第102話『絶えない血』
マカヤ・ハームレスは今から459年前に人工物が何もない荒野で放心状態になってたところをイニティウムに拾われたと記されております。
彼がイニティウムに出会う前に何があったのか、彼はどこから来て、どこで生まれたのかは判明してないです。
その後、マカヤはイニティウムによる儀式に参加させられたそうです。
儀式の名は『星運蠱毒』。
約100人の人間を谷底に落とし、そこで殺し合いをさせて、生き残った四名を同志として迎える儀式だったそうです。
そして、これはイニティウムにとってもある種の実験でした。
当時の彼の占いはまだ未熟で、自身の占いは正しいのか確かめる為に、生き残る四名を予想してたそうです。
その結果、イニティウムが予想した通りの四名が生き残り、その後五人で偽善悪を名乗るようになったのです。
私達が見たマカヤからは想像できないと思いますが、当時の彼は情熱を滾らせる熱血漢、言い換えれば、どんな逆境にも屈しないポジティブな塊、更に言うと少年漫画の主人公そのもののような人物像だったそうです。
「はぁぁぁ? 全然想像できないですわ」
「ワタシ、達、が、見た、アイツは、完全に、根暗で、死にたがり屋な、ヤベー奴だった、ぞ」
美娃さん、秋歌さん、まだ話の途中ですので黙って聞いててください。
話を戻しますと、マカヤはイニティウムの思想に共感して、本気で自分達だけが、この世で唯一の悪になろうと志していたみたいです。
でも残念ながら、彼は優し過ぎた、いや善人すぎた。
悪になるどころか、困ってる人を見つけたら無償で助ける。争いが起きれば悪い奴だけを一人殺して大勢を救う一殺多生の剣士だったそうです。
まさに正義の味方。と言うか最早英雄に近い存在ですね。悪とは程遠かったのです。
ただ不運なのが、彼がイニティウムの仲間になったことです。
イニティウムではなく我々『護世衆』か、それに近い集団に居れば、彼の人生が狂うことはなかったはずです。
善に極振りした人格者のマカヤ、だが言い換えれば、悪に反転した時の反動が大きいのも事実です。
これはイニティウムの策略かどうかは分かりませんが、彼は多くの人間を救ってきた結果、彼は見てしまったのです。
この世全ての人間は内に秘めた正しいのか正しくないのか、それを証明する手段がないくせに己の正義を主張し、別の誰かの正義を『悪』と決めつけて争う。
つまり、この世に悪は存在しなかった。あるのは身勝手な偽りの善、すなわち偽善、それを更に突き詰めたのが『偽善悪』だと。
マカヤは自分達の事を偽善悪だと言っていたが、それは間違いだった。
この世全ての人間の内に偽善悪と言う、虚構の善と悪が存在している事に気が付いたのです。
すなわちマカヤにとって偽善悪とは、自分達ではなく全人類の事だったと悟ったのです。
それを知ったマカヤは自害しました。この世は醜い人間が蔓延っている。あんな醜悪な生き物の為に自分は尽力してきたのか? 吐き気が止まらない、死ね、全員死ね。もう俺に何の感情も向けるな! 正の感情も、負の感情も全て不快だ!
そう言い残して自身の喉に刃を突き立てました。
ですが不運な事に、マカヤは一命を取り留めたのです。
その後も何度も自害を繰り返し、致命傷を負っても必ず生き残ってしまう。
マカヤは生まれつき強靭な生命力の持ち主でした。
死にたくても死ねない、まるで『運命』が邪魔をしてるかのように。
その後、マカヤの死因は老衰でした。記録によると179歳まで生きたそうです。
その間も自害を繰り返しては死ねない、その度に人間に対する憎悪が膨らんでいき、彼は自ら作り上げた精魂複製技術と剣聖の域にまで到達した己の剣術を融合させ、武器も使わず、しかも直接手を加えなくても、己の声が届く範囲の人間を殺害できる悪魔の技術を完成させてしまったのです。
銘は『血魂刀シュリナ』。
実在しない刀。この刀がどう言う原理で人を殺害してるのか、現状我々でも把握できていません。
ただ、この刀を回避する方法はあります。
血魂刀を使える者の声を聞き、それを脳で理解した瞬間発動するそうです。
つまり声を聞かなければ回避できます。真奈さんが偶然回避できたのも、あの時気を失っていたお陰でしょう。
マカヤは生前、その刀で大量虐殺をし『最高悪』と言う汚名と共に人々から畏怖の対象として恐れられ続けたそうです。
マカヤの凶行はマカヤが死ぬまで続いたそうです。
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以上がマカヤ・ハームレスの大まかな人生です。
続いてマカヤの子孫の話です。
マカヤがいつ子供を作ったか知らないですが、マカヤの子孫達に共通する体質があります。
それはフェロモンの過剰分泌。
マカヤの血を受け継ぐ者達は、全員異性同性関係なく人を魅了して惹きつけてしまう体質を持っていました。
男性の一目惚れと女性の一目惚れの違い分かります?
