第103話『本当はいい奴』
『こちらアルファチーム。現在標的に動きなし』
『こちらベータ。こちらも確認したが標的に動きなし』
無線から流れる報告を聞きながら、天ヶ屋は仮設テントの中で指示を出していた。
「いいか、何があっても標的から半径600mの範囲には入るな。もし標的が動いたら速やかに距離を取れ」
『了解』
「……はぁ、火盧理を拘束して、意思男を助け、んでヤソカが完全に死んだと思ったら、今度は健也が別人になるとか、どうしてこうも次から次へと問題が発生するんだよ。いい加減休ませろ、俺もうすぐ定年だぞ?」
現在、天ヶ屋率いる警察チームはマカヤを監視していた。
場所は町外れの河川敷。
偶然その近くを通りかかった一般人から「川に顔だけ突っ込んで体は陸地にうつ伏せになってる変な人がいます!」と言う通報が3日前にあったので警察が現場に急行したら、そこには健也、と言うよりマカヤの姿があった。
本当に顔だけを川に沈めてピクリとも動かない。
既に溺死してるのでは? と思われたが、時折腕や足を動かしてるのを見て、警察はマカヤは生きていると確信した。
マカヤの詳細は護世衆から聞いていたが、その護世衆にマカヤを発見した事は伝えてない。
何より指揮官の天ヶ屋が護世衆を信じてなかったからだ。
天ヶ屋達からすると、本当にどこの誰なのか分からない得体の知れない集団であり、信用に値しないと判断したからだ。
なので3日間マカヤを警察が独断で監視していた。
そして、この3日間監視していたが、マカヤは川から顔を出そうとしてなかった。
自殺しようとしてるのだろうか? だが3日間も水中に顔を浸けてるのに全く溺死した素振りを見せない。
護世衆の言う通り、本当にマカヤは強靭な生命力の持ち主のようだ。しかし、それはマカヤが生きてた頃の話で、今のマカヤの体は健也のままだ。
まさか健也の体も同じ体質だったのか?
いつマカヤが動き出すか分からないので、警察はマカヤの刀を警戒しながら距離を保っていた。
「頼むぜ健也、戻ってこい。お前が戻ってこねぇと悲しむ連中が居るんだからよぉ」
祈るようにテントの中で状況を確認し続けた天ヶ屋の無線から連絡がやってきた。
『!? こちらアルファチーム! 標的に近づく人影あり!』
『こちらベータ! こちらからも人影を確認! 現在夜なので顔がよく見えませんが小柄な人物です! 物凄いスピードで標的に接近中!』
その通信を聞いて天ヶ屋は直ちに指示を出した。
「暗視スコープを使え! 近づいてるのが誰なのか確かめろ! 標的に誰も近づけさせるな!」
『無理です! 間に合いません!』
『こちらベータ! 人影の正体が判明! 荒捜 意思男です!』
「何やってんだ、あのバカ!」
◯ ◯ ◯ ◯ ⚫️ ◯ ◯
「よぉ」
川に顔だけ沈めてるマカヤの側に意思男はやって来た。
声をかけたが反応がない。
「起きろや健也」
マカヤの横腹を蹴った。
それに反応してなのか、ようやくマカヤは川から顔を出した。
「はぁ、やっぱ死ねないか」
「死ぬなボケ、その体は健也のものや、さっさと健也に返せや」
「うっせぇなぁ、俺だって好きで目覚めたわけじゃねぇよ。それに言っとくが荒蒔 健也は死んだ。どう足掻いても、この体の所有権を健也に返すことができねぇ、俺だってできるなら健也と代わりたいよ。恨むなら俺を目覚めさせた上に健也を殺したイニティウムを恨め、俺は知らん」
その場に座り込んだマカヤの目には生気がなく、何もやる気がない感じであった。
まるで、この世の全てに興味がないような感じだ。
「そのイニティウムはどこや? もしかしたらイニティウムなら健也を蘇らせる事ができるやもしれへん」
「無理だね、健也は死んだ。それだけは確信して言える。お前達がどうしようが、健也が死んだと言う運命は覆せない、諦めて俺を殺せ、俺はお前達人類にとって害悪だ。俺も、もうお前達人間とは関わりたくない」
「お前が何に絶望したか知らへんが、簡単に死にたいとかぬかすなや。お前のそれは逃げや。過去から逃げたがってるだけのようにしか見えへんぞ?」
「……たかだか数十年しか生きてない人間が、この俺に説教か?」
マカヤはゆっくりと立ち上がって意思男の目を見た。
