第52話「広がる世界、変わらぬ運命」
今回はちょっと短目! てか、いい加減ラブラブコメコメしたい。
「健也、改めて久し振りですわね!」
「美娃ちゃん……」
心城ことヤソカ・キャッスルハートと、その信者25名を警察と小院瀬見財団の手によって拘束された日の夕方であった。
町の中にある大きな橋から川と夕日を眺めながら健也と美娃は改めて再会した。
「まさか美娃ちゃんが、あそこまで行動的だったとは思ってもみなかったよ」
「あーら? 見直しました? 見直しましたわね? てことは真奈の時のようにあつ~い接吻をワタクシにしてくれるのかしら?」
「………!? え、な、なんで真奈ちゃんとのこと知ってるの!?」
「それは、えーと……偶然見てましたからですわ!」
自分と真奈がキスしてるところを見られていたと思うと恥ずかしくなってきた健也であった。
「それで、その、嫉妬しちゃいましたの。真奈は親友だから応援したいし、でもやっぱり健也は取られたくないしでモヤモヤしてましたの」
そわそわし始めた美娃を見て、改めて健也はずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。
「……ねぇ、今更で申し訳ないんだけど、美娃ちゃんは俺のどこが好きなの? 正直に言うと真奈ちゃんや秋歌ちゃんもそうだけど、10年前に一回会っただけだよね?」
「……健也ってば、バカですわね~、幼い頃の乙女の気持ちを真に理解してませんわ」
「と言うと?」
「いいですの? 7歳の子供にとっての世界は家と小学校が基本なのですわ、その他は所詮は追加要素でしかないですの。成長するにつれて人は自分の世界を徐々に広げていくものなの、健也だってそうだったでしょ?」
言われてみればそうだな、と納得した健也。
「家と学校、その二つの世界以外からやって来た健也はワタクシ達にとっては特別な存在なの。健也にとっては何気ない事だったとしても、ワタクシ達からすると自分の世界を広げてくれた恩人なのです! そんな人を好きになるのにちゃんとした理由なんて要りますの? 誰か好きになるのなんて理屈じゃないですの! 理由が欲しければ後で適当に付ければよろしいですわ!」
そう言い切ると、美娃は健也の手を握って健也の両目を凝視した。
「だから健也、ワタクシは貴方の傍に居たい、ワタクシじゃなくても良い! 幸せになった健也の傍に、近くに居たい! だから健也……ワタクシを傍に置いてくださりませんか?」
美娃の目から涙が滲み出ていた。
「まいったな。年下の女の子にそこまで言わせてしまうなんて、歳上としてカッコ悪いな」
「良いじゃないですの、今からかっこよくなれば!」
唇に柔らかい感触を感じた。これで三度目だから分かる。
今自分は美娃とキスをしているのだと気付いた。
このキスをキッカケに、健也はかっこよくなろうと決めた。
彼女達の為だけじゃない、今の自分を変える為にも。
● ● ● ● ●
「めでたしめでたし、そう思いました? 天ヶ屋 宗也くん」
護送車の中で、ヤソカ・キャッスルハートは指一本も動かせない状態で厳重に拘束された状態で、隣に座ってる天ヶ屋に声をかけた。
「ヤソカ、お前と直接会うのは、これが初めてだが、なんとなく分かるぜ」
「ほーう? 何をかな?」
「ワザと捕まったな、お前」
それを聞いて笑みを溢すヤソカ。
「何故そう思ったか聞いても良いかな?」
「オレが荒覇芭木に娘を取られて復讐に燃えていた頃、当然お前の存在を知っていたさ。だが30年だ、30年間もしっぽを出さなかったお前が、こうもあっさり捕まった事が納得いかねぇ」
「警官としての勘ですかな? そうだよ、荒蒔 健也に僕の正体を明かしたかったのは事実だし、あの場で逃げられるならラッキー程度に考えていたさ。でも万が一、僕が捕まったら天ヶ屋さん、貴方に直接会えると考えてワザと捕まる前提で動いていたのさ」
「オレに用があるってか?」
「えぇ、一つ、君に言いたい事があったのさ」
ヤソカは薄気味悪い笑い声を出しながら口を開いた。
「僕が居ようが居まいが、君達の運命は変わらなかったって話だ。確かに荒覇芭木が急成長したのは僕の仕業さ、だが僕が手を貸さなくても荒覇芭木は非人道的な実験を続けていただろうね。僕と荒覇芭木の出会いは偶々だよ」
「……つまり何が言いてぇ?」
「天ヶ屋さん、君の娘さんが死ぬ運命は僕が居なくても最初から決まっていたってことだよ、アハハハハハハハハハ!」
「テメェ!!」
天ヶ屋はヤソカを殴った。自分の事を棚上げにするクズの顔を何発も殴った後にヤソカに憎悪に満ちた目を向けた。
「あぁそれそれ! 僕が欲しいのはその目だよ! 僕はその目で見られたくてたまらないのさ!」
「ヤソカよぉ、お前、自分が『偽善悪』とか言ってたが、お前のそれは偽善じゃないな。『承認悪』だ、人間が誰しもが持つ承認欲求の延長線上だ。お前は自分が『悪』として認められたいだけのクズだ!」
「あー、最高最高! そう言われると本当に興奮してくるよぉ! もっと僕を悪く見てくれ! 僕は悪者として認識してくれぇ!」
「この狂人が!」
その後、ヤソカは要注意人物として、厳重に拘束されるのであった。
【補足】
ヤソカを含めた最初の偽善悪5人には序列があり、これは最も偽善悪に相応しい『悪』を格付けしたもので、順位が高いほど偽善悪になれる『悪』とされているが、ヤソカの順位は最下位の五位。
つまり最も偽善悪から程遠い『悪』と認定されていて、仲間からも嫌われていた。




