛ばされて崖から転落死してたかも。
「おっし、今日はそれだけ知りたかったんや! すまんな、こんな夜中に」
「大丈夫、気にしてないよ。ところで、おじさんは今後どのように動くか決めてるの?」
「まぁな、まずワイらは、もう一度会わなきゃならん男がおる」
「それは誰?」
「気が進まんやろうが、『ヤソカ・キャッスルハート』や」
「!?」
ヤソカ……かつては、健也の職場の同僚『心城』に成りすましていた諸悪の根源。
もう会わないと思っていたが、まさかもう一度会わなきゃならないとは。
「でも、なんでヤソカ?」
「ワイの知り合いに探偵の嬢ちゃんがおるの知ってたな?」
「えーと、アヤナさんだっけ? そういや、一度も会ったことないな」
「そのアヤナの嬢ちゃんからの伝言や『真実を知りたきゃ証拠を持ってこい』ってな」
「それってつまり……何か知ってるのに教えない?」
「せや、前々から怪しかったんや。ワイがアヤナの嬢ちゃんを疑うようになったのはヤソカの事や。アヤナの嬢ちゃんは、ワイの会社で働く心城の正体がヤソカだなんて、ワイには教えてくれなかったんや。美娃の嬢ちゃんに金を積まされて口を割ったようや。美娃ちゃんが口を割らせなかったら、今頃ヤソカは最悪な事をして最悪な展開になってしまってたやろうな」
そのアヤナと言う探偵、知ってるのに教えないタイプのようだが、話からすると、かなりの守銭奴のようだ。
金さえ払えば口を割るなら、美娃にでも協力しようかと考えたが、先程のアヤナの伝言を思い出す。
『真実を知りたきゃ証拠を持ってこい』
つまり、今回は金では解決できないようだ。そもそも証拠って、何の証拠だ?
「まぁ、仮定として『アヤナは邪悪と接触していた』かもしれない路線で捜査してみるか、手始めにヤソカとの面会や。ワイらは枯葉坂の事を知らなさすぎる。一番知ってそうなのは、今のところヤソカぐらいやろうな」
他に知ってそうなのは名前蒐集家の『荒捜 零卦』ぐらいか。
彼女はかつては、組織の幹部だったわけだし……て、よく考えたら、今は意思男の家で暮らしてるなら意思男本人に話さないはずがない。
つまり、彼女はシロなのだろう。組織にいた頃は必要最小限の情報しか与えられなかったのかもしれない。
「大体の目星はついたな。ほな、明日は天ヶ屋さんに連絡して、ヤソカに会えるか聞いてみるわい、つーことで、連絡が来て、日程が決まったら、ワイの方からお前を迎えに行くから、それまでは、一緒に暮らしてる女の子達とイチャイチャラブラブMAXフィーバーしててくれや」
「さっきから一言以上多いね」
そう言い残し、健也は立ち去ろうとした時であった。
「あ、注意事項があるの忘れてた。気を悪くしたらすまんやで」
「ん?」
「お前が一緒に暮らしてる三人娘を信じるな。もしかしたら、あの三人の誰かが『邪悪』と繋がってる共犯者がいるやもしれん」
「俺に、あの子達を疑え、と?」
「念の為に見張っとけ、絶対何か三人の内の誰かが何か隠してるぜ」
「……考えたくないことだ」
今度こそ健也は立ち去って、空を見上げた。今日は一段と星が綺麗に見える。
これから先の未来も、輝いていたらいいなぁ。
まぁ、おみくじ『極大大凶』だったが……でもやはり不安を完全に拭いきれない健也であった。
あ、最近前書きと後書きが、だんまりな理由なのですが、僕の何気ない発言で、この作品のストーリーに関わる重大なヒントが出てしまう恐れがあるので、全ての真相が分かるまで、しばらく黙ります。
でも補足とかは後書きに書くかもです(^^)b




