黒のない日常不便生活
「どうして、ブラック企業は無くならないんですか?伊賀先生」
生徒から聞かれると、彼はこう答えた。
「別に無くなっていいんですけど……。それでもいい?」
「は?」
「仕事にも色々あるけど、基準を満たす仕事しかできない世界になっても、文句は言わないでよ」
◇ ◇
働く人。そこには頑張っている人がいる。
それが個人個人に差があるのは致し方なく、それぞれの考え方も異なる。
今日から1週間、世界にブラック企業はなくなった。
「……始発、来ないんだけど」
「ちょっとぉ、どーいうこと」
みんなの移動手段。バス、電車、飛行機。その多くが始発を遅らせる状態。
「なんでバスが来ないんだよ!!」
「あっ!この1週間、休日ダイヤになっているわ!!」
「本数がさらに少なくなっているーー!」
ブラックにさせない企業作り、その1。
朝の勤務が辛い。泊り込みみたいな勤務の廃止。多忙な運転手達に休みをプレゼント。
『俺達、4:00頃から働くのキツイんだよ。生活リズム考えろ』
『この時間帯に働きたい人材なんて、早々現れないんだよ!現われても辞めるし……』
そんなこんなで学生と社蓄達は、遅れながら通勤をする。当然、休日ダイヤでの全員出勤&通学となれば
「ぐえええぇぇぇっ」
「い、い、い、い、いつも異常に、ラッシュが混雑してる……」
「畜生めぇぇっ!!」
かなり大変になる。
重労働な通勤を終えて、会社に着けば。
「今日は定時で上がりましょう。ジャスト18:00」
「おおおぉぉぉっ」
「仕事が終わってなくても、明日に回していいですからね」
珍しいかな。定時で帰れ宣言。とはいえ、今日の仕事が全て終わるはずもない。
ブラックにさせない企業作り、その2。
一日の仕事量を大幅に減らす。これによって、社蓄達の疲労を軽減させられるのだ。学校も当然、やっても15:45まで。部活動は自由。
『一日の仕事量が多すぎなんだよ。やってられるか』
『定時で帰れるなