第7話「トリプルデート『美娃』編」
寝すぎて頭痛、吐き気に襲われてる状態で書いてしまった。
寝すぎは体に毒ですね。
「健也ぁぁぁぁ!! この後どうします!? ホテルね! ホテルへワタクシを連れ込むのですわよね!? キャー!!」
「な、ちょ、ホテルって何のこと!? 今会ったばかりだよね!?」
いきなり抱き付いて訳の分からない言動を発する金髪少女『美娃』ちゃんが、予定よりも早く待ち合わせ場所に現れた。
俺は戸惑いながら周囲の反応にいち早く気付いた。
近くに居る人達から冷たい視線を感じる。
やばい! 年下の子が抱き付いて、いきなりホテルとか言い出すから物凄い誤解されてる!?
「と、取り敢えず落ち着いて、それから離れて!」
「あーん!」
俺は美娃ちゃんを引き剥がして、落ち着かせる事にした。
「ハッ!? ワタクシとした事が、少々取り乱してしまったようですわね」
やっと正気に戻ってくれた。真奈ちゃんや秋歌ちゃんと違って、かなり積極的で大胆な性格だな。
「淑女として、はしたなかったですわね。では気を取り直して、ご機嫌よう荒蒔 健也、今日は二人っきりのデートになりますわね」
これで最後だ。美娃ちゃんとのデートで今日の予定は終わる。
ただ、一つ問題が、この後美娃ちゃんと水族館を回る事ができない可能性がある。
何故なら館内には真奈ちゃんが居る可能性があるからだ。なんで戻ってきたのか分からないけど、見付かると厄介な事になりそうだ。
一体どうしたら……。
「け、健也さん!?」
聞き覚えのある声を聞いて俺の体がビクッとなった後にゆっくりと声が聞こえた方を見ると、そこには真奈ちゃんが居た。
「ま、真奈ちゃん……」
\(^o^)/
真奈ちゃんと目が合った瞬間に頭の中で真っ先に思い浮かんだのは、このふざけた顔文字だった。
「あーら、誰かと思えばモブ庶民じゃない。一体何のご用なのかしら?」
「健也さん、まさかこの後の予定って、その人に会う事だったのですか?」
どうしよう、なんて言い訳したら……。
「あぁなるほど、貴女と健也はワタクシが来る前に会っていたのですわね?」
物凄い理解力!
「そ、そうです! てっきり、私だけ誘ってくれたものだと……」
「はっ! 思い上がりにも程度がありますわね! 確かにワタクシもそう思っていましたが、ですが貴女とのデートは既に終わったのでしょう? ならばここからはワタクシが健也とデートをする番ですわ。用が済んだ部外者はとっととお帰りなさいな!」
そう言って、美娃ちゃんは俺の腕に抱き付いて俺を水族館とは反対の方向へと連れていった。
「さぁ健也、あんな地味な女と回った後の水族館をもう一度回るのはつまらないでしょう? ですので向かいのテーマパークへ向かいましょう。既に下調べは済ませておきましたので」
「ちょ、ちょっと待ってくださ……」
真奈ちゃんが呼び止めようとしたら、真奈ちゃんの目の前に執事の格好をした青年が現れて真奈ちゃんの行く手を阻んだ。
「そ、そこを退いてください!」
「申し訳ございません。私は美娃お嬢様の執事を務めさせて頂いております『時真』と申します。これからお嬢様は健也様とデートをなさいますので、今日はお引き取りを」
「そんな、健也さーん!!」
後ろで俺の事を呼ぶ真奈ちゃんに俺は謝ることしかできなかった。
「黙っててごめん! 明日ちゃんと謝るから!」
これだけだと今の俺って、二股してる最低な男みたいだな。
〇 〇 〇
PM3:30。
龍魚水族館の向かいにあるテーマパーク。
そこの観覧車に俺達は乗っていた。
「……何故いきなり観覧車?」
「何故って、ここなら二人っきりの時間を楽しむ事ができるではありませんか」
数あるアトラクションの中でいきなり観覧車を選ぶとは、確かにここなら二人っきりになれるな。
「ところで健也、ワタクシを見て何か思うことは無いのかしら?」
「えーと……」
美娃ちゃんの服装を改めて確認する。
キャバリアブラウスの上から胸開きのジャンパースカート。
シンプルだが、胸が強調されていて、見ているだけでドキドキしてしまう。
「と、とても似合ってるよ」
「ぐはぁ!!」
「えぇ!?」
いきなり謎のダメージボイスを発しながら座席へと倒れ込む美娃ちゃんを見て、俺は慌てて立ち上がってしまった。
「だ、大丈夫?」
「はぁ、はぁ、あぁ、好きな殿方に褒められる事が、こんなにも至福だなんて、生きてて良かった……」
「ちょ!?」
なんか今にも死にそうな台詞を言い残し、美娃ちゃんは気を失った。
かと思われたがすぐに起き上がった。
「おーほほほ! 気を失ったかと思いました? そんなことございませんのでご安心を」
なんか、結構テンションが高い子だな。大人しい真奈ちゃん、物静かな秋歌ちゃんとは正反対だ。
「そ、そうだな。せっかく二人っきりだし、美娃ちゃんの事を聞かせてくれないかな?」
「まぁ!? ワタクシに興味津々! 嬉しさの余り……」
「あ、いや、もう変なリアクションしなくていいよ。ここ狭いし」
このままだと観覧車の中で踊りだすかもしれないと思った俺は念のため釘を刺しておいた。
「すみませんね。ずっと恋焦がれていた人と密室で二人っきりな状況に浮かれてしまいましたの」
本当にこの子を落ち着かせるのは一苦労だな。
せっかくだし、俺は気になっていた事を聞くことにした。
「気になっていたんだけど、美娃ちゃんってお金持ちのお嬢様なの?」
「え? うーん、確かに人よりもお金はありますけど、お嬢様って訳ではありませんわ。仕方なくお嬢様のような振りをしているだけですわ」
お金はあるけど、お嬢様ではない?