男性は外見で一目惚れし、女性は自身の遺伝子との相性が良い相手を直感で見抜いて一目惚れするそうです。
つまり、マカヤの子孫の体から発生するフェロモンは、女性を自分の遺伝子との相性が良い相手と勘違いさせる作用があります。
生前のマカヤにも、多分同じ体質があったと思います。
要するに、真奈さん、美娃さん、秋歌さん、月名子さん、おまけとして霧神さんは、マカヤの血を受け継ぐ健也さんの体から発せられるフェロモンに魅了されて、健也さんを運命の相手と勘違いさせられていただけなのです。
これが、皆さんの恋が偽りである証拠です。
しかもここでもマカヤは死ねませんでした。マカヤは死後、その自我だけが子孫から子孫の血の中を経由して何百年も生き続けてしまっていたのです。
これはマカヤの意思ではありません。マカヤは生まれた時から死ぬ事を許されない体質を持っていたのです。
マカヤとその子孫達が放つフェロモンも、マカヤを生き長らえさせる為の一種の生存本能にすぎません。
結局、この場に居るほとんどの人達は、マカヤの血を絶やさない為に、マカヤの子孫である健也さんに魅了させられていただけなのです。
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「皆さんの行動を見させていただきましたが、まさか10年経ってもマカヤの血筋のフェロモンの影響を受け続けていたとは思いませんでした。これはこれで良いデータが取れました。これでマカヤの子孫の脅威度を見直すキッカケとなりましたので」
「……嘘ついてんじゃ……ねーですわ!」
美娃は飛び上がって六波に回し蹴りをしたが、六波はあっさり美娃の足首を掴んで、そのまま美娃を床にねじ伏せて、足首の関節を極めて動けなくした。
「くっ!? デタラメ言ってんじゃねーですわ! それじゃぁ、ワタクシ達の愛はなんだったと言うのです! この10年は何だったって言うですの!」
「だから全て勘違いだったのですよ。美娃さん、それに真奈さん、秋歌さん、これは警告です。これ以上この件に関わらないでください。全ては我々護世衆が解決します。健也さんは救えたら救いますが、このまま健也さんと今まで通りの日常を過ごしても誰も幸せになれません。なのでもう健也さんの事は諦めて別の恋をしてください」
「そんな簡単にできるわけが……」
美娃が抵抗しようとした瞬間、病室に別の人物が入ってきた。
「そこまでにしてくれ六波君、美娃たん、諦める必要はないよ」
そこにやって来たのは、美娃の父親である『小院瀬見 彈』であった。
「お父様!?」
彈が現れたのを見て、六波は美娃を解放した。
「彈さん、貴方にはイニティウムとの共謀の容疑がかけられています。御同行願えますか?」
「ワタシは構わないが、一つ忠告しておく、君達護世衆ではマカヤは救えない」
「その根拠は?」
「イニティウムの予言だよ。いや、未来確約だな。争奪戦の優勝者だけがマカヤを救える事ができると、つまり中断された争奪戦は、このまま継続させてもらう」
彈の言葉を聞いて美娃は立ち上がって彈を睨み付けた。
「お父様、いつ、どこでイニティウムと出会ったのですの? いえ、そもそもゴッドマンの正体がイニティウムだといつ気付いたのですの?」
「……うーん、言って良いのかなぁ? これで少しでもイニティウムの予言に支障が出たら嫌だし、よしこうしよう、美娃たん、今言った通り争奪戦を続けなさい、もし美娃たんが優勝、もしくは脱落した場合、全ての真実を話そう、だが覚悟しておいてくれ、この真実は美娃たんにとって残酷だ。では六波君、ワタシを連行したまえ」
彈が両手を差し出してきたので、六波は手錠を掛けて彈を別の場所へと連行した。
「美娃……続けるの?」
と、残された真奈は心配そうに聞いたが、美娃は気丈に振る舞った。
「おーほほほ! この後どうなるか知りませんが、続けますわ! 茶番だった争奪戦が、今では健也を救うチャンスがあるのならば! そのチャンスにすがりますわ!」
「……今の話を、聞いて、まだ、健也のことを、救う、つもり、なのか?」
今の話を聞いて不安を抱くようになった秋歌であったが、美娃は気にも止めなかった。
「愚問です、あんなの全部六波さんの作り話ですわ、ワタクシは諦めません、例え勘違いの恋でも、ワタクシ、いえワタクシ達の10年が間違いだったなんて認めたくないですもの! これはクソッタレな運命への反逆ですわ!!」
こうして、健也争奪戦は健也を救う為に続行されることとなった。
しかし、真奈は一抹の疑問と不安を感じていた。
(美娃、今の話ちゃんと聞いてたのかな? 今美娃のお父さんは『マカヤを救える』とは言ったけど、肝心の健也さんを救えるなんて一言も言ってないのに……やっぱり、六波ちゃんの話で冷静な判断ができなくなってるのかも……私も、不安だ、怖い……でも、今は健也さんを救える気になっておきたい。そう思うようにしよう)
残念ながら、この場で冷静な考えができるのは、健也に恋心を抱いてないアヤナだけであった。




