第108話『神には逆らえない』
「ん……」
美娃が目を覚ますと、そこは自身の屋敷の中にあるベッドの上だった。
「気が付いたか美娃たん」
「お父様……」
ベッドのすぐ隣の椅子に美娃の父親である彈が座っていた。
「ねぇ、お父様、ワタクシ達の人生ってなんだったのですの? 本当にイニティウムなんて言う他人に操られてただけだったのですの?」
長い沈黙の中、彈は口を開いた。
「お父さんも最初は信じられなかった、だがゴッドマンを部下にしたその日の夜に、奴はお父さんの寝室にやって来て正体を明かしたのだ」
数ヶ月前。
「バカな、小院瀬見財団も、美娃たんも、全てお前が仕組んだ事だったと?」
驚きを隠せない彈にイニティウムは続けた。
「うむ、我は我が同胞であるマカヤと言う男の安眠を守る為に巨大な組織の力が必要であると言う計算結果が出た。それが小院瀬見 美娃だった。しかし我が運命観測の結果、ある男を殺す為にはマカヤを眠りから醒まさせる必要があると言う結果が出た。マカヤさえ目覚めれば小院瀬見財団など用済みだ」
「用済みになった後どうする気だ?」
「いやぁ? 何もせぬ、危害も加えぬ、本当に何もしないぞ?」
嘘は言ってない様子であったが、それがかえって不気味に見えてしまった。
「……仮に、お前さんの言う通り、我が財団がお前の力で成り立っていたと言うことは、その何もしなくなった結果、自然消滅する、ということか?」
「どのような解釈でも構わぬが、本当に何もしない、もう汝の娘にも手は出さない事をここに誓おう、しかし散々我の力で生きてきた普通の娘に、果たしてこれからを生きる力があるかな?」
その言葉に怒りを感じた彈であったが、この男には勝てない。武道に精通してる彈ですら、底が見えない、強い弱いすらも超越した超常的存在。
この男に逆らってはいけない。それだけは理解させられてしまった。
まさに神に等しい存在。こんなのが、この世に居て良いのか? 方法なんて分からないが、運命を自在に操作できるなんて馬鹿げてる。
どうしても彈はイニティウムの言葉を信じる事は出来なかった。
「……なるほど、汝は我の力が理解出来てないようだな。ではこうしよう」
と言ってイニティウムは一枚のコインを彈に投げて、彈はそれをキャッチした。
「これは?」
「それを10回投げろ、予言してやる、10回全て表になる。この意味がお前に分かるか?」
コイントスで10回全てが表になる確率は0.097%。
現実的な数字ではない。そもそもありえない。
念のためコインに細工がないか調べたが何もない。
「恐れる必要はない。なんならもっと数を増やしていいぞ? 100回でも1000回でもな。その全てが表になると予言してやろう。それとも別のコインにするか?」
「……面倒だから、このコインで10回投げるよ」
彈は少しインチキをしようとした。敢えてゆっくり投げて、彈の動体視力でも見える速度の回転をコインに加え、裏が上を向いたところでコインをキャッチした。
完璧だ。やはり運命を操れるなんて嘘だったんだ。
そう思って手を開くと。
「!!?」
表だった。
「そんな、何故だ?」
「言ったであろう、全て表になると」
「く、くそ!」
その後も彈は何度も何度もコインを投げた。最初の10回をオーバーする回数を投げ続けた。
もう何回投げたか分からないが、たぶん100回以上は投げたと思う。
しかし結果は全て表であった。
「はぁ、はぁ、私は、今何を見せられている? こんな事はありえない」
「ありえなくはない、我は汝が165回コインを投げて全て表が出る未来を見つけて引き寄せただけにすぎない」
「わ、訳がわからない」
「ふむ、そうだな、ではお前の後ろにある金庫の番号を当ててやろう、番号は1221だな? これは汝の妻にとって大切な番号だな。どうやらプロポーズした日にちのようだ」
「な、え?」
何故知ってる? 誰にも話してないのに、どうやって?
「他にもまだまだあるぞ、我は汝の全てを知っている。未来だけではない、過去も、現在も、時間も、汝だけではない、我はこの世に存在する60億人の人類全てを知っている」
ふざけてる、ばかげてる、ありえない。たった一人の人間が60億全ての人間の情報を知っていると?
だが嘘は一つも言っていない、イニティウムの言葉の一つ一つに重みを感じる。
化け物。運命で人類を影から支配する怪物。
目の前の男は嘘を言っていない。なんなんだ、なんなんだコイツは!?
「貴様、何者なんだ? それだけの力がありながら、何故表舞台に出てこない? お前の目的は全人類共通の悪になることだろ? もう十分じゃないか!」
「十分? 足りん、まだ足りん、我は現状に満足しておらぬ、我はまだまだ高みを目指す、人間としての機能を全て捨てても足りぬ、我の最終目標は、この地球全ての運命をコントロールすることだ。我は人間限定でしか運命を操れぬ、だがその先の自然すらも支配する。さすれば、災害で理不尽に死ぬ人間は減るだろ? その力を得るにはまだ足りぬ、だからまだ表舞台には出られないのだ」
そうして、彈はイニティウムに協力する形でヤソカを殺して、マカヤを目覚めさせるまでの間、イニティウムの言いなりとなっていた。
「美娃たん、もう健也君の事もマカヤの事もイニティウムの事も、全部諦めなさい」
彈から事の全てを聞かされた美娃は納得出来なかった。
「お父様は、それで良いですの? そんな訳の分からない存在を生かしてたら、人類は危ういですわ。このままだと全てアイツの思い通りの世界になってしまう、それを止めようと思わないですの?」
少し俯き加減に顔を伏せながら彈は口を開いた。
「美娃たん、イニティウムにとって我々人間は駒でしかないんだ。もっと分かりやすく言うと創作の中の登場人物だ。登場人物達は仲間と協力したり、何かしらの力に目覚めて強大な敵をやっつける事はできる。だが無理なんだよ!」
彈は泣きそうな顔で美娃の両肩を掴んだ。
「我々は登場人物! もし本当に何かしらの力を得たとして、それで我々を作った作者を殺せるか? イニティウムとは、そういう存在なのだよ! つまりどう足掻いても手の届かない存在なんだ! 美娃たん、もう誰かに任せよう、我々では神には勝てない、作者には勝てない! 美娃たんは十分頑張った! ここで退場しても誰も責めたりしない! お父さんが最後まで美娃たんの味方で居続けるから!」
彈の手が震えていた。
今話した内容だけでなく、イニティウムの強大な力を見せつけられたのだろう。
それに対して美娃は。
「……分かりました。ですが、まだ猶予はありますわよね? 財団が自然消滅する前にやっておかなきゃならない事がありますわ」
「やっておくこと?」
「悔しいですが、10年間で育てた財団の権利を全て六波さん率いる護世衆に委ねます。あちらの方がイニティウムや偽善悪に詳しいでしょうし」
「ほ、本当にいいのかい?」
「良いですわよ、ここら辺がちょうどいい潮時ですわ。お父様に黙ってましたけど、ワタクシお嬢様ってキャラを演じるのめんどくさったですの。これからどう生きるか、じっくり考えましょう」
などと言ったが、内心悔しい想いで満たされていた美娃であったが、これ以上自分達ではどうしようもない事態である事は美娃でも分かっていた。
そんな悔しさに負けないように、少しでも前向きな気持ちで、これからの人生を考えようと思う美娃であった。
これもしかして、イニティウムの過去も書かないとダメかな?
少してネタバレすると、イニティウムが普通の人間だった頃は性格も喋り方も思考も全然普通でした。はい。




