第72話『あけおめ』
「3……2……1……」
「「「新年明けましておめでとうございます!」」」
大晦日、遂に年が変わった。
年が変わる瞬間を健也は真奈、秋歌、美娃の三人と共に自分達の自宅で新年を迎えたのであった。
去年を振り返ると本当に色々起こりすぎて健也は心身ともに疲れを感じてはいたのだが、こうして誰かと新年を迎えるのは久し振りな気がする。
「ではでは、これから四人で初詣に行きましょう! 月名子ちゃんは家族と行くと言ってたので私達四人で行くことになりますね!」
真奈はウキウキしている。
余程この四人で初詣に行くのが楽しみだったのだろう。
〇 〇 〇 〇 〇
「うわー人がいっぱいですねー」
健也達は近くの神社へ歩いて来たのだが、すでに初詣客で溢れかえっていた。
「みんな、はぐれないように気を付けてね」
一応歳上の健也が三人の保護者として三人に声かけをする。
「おーほほほ! 人が多いとはいえ、そうそうにはぐれるわけが……あら?」
美娃はあることに気付いて周囲をキョロキョロして、一人だけ居なくなっていることに気付いた。
「秋歌は?」
「あれ?」
さっきまで一緒に居たのにどこに行ったのだろうか?
「まさか……迷子?」
「そん、な、わけ、ある、か」
「わぁ!?」
健也の背後から秋歌が現れて健也はびっくりした。
ちょっと前に枯葉坂に背後を取られたこともあってか、どうも健也は背後を取られるのが嫌になっていた。
そんなことを知ってか知らずか、秋歌は健也に何かを差し出した。
「ほ、れ」
「これは、甘酒?」
「ん、あっちで、甘酒、配ってた、ぞ」
「それを取りに行ってたの? せめて一声かけてよぉ」
文句を良いながらも、健也は秋歌から受け取った甘酒を飲んだ。
「あら? ワタクシ達の分は?」
「は? それぐらい、自分で、取りに、行けよ」
「あ、あらあら、久し振りに秋歌と喧嘩したくなってきましたわ~」
指の関節をパキパキと鳴らす美娃を真奈が制止する。
「ま、まぁまぁ良いじゃないですか。では、私達も甘酒もらって来ますので、健也さんと秋歌はそこで待っててください」
そう言うと、今にも暴れだしそうな美娃の手を引きながら、真奈は美娃と二人で甘酒を取りに行った。
「……よし、これで、二人っきり、に、なれ、たな」
「もしかしてわざと、こんな状況を作ったの?」
「まぁ、な」
「……………」
「…………………」
気まづい、一度秋歌の方からフラれたのだから気まづい。
最近、秋歌との間に距離を感じていたのだが、これは一度話し合うチャンスなのではないだろうか?
「「あの……あ」」
健也と秋歌の声が被ってしまった。
「な、何かな?」
「い、いやいや、健也の方、から、先に、どうぞ」
恥ずかしさと照れもあってか、秋歌の顔が真っ赤になりながら、健也が先に言うように促した。
「そ、そうかい? それじゃ……えーと、俺もまだ心の整理が出来てないんだけど、秋歌ちゃんの命を狙った組織はもう居なくなったと思う……それでその、クリスマスの時に俺が言った事、覚えてる?」
「組織の、問題が、解決、したら、もう一度、健也の事を、考えてくれ、のことか?」
「う、うん。まだ確信は得られてないけど、もう組織は襲ってこない。もう一度俺の事を考えてくれるかい?」
「ん、ワタシも、同じことを、言おうと思ってた」
秋歌は背伸びをして、健也の耳に小声で囁いた。
(次は必ず健也をワタシのものにするから覚悟しとけよ)
「!?」
「ふ、照れたか、ワタシの勝ち、だな」
「不意討ちすぎる……ハッ!?」
秋歌の囁きに戸惑っていると、目の前にジト目をした真奈と美娃が甘酒を飲みながら、こちらを凝視していた。
「秋歌……抜け駆けですか?」
「ふーん、クリスマスの日に健也をフッておきながら抜け目ないですわねー」
二人の視線が痛い。自分が悪いわけではないのだが、本当に痛い。
「ふふ、隙あらば、健也の心を、奪うから、な、油断するなよ、二人とも」
〇 〇 〇 〇 〇
甘酒を飲んだ四人は賽銭箱の前に立ち、小銭を入れて二礼二拍手をして手を合わせて、それぞれが今年の願い事を心の中で願った。
(今年こそ健也さんと結ばれますように)
(今年こそ二人を出し抜いて健也と結ばれますわ)
(……まぁ、結ばれるだろ)
三人とも同じ事を願う中、健也だけは、どの願いにしようか悩んでいた。
枯葉坂を死に追いやった『邪悪』が誰なのか、その真実を追求すべきか。それとも、このまま現状維持をすればいいか。
この二択で迷っていた。
現状維持なら何も起こらないし、自分が傷つくこともなければ、自分の身の周りの人達が危険な目に遭わないだろう。
平穏を望むなら『現状維持』。
しかし健也……真実が知りたい。
例えそれが、どれだけ残酷な真実だろうが、自分は知らなくてはいけない気がする。
何より、枯葉坂には聞けていないことがあった。
枯葉坂が本当に健也の実の父親なら、母親は誰だ? 健也が赤ん坊だった頃に健也を守りながら死んでいたと言う女性がそうなのか?
そして何より、枯葉坂は自分の事をどう思っていたのか聞けていない。
枯葉坂の言葉だけだと、単に健也を野望の為の道具としか見ていなかったように思えるが、あの男から感じた『優しさ』のようなものは何だったんだ? 本当に健也のことを道具としてしか見てなかったのか? とてもそう思えなかった。
だが、もうそれを知る機会は訪れない。
(………決めた。俺の願いは……)
健也は何を願うか決めた後に、四人は神前に一礼してから、おみくじを買った。
真奈は喜んで、美娃は落ち込んで、秋歌はドヤ顔をしていたので、三人のおみくじの結果は大体予想できる。
健也のおみくじは……。
極大大凶。
「……………は?」
なんだ極大大凶って、きっと神主がイタズラ心で作ったのかもしれない。
健也は無言でおみくじを結んだ。
「健也さんはどうでした?」
と、真奈が聞いてきたが。
「うん、普通だったよ」
と、言い逃れをして、健也達は帰路についた。
健也は今後どうするのか、どのような行動をとるのかは、まだまだ先の事となるのであった。




