第60話「ソロライブ 裏舞台編②」
友人「最近は『もう遅い』てのが流行ってるみたいやで」
僕「なにそれ?」
中々流行やトレンドを把握できない作者です。
秋歌のライブ開始10分前。
「チッ、やられた」
喫茶店の中から窓を通じて外を監視していた霧神が舌打ちをする。
「おいおい、確かに怪しい二人は現れたが、二人とも別々のビルに入っていくぜ? どないなっとるんや?」
意思男も監視していたが、霧神と意思男が目を付けていた三つのビルの内の一つにフードで顔を隠した人物が一人入って行き、もう一人、サングラスをかけたスーツ姿の女性がアタッシュケースを持って三つのビルとは別のビルに入って行く。
どちらかが狙撃手で、もう一人は観測者なのだろう。
普通に考えたら狙撃経験のある霧神が目を付けた三つのビルの中に入ったフードの人物が狙撃手の可能性があるが、フードの人物は手ぶらであった。
「どないする?」
インカムマイクに向かって意思男が美娃に相談する。
『……二人ともフードの人物を追ってくださいな』
「んだよ。二手に分かれなくていいのか?」
『これは陽動です。霧神君はプロの傭兵なのでしょう? だったら霧神君の読みは正しい、なのに相手は二手に分かれて別々のビルに入った。明らかに我々を警戒したフェイク。方法は分かりませんが、恐らくフードとスーツの二人は一ヶ所に合流するはず、ならば霧神君の読み通りのビルに入ったフードの人物を追い、フードとスーツが合流するのを待ってから奇襲をかけた方が良いですわ』
「だとよ。どうするオッサン?」
「言われなくても美娃の嬢ちゃんの言うとおりにするわい」
美娃の指示通りに行動すべく、二人は喫茶店を出ようとした時であった。
「あのーお客様、お代を払ってくれませんか?」
「あ……」
喫茶店の店員に呼び止められてしまった。早くしないとフードを見失ってしまう。
「……よし、オッサンが金を払え」
「なんでや!? ほとんどお前が注文してたやないか!」
「オッサンだって酒飲んでたろ! つーかオレ10代の若者ですよー? 社会人であるオッサンが奢れよ。あ、やっぱり見た目通りガキなのかー? 器ちっさ」
カチンッと来た意思男は渋々お金を払うことにした。
「じゃ、そういうわけでオレが先にフードを追うから後から付いてこいよー」
「おま!? 一人で突っ走るなや! 何のために組んだんや! て、金足りねぇ!? どんだけ食ったんやワレェ! す、すまんがATM行かせてくれ……」
〇 〇 〇 〇 〇
『霧神くーん、何おじ様を置いて一人で行動してるのぉ?』
インカムから美娃の怒りが籠った声が聞こえてくるが霧神は特に気にしてなかった。
「オレは元々一人で行動するのが好きなもんでね、オレ一人で狙撃手と観測者を倒すわ」
『あーもう! 取り敢えずフードとスーツが合流するのを待ってから行動しなさい! 良いですわね!』
「あいよー」
気の抜けた返事に美娃から苛立ちの声が聞こえるが無視無視。
フードがエレベーターを使って上に移動したので霧神は階段を使って移動した。
「オレの予想だが、フードとスーツは屋上で合流する筈だ、それしか考えられねぇ」
『まさか、ビルとビルの間を飛び移って移動するとでも?』
「できるんだよなぁ、それを可能にする道具をオレは知ってる、取り敢えずフードに追い付いたらオレは見付からないように見張ってるよ」
〇 〇 〇 〇 〇
『だるい、だるいだるいだるい寒い寒い寒い』
「うるさいぞ『ロット』。お前はフード被ってるから寒くないだろ」
『うるさいうるさい、もうすぐ冬なのに夜の高層ビルの屋上で狙撃とか意味不なんですけどー、なんで夜に野外ライブするのかわけワカメ、今すぐライブ会場担当の連中と交代してぇ』
「ここまで来てどうやって交代するんだよ。作戦に変更はない、今からお前が居るビルに……」
