第56話「本当の気持ち」
信じられん、まさかこの作品を書き始めて一年が経つとは……しかも2万PV達成しました!
ここまで読んでくださった皆様に深く感謝します!
明朝
「ぐー、すぴー」
健也が一人、新しい住まいの自室で寝ている時であった。
ガラン、ガラン、と大量の鳴子の音が部屋に響き渡る。
「!!?」
自分が設置した罠である鳴子。足下の高さにワイヤー張り、侵入者が侵入すると音で知らせる罠だ。
本来は室内で使うようなものではないが、健也は新しい住まいで必要だと思って設置したのだ。
健也は鳴子の音を聞いたと同時に目を覚まして、布団を蹴り飛ばして起き上がった。
「……やはり来たか」
健也は自室の扉に注意を向ける。
そこには大量の複雑な鍵が掛けられていた。防犯にしては過剰だと思える程の施錠だ。
ガチャガチャ、と何者かが扉を開けようとしている。
「く、悪いが逃げさせてもらう!」
健也は施錠なんて、ただの時間稼ぎにしかならないと分かっていたので、急いで窓に駆け寄って窓を開けると。
「てい」
「ぐぁああああああああああ!! むぐぅ!?」
窓から別の侵入者が乱入してきて、健也は不意をつかれた。
口に熱い何かを押し込まれ、そのまま床に倒れると、施錠していた扉の向こうから謎のエンジン音が聞こえたかと思うと、扉を切り裂いてチェーンソーの刃が顔を見せた。
「け~ん~や~」
「むぐぅぐ、ぐぅぅぅ!!」
あまりの恐怖を目の前にして、そのまま健也の意識は途絶えた。
〇 〇 〇 〇 〇
「朝から何を訳のわからない茶番をしてるのですか!」
健也と美娃は真奈に怒られていた。
「だって健也を起こしに言ったら鍵がガチガチになってましたので、めんどくさいからチェーンソーでブッた切っただけですわ!」
「限度ッ! 健也さんも健也さんです! 昨日からルームシェアが始まったばかりなのに、なんで過剰すぎる防犯対策を徹底してるのですか!」
健也は真奈に怒られてしょんぼりする。
「そのぉ、なんて言うか……」
昨日から真奈達とルームシェアすることになったと言うのに、なんか健也が彼女達と距離を取ってると言うか、以前に比べたらよそよそしくなった気がする。
「ハッキリしないですね」
「面目ない」
健也が謝っていると、朝食の準備をしている秋歌が三人に声を掛けた。
「お前、ら、そろそろ、飯食わないと、遅刻、する、ぞ」
「それもそうだね。それと秋歌ちゃん、急に窓から侵入してアツアツのウインナーを口に突っ込まないでね、朝から口内火傷するところだったよ」
「それは、今の、健也の、態度が、悪い、からだ」
ぐうの音も出ない。
健也の今の状態は一旦保留にして、四人は朝食を食べた後、それぞれが学校と職場へと向かった。
〇 〇 〇 〇 〇
「どうしたんですかね健也さん」
学校の昼休み。真奈達と月名子は一緒に弁当を食べていた。
「あれじゃないですの? まだワタクシ達と暮らし始めたばかりだから緊張してるのかもしれませんわ」
「だからと、言って、あのトラップや、鍵は、異常だろ、オマケに窓から、逃げようと、してた、し」
本当に謎である。1ヶ月前のように再び健也と過ごせる時間が戻ってきたと言うのに妙である。
この四人の中で美娃だけが知ってることだが、一週間前に色んな事が健也の身に起こりすぎてるし、例の健也を誘拐した組織から狙われてるから警戒してるのだろうが、どうも今の健也は組織を警戒しての行動とは思えなかった。
完全に自分達と距離を取ってる。何故だろうか?
