第100話『最高悪 覚醒』
この世に悪はいなかった、あるのは身勝手な偽善だけであった。
ーーマカヤ・ハームレス。
健也の悲鳴。
それを合図に周囲の目線が健也とゴッドマンに集中する。
特に美娃、秋歌、月名子、アヤナ、六波の五名は瞬時に異常事態だと判断する。
健也の頭を掴むゴッドマン、その側で気絶してる真奈。
普通の状況ではない状況だと判断するには充分であった。
五名は即座に動き出す。ゴッドマンは敵だ、急いで健也と真奈を救出しなければと走り出した。
観客達が邪魔で思うように進めなかった。それでも五名は必死にゴッドマンに向かってる時であった。
―死―
五名の脳裏にはその言葉がよぎって思わず足が止まってしまった。
五名だけでない、この会場に居る全ての人間が死を予感した。
誰一人動けなくなった。これはなんだ? 殺気? ゴッドマンから? いや違う、この殺気のような寒気の発生源が健也からであると判明するのに3秒かかった。
その3秒でゴッドマンの手は健也から離れ、解放され脱力しきった健也は一言発した。
「死ね」
たった一言、それだけなのに、よく現代の若者が口にする暴言でもある言葉。だが日常的に耳にするこの言葉の中には本当の殺意も、本物の意味で死んで欲しいなどの願望なんてない。
本当に悪ふざけで意味のない暴言。確実に殺すと言う確証すらない虚言。
にも関わらず、健也から出た言葉は本物であった。
冗談でも悪ふざけでもない。本物の殺意の言葉。
しかもそれは個人に向けられたものではない、この会場に居る全ての人間に向けられた言葉であった。
凍りつき症候群。発災時や犯罪、テロなどの極限状態で発生するショック状態。
この会場は凍りついていた。物理的ではなく精神的に、誰一人思考も働かず、身動きできない状態であった。
本当に殺される、一人残らず殺される。頭ではなく本能でそれを理解させられてしまった。
「……チッ、おいおいイニティウム、俺の『刀』が発動しないんだけど? マジでヤソカ相手にしか使えなくしたわけ?」
健也が不機嫌そうにゴッドマンにそう問いかけるとゴッドマンはそれに答えた。
「無論、我ら偽善悪の理念を忘れたか? 無闇矢鱈と人を殺めるものではない」
「人の運命をごちゃごちゃ操作できる怪物が何言ってんだか、つーか俺の刀に触れるなよ。テメー相手じゃなかったら即殺してたわ」
健也は気怠そうに目線をある一点に向けた。
「刀は使えないが、クソ人間達を動けなくはできるんだな。そして、この状況下で動けた上に逃げた奴、こっち来い」
人が多すぎて分からないが、健也は誰かに向かって言ってるようだ。
しかし、その呼びかけに誰も答えなかった。
「はぁ〜めんど、なぁイニティウム、俺を無理矢理起こしたんだ、アイツを俺の前に持ってこい、それぐらいのサービスは許されるだろ? 後は俺が処理してやる」
「ふむ、良かろう」
イニティウムが一瞬にして、その場から姿を消した。
「う、うぅ……ん」
それと同時に健也の足元で気絶していた真奈が目を覚ました。それを見て健也は少し興味深そうに真奈を見ていた。
「ほぉ、運良く俺の刀から逃れられた奴が居たか」
「健也……さん? え、みんなどうしたの?」
真奈が周囲を見渡すと、自分以外の全ての人間が固まっていた。
「安心しろ、今の俺は誰も殺せないらしい。目障りな呪いだ。この呪いを解くにはこの肉体を殺すしかないようだ」
真奈は健也を観察する。いつもの健也ではない、顔と外見はそのままだが、明らかに中身が違う、別人であった。
「貴方は、誰ですか?」
「何故俺が自己紹介しなきゃならん、それより女、お前に頼みたい事がある……と、その前にやらなきゃいけない事ができた」
健也(?)と真奈との間に、再びイニティウムが現れ、その手には一人の少女が拘束されていた。
「離すし! 何なんだお前!」
「定叉ちゃん!?」
一回戦二試合目で真奈と料理対決をした定叉がそこに居た。
「真奈っち助けてくれ! こいつらヤバい!」
真奈に助けを求める定叉を見て健也は溜息をついた。
「いつまで下手くそな演技してるんだよ『こいつら』って言ってる時点で俺が健也じゃないことに気付いてるじゃねぇかよ、なぁ? ヤソカ」
「ヤソ……カ?」
真奈が理解できずに居ると、定叉は唐突に豹変した。
「は、ははは、マジウケる、久しぶりだな、イニティウム、マカヤ、かつての五人の偽善悪の内の三人がこうして再会するなんて珍しいじゃないか、と言うかイニティウム、お前なんで生きてるんだよ。マカヤは分かる、だがお前は分からんな」