「えっと、美娃ちゃんの実家はお金持ちじゃないの?」
「いいえ、実家は普通のラーメン屋ですわ」
? ? ?
「実はワタクシ一人で、この十年間で数十億単位のお金を生み出しましたの」
はぇ?
「十年前、ワタクシが健也に告白した次の日に父が株をしているのを見ましたの。それでワタクシは父に内緒でこっそり株を買ったら、なんか大成功しましたの」
なんだと?
「それからと言うもの、ワタクシは株等の投資で一度も失敗する事なく十年で億単位のお金を動かせるようになりまして、気が付いたら資産家の仲間入りをしてしまい、一人で『小院瀬見財閥』を立ち上げる事ができましたの」
は、話が飛び過ぎている。どうやらこの子は投資の才能があったようだ。
「それで思いましたの! 健也との約束は嘘でしたが、金さえあれば健也の心を買うことができる! 健也をワタクシ一人で永遠に養う事ができると! だから褒め称え、感謝なさい! おーほほほ!」
どうやら、元々は普通の女の子だったのが、ちょっとした切っ掛けでお金持ちの世界に入ってしまったようだ。
だが、それでも俺は思った。『金で人の心が買える』と思っている辺り、この子はまだまだ子供なんだと。
「さぁ健也! 友達とか回りくどい関係ではなく、もうこのまま夫婦になる道を……」
「断る」
「そうそう、最初っからワタクシと……え?」
「美娃ちゃん。君は確かに凄い。でも言わせて貰う、お金では俺の心どころか、人の心を買うことは決してできない。できたとしても、そこにあるのは君から金を奪う事しか考えてない『偽りの信頼関係』しか生まれない。だから人の心をお金で買っちゃいけないんだ。いずれ裏切られる」
それを聞いた美娃ちゃんは驚いた様子で俺に困惑したような表情を向けてきた。
「な、なんですの? ワタクシ裏切られた事なんて一度もありませんわ! お金があるからこそ、皆優しく接してきて、皆ワタクシを褒めて下さって、それからそれから」
「……」
「……ッ!?」
俺は無言で美娃ちゃんを見詰めた。
「あ、あぁ! な、なんですの? 一番褒めて欲しかったのは健也、アナタなのですわ! そのアナタが褒めてくれないだなんて……」
「美娃ちゃん。本当に俺と結婚したいと思うなら、お金以外のことであの二人と勝負すべきだ」
「あの二人? 真路 真奈と杠 秋歌の事?」
「あの二人は君と違ってお金持ちではない。それでも俺と結婚したいと思ってる。そこにはお金なんて関係ない、純粋に一人の女性として俺の心を手に入れたいと思っている。本気で俺が欲しいなら、俺を買っちゃダメだ。絶対に後で後悔する」
「そ、んな……」
いつも自信満々な美娃ちゃんが、急に子供のように大声で泣き出してしまった。
「う、うぅ! うああああああああん!! なんでそんなこと言いますの!? それじゃ、この十年間は一体なんだったの!!」
少し言い過ぎただろうか? だが、こうでも言わないと、この子はお金がないと何もできない大人になって、騙され、裏切られ、そしてお金が無くなったら何も出来なくなってしまう。
俺はこの子には幸せになってもらいたい。
だから大人として、この子に誤った道を歩ませてはいけないんだ。
「う、ぐ、わ、わかりましたわ」
そう言うと、美娃ちゃんは立ち上がって、俺を座席の上で押し倒した。
「な!? み、美娃ちゃん!?」
「では、お望み通り、お金ではなく女として健也の心を手に入れてやりますわ!!」
そう言うと、美娃ちゃんは突然服を脱ぎ出してしまった。
「美娃ちゃん!?」
「ワタクシをバカにした罪、その体で払ってもらいますわよ!!」
下着姿となった美娃ちゃんと観覧車と言う逃げ場がない密室空間。
これは、かなり危険な状況になってしまった。
もっとこう、普通のデートにすべきだったような気がしますが、なんかこんな感じになってしまいました。
私もお金関係で信頼してた人に金を騙し取られた経験があるので、こんな話にしました。
みんな、安易に人にお金を貸しちゃダメだよ。