「なら、お前は見たことあるのかよ? 自慢じゃないが、俺は生前多くの人間を助けた、その先に何があったか、何が待ち受けていたのか、お前は知ってるのか? いや、知らないだろうな。ならば教えてやるよ。人間達の拍手喝采だ、聞こえは良いが、人間達の喝采ってのはなぁ、誰かの不幸を喜び! 誰かを絶望へと誘い、そして最後に殺す! お前達人間はいったい何人殺せば気が済む! 直接手を加えず、誰かに頼って誰かを殺させる! そうやって俺から大切な人を奪ったお前達人間を俺は絶対に許さねぇぇぇ!!」
急激に感情が高まったマカヤ、その圧倒的な闘気に思わず怯んでしまう意思男であったが、なんとか持ち堪えた。
「お前も、大切な人を失ったんやな。ならワイもお前を許さへん! お前の刀でワイの愛娘が未だに目覚めへんのやぞ! 大切な人を失ったお前にも分かるやろ! ワイは何としてでも、お前をぶん殴って健也を叩き起こす!!」
「あーうぜぇ! 死ね!」
瞬間、マカヤの刀が発動した。
意思男はまともに刀を受けてしまったが、それでも拳をマカヤの顔面に叩きつけた。
「ぐっ!?」
「つぅ、はは、これが刀ってやつか、たしかに頭が凍りつく感覚があるが、最初っから来ると分かった上で死ぬ覚悟してたら問題ないわ!!」
よろめきながらも、マカヤは意思男を睨み付けた。
「あのなぁ、お前が刀で死ななかったのは、俺が人を殺さないようにイニティウムに脳みそ弄られたせいだからな。お前の覚悟で防げたわけじゃないから、調子に乗るなガキ!!」
マカヤは、足元に落ちてた一枚の葉っぱを拾い上げて、それを真上から振り下ろした。
「がは!?」
斬られた。葉っぱで袈裟斬りをまともに受けてしまった。
ありえない、どうやって小さい葉っぱで人体を斬ったのだ?
幸運なのが、葉っぱが小さすぎたお陰で致命傷には至らなかったが、この切れ味は日本刀に匹敵する。
血を流しながらも意思男は笑った。
「いてて、全然見えへんかったわ。もし本物の剣か日本刀だったら、今頃ワイはお陀仏やったな」
「これで分かったろ? こちとら生前だけでなく、子孫達の血の中で剣術の研鑽を続けてたんだ、お前じゃ俺に勝てねぇよ」
「残念やのぉ、今の技は最早神業、その領域に到達してまで、お前さんは何を求めるんや?」
舌打ちしながら、マカヤは意思男の傷口に指を突っ込んだ。
「ぐぅ!!」
「お前達人間を滅ぼす為だよ。俺の子孫達がこの世に一人でも残ってる限り、俺は絶対に死ねない。死ねないなら、もうお前達人類をぶっ殺すしかねぇんだよ。と言っても、今の状況じゃ誰も殺せねぇけどな。だから俺はさっさと死んで、別の子孫の体に移る。そこで覚醒してしまった時にお前達を皆殺しにしてやる」
意思男の傷口を掻き混ぜるマカヤであったが、意思男は痛みを我慢してマカヤの手首を掴んだ。
「つまり、お前さんが人類を滅ぼさせないようにするには、今がチャンスと言うことやな?」
「そのチャンスすら活かせねぇよ……あーくそ! たかが一人の人間に何ベラベラ喋ってんだ俺は! 本当に殺せないのは気に食わねぇな!」
マカヤは怒りのままに意思男を蹴り飛ばして、再び川に顔を沈めようとしていた。
「これ以上人間とは喋りたくねぇ、俺はさっさと死にたいんだ。俺の相手よりもイニティウムでも探せよ。じゃーな、次俺の邪魔したら殺……したいけどできねぇんだった。あーうざ」
そう言い残し、マカヤは再び顔だけを川に沈めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ⚫️ ◯ ◯
「意思男! 大丈夫か!?」
意思男はマカヤから離れ、天ヶ屋の居るテントまで歩いた後に倒れ、その後に治療を受けていた。
「いやーすまん天ヶ屋さん、マカヤを説得できるかなぁ、て思ってたんやが無理やった」
「あのなぁ、こちとら3日間も見張りながら拡声機で説得してたが聞く耳持たなかったんだぜ? あんなのどうしろってんだ」
「まぁマカヤの過去に何があったか知らんが、一つだけ分かった事はあるわ」
意思男は痛みを我慢しながら体を起こして天ヶ屋に言った。
「マカヤは完全に悪い奴じゃない。これだけはハッキリと分かった。後はまぁ、マカヤを救うに値する誰かが来るのを待つだけやな」
「お前、それを確かめる為にあんな無茶を? たく、勘弁してくれよな」
「へへ、だがそこそこ良い成果やったろ?」
「次あんな無茶したらぶん殴るからな」
引き続き、警察はマカヤの監視を続けるのであった。
うーん、マカヤの過去編をどのタイミングで入れるべきか悩む。と言うか、この作品の初期を見直したのですが、大分雰囲気変わっちゃいましたね。