「まー兄ちゃんのヘタレ癖はそう簡単には治らねぇからしょうがねぇけどさ。確かに変だよなー」
月名子も不審に思いながら呟くと、月名子はあることを提案した。
「そうだ! サプライズなんてどうだ?」
「サプライズ?」
「いやほら、なんか兄ちゃんってさ、今は厄介な事に巻き込まれてるみたいじゃん? そのせいで極力お前達を巻き込みたくないと思ってんじゃないかねぇ。だからサプライズで思いっきしビックリさせてから『一人で抱え込む癖はいい加減やめろ!』て言って説得してやろうぜ!」
月名子が提案したサプライズ。確かにこのまま健也の真意を聞き出そうとしても話を反らされるかもしれない。
人間、何かしらビックリしたり喜びがMAXになった時が一番素直になれるものだ。
なので早速四人は健也を驚かせる作戦を計画した。
〇 〇 〇 〇 〇
「…………うーん」
会社の帰り、健也は悩みながら帰っていた。
いつまで続くか分からないが、これから毎日帰ったら、あの三人が待っているのだと思うと、中々今の自分の気持ちを素直に伝える事ができずに距離を取ってしまっているが、こんなの長続きしないだろうな。
「よし、明日……いや明後日、いや明々後日に言おうか……やばい、こんな気持ち初めてで頭が回らん」
モヤモヤしていると、新しいマイホームに到着していた。
今頃三人は夕食の準備をしてるのだろうなと思って玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
こんな事を言うのは月名子と前のアパートに暮らしてた頃以来である。
「………ん?」
返事がない。靴を脱いでリビングに入ると。
「!? ま、真奈ちゃん!?」
真奈がリビングに倒れていた。
「どうしたの!? 何があったの!?」
「け、健也……さん……逃げて、美娃が、組織の手先」
「み、美娃ちゃんが……?」
なんのことか分からず困惑していると、いつの間にか背後に美娃が立っていた。
「おーほほ! 油断しましたわね健也、ワタクシが貴方の人生を滅茶苦茶にした組織の手先だと知らなかったなんて、おバカさん」
「そんな……冗談……だよね?」
健也が立ち上がって美娃に向き合うと、臀部から鋭い痛みを感じた。
「が、は?」
「油断、したな、健也」
振り返ると、そこには秋歌がドライバーで健也の尻をカンチョーしていたのだ。
「そんな、秋歌ちゃんまで……」
健也は絶望の中、尻を押さえながら横たわるのであった。
薄れゆく意識の中、リビングの窓の外から月名子が立っているのが見え、一枚のプラカードを持っていた。
『ドッキリ大成功!!』
と書かれたプラカードを……。
〇 〇 〇 〇 〇
「冗談でもやめてよ! 本気で焦ったじゃないか!」
「まさか健也さんが、ここまで純粋だとは思わなかったです」
茶番じみたサプライズを終え、真奈達は健也に事情を話した。
「おーほほ! どうですどうですの! ワタクシの名演技!」
「すまんな、健也、尻、大丈夫、か? 手加減、した、つもり、だが」
「あー大丈夫だよ。まだ痛いけど」
こんな子供じみたイタズラを彼女達にさせてしまっていたんだなと健也自身も反省しながら、今の自分の気持ちを素直に伝える事とした。
「ごめん、昨日からよそよそしかった理由なんだけど、1ヶ月前、俺は女子高生に興味がないって言ったの覚えてる?」
三人は頷く。
「え? もしかして、まだ興味ないのですか? 私達とキスしたのに」
「うん、女子高生は今でも興味がない、そこは変わらない。なんて言えば良いのかな……その、君達の事を女子高生ではなくて『女性』として意識してしまってるんだよ!」
若干早口で健也がそう言うと、三人は驚いた顔をする。
「もう君達を女子高生として見れなくなったから、どう接すれば良いのか分からなくて悩んでたんだ、なんかごめん」
そう言うことだったのかと、納得した三人は嬉しそうな表情を浮かべた。
「な、なんか、そう言うわれると恥ずかしくなりますね……」
「やーとワタクシ達の魅力に気付いたのですの? 遅すぎますわ!」
「まぁ、なんだ、嬉しいな」
健也の気持ちを知った三人は改めて心に誓った。
もっともっと、自分達を好きになってもらおうと、そう決心したのであった。
「うお~い、サプライズ終わったなら中に入れてくれぇ、外は寒いよぉ~」
一人置いてけぼりにされた月名子は悲しそうな顔でリビングの窓ガラスを叩くのであった。
なんか最近シリアス続きだったから久し振りの日常回で息抜きできた感じがします。
今回の話を書いた感想は、この作品の原点回帰が出来たんじゃないかなーと言う感じです。