「行けるとええなぁ」
「!?」
スーツは声がした方角を向くと、屋上の手すりから手が出てきた。
「ふぃー、素手でビル登るのは大変やわい」
そこに現れたのは意思男であった。
エレベーターも階段も使わず、素手でビルの外壁をよじ登って屋上まで来たようだ。
「ばかな!? 貴様達二人はロットを追うはずだったのでは!?」
「やっぱりや美娃の嬢ちゃん、あんたの言うとおり、こちらの無線は傍受されとったわ」
『そう、ならこの無線はもう使えませんわね。後は頼みましたわ、おじさま、霧神くん』
そこで美娃の通信が途絶える。どうやら敵は傍受してこちらの状況を把握していたようであったが、霧神と意思男が上手く演技をしたお陰で敵を騙せたようだ。
「さーて、ビル上がりの準備運動も終えたことやし、いっちょやるか? スーツの姉ちゃん」
拳の関節を鳴らしながら臨戦態勢となる意思男。
「女を殴るのは気が引けるが、あんたらが、やろうとしてることよりかは何倍もマシやろうな、おぉ? プロの殺し屋さんよぉ」
「…………ふははは、まさか私の元に貴方が来るとはな縊死花、いや意思男。私は運が良い」
「何が良いんや?」
「だって貴方みたいな強い人から『名前』が貰えるチャンスだからさぁ!」
「はぁ? 名前?」
意思男は警戒を解いていない。スーツ女が持ってるアタッシュケース。あの中に組立式の狙撃銃や観測器具が入っているのだろう。隙を伺って、ケースを奪うか、もしくは破壊しなければ。
「実はさぁ、私『名前蒐集家』なんだぁ! 他人から与えられた名前を自分の新しい名前にするのが趣味なんだぁ! これまで多くの人から大切な名前を授かった! だからアンタも付けてくれのよぉ! 私に新たな名前を!!」
すっげぇ変な奴に遭遇してしまった。だがアタッシュケース、もしくはスーツ女がフードと合流するのはマズイ。
「名前、名前ねぇ、じゃあ付けてやるわい」
「わくわく」
「お前の名は……てぃ!!」
一瞬であった。意思男はスーツとの間合いを詰めて、顎に掌を当てながら地面に後頭部を叩き付けた。
「お前の名は『そのまま地面で寝てろや』だ」
「……………んんん」
頭から血を流しながらスーツはゆっくりと起き上がり、ブツブツと同じことを呟き始めた。
「そのまま地面で寝てろや……その……まま……閃いた! 私の名前は『字瞑 練羅弥』だ! うんうん! 新しい名前決定! ご協力ありがとうございます!」
スーツ、もとい練羅弥は意思男に一礼した後にケースから手を離した。
「なに!?」
ケースがワイヤーに引っ張られて隣の隣のビルの屋上、フードと霧神が居る場所にまで移動した。
「名前をくれたのに、ごめんね。これも仕事だからさぁ、ターゲットである杠 秋歌には、なんとしても人為的に死んで貰わないといけないんだ」
「どういう意味や?」
「私こと字瞑 練羅弥を倒すことができたら教えてあげようかねぇ」
〇 〇 〇 〇 〇
「はい、はいはいはい、ナイスキャッチなオレっち最高」
フードがアタッシュケースをキャッチすると、手慣れた動きでバラバラになっていた狙撃銃を組み立てて狙撃銃を構えた。
「出てこいよクレイ。お前とは前から勝負したかった……てか寒いから早く終わらせよ?」
屋上の扉に隠れていた霧神が拳銃を持って現れる。
「よぉ、久し振りのキスでも要るか? 陰気なロットくんよぉ」
「相変わらず殺気だけはいっちょ前だね。でも銃の腕ならオレっちの方が最強、これ常識、OK?」
「すぐやられる奴の常識なんぞ知るかバーカ」
二人はまだ銃を構えていない。これは早撃ち勝負だ。
先に引き金を引いた者が勝つ。
二つのビルの上で同時に死闘が始まろうとしていた。
次回予告。
できるだけ裏舞台偏は短めにできるように頑張ります。