少しめんどくさそうにイニティウムは答えた。
「ふぅ、お前にだけ黙っていた事だが、我は修行の果てに運命を完全に掌握できるようになったのだ。ならば自分が何百年経っても死なない未来を自分のものへと確約するのは容易かろう?」
「容易くないよ! お前本当に何でもありなチートキャラだな! マジむかつく! そんなんだから『悪』になれないんだよバーカ!」
定叉、いやヤソカが暴れていると、健也がヤソカの頭に手を置いた。
「もーだるいからサクッと殺すな」
「い、いやいやいやいや待て待て! かつての同志を、仲間を殺すのか!?」
「殺すさ、だってお前、126年前ぐらいに俺を起こしたの覚えてるか? 俺はなぁ寿命が尽きてようやく死ねたと思ったのに見ろよ、こうして俺の自我だけが強烈に俺の血筋にこびりついてしまって死にたくても死ねないんだぜ? 126年前の覚醒で俺本人は消えることができない事実を知ったんだ。お前みたいに、どんな姿形になっても生きたいと願うお前と俺は正反対なんだよ。だから殺す」
「126年前の事まだ根に持ってるのかよ! この陰キャ野郎! あんなの事故だろ! 僕だってお前がそう言う体質だったなんて知らなかったんだ! あの時の事は謝るから見逃して……うぎゃぁぁぁぉぁぁあおおおぎぉいぃあ!!」
「相変わらずギャーギャーうるせぇ奴だな……ふーん、お前、俺が作った精魂複製技術、今は電子複製技術だっけ? それを脳から発せられる微弱な電磁波で全世界の電子複製体のお前と感覚を共有してたのか、ある意味独自のネットワークを形成してたわけだ。じゃあ俺が手を加えたら、お前と繋がってる全てのヤソカ・キャッスルハートはこの世から消滅するな」
「待でぇ! やめろぉ!! 死にたくなぃぃぃ!!」
「知ったことかよ……『斬』」
健也がそう唱えると、健也の手が光だし、ヤソカはもがき苦しんだ後、ぐったりと意識を失った。
「な、何が起こったの?」
近くで見ていた真奈は、何が起こったのか理解出来ずにいると、イニティウムは意識を失った定叉を放り投げた。
「そんな、定叉ちゃんを、殺した、の?」
「案ずるな娘、死んだのはヤソカのみで、ヤソカに取り憑かれていたこの娘は死んでおらん」
と、イニティウムは説明してくれた。
「さーてと、俺の仕事終わったわけだけど……んで? イニティウム、俺はこの後どうすればいいんだ? お前は知ってるよな? 俺は死にたがってる事を、だからお前の手で俺を殺してくれない?」
健也(?)の言葉を聞いて言葉を失う真奈であったが、イニティウムはそれを拒否した。
「ならぬ、汝にはこの時代で生きてもらう、かつて荒蒔 健也だった肉体のままでな」
瞬間、健也は怒りをあらわにした。
「なんで?」
「汝が真の死を遂げるには、この時代で生きて心の傷を癒す必要があると判断した」
「それもお得意の占い? もしくは、そう言う未来でも確約したか?」
「これは我なりの慈悲だ。かつての同志に敬意を払ってな」
「じゃあ殺せよ! 俺を哀れんでるなら殺せ! 俺は早く死にたいんだよ!」
「では我は帰る。残り長い余生を満喫するがよい」
「人の話聞きやがれ!」
健也の呼び掛けなど意に介さず、イニティウムは一瞬にして姿を消した。
残された健也は酷く落胆していた。
「なんだよなんだよぉ、心の傷を癒せだぁ? アイツの居ない世界でどう生きろって言うんだよ」
健也は呆然としている真奈の方を見て、真奈は思わずビクッとなった。
「あーその、俺の名前は『マカヤ・ハームレス』ここに居る健也に好意を抱いてる連中全てに告げる。俺女子高生に興味ないからテメーらとは結婚する気ねーから。じゃあな」
ヤル気のなさそうな健也、いやマカヤは、それだけを言ってどこかへ消えた。
誰もマカヤを追うことは出来なかった。
真奈以外の会場に居る全ての人間が動けるようになったのは、マカヤが消えてから30分後であった。
小ネタ。
今後出てくるか作者の僕も分からないネタだけ紹介します。
未だに名前すら出てこない五人の偽善悪の内の残り二人も、実はちゃっかり生きてます。
偽善悪第五位 承認悪 ヤソカ・キャッスルハート
偽善悪第四位 執着悪 ???
偽善悪第三位 逃走悪 ???
偽善悪第二位 最高悪 マカヤ・ハームレス
偽善悪第一位 ??? イニティウム・ゴッドピース
執着悪と逃走悪は今後出てくるか分からないです。たぶん本編では然程重要な存在ではありませんので。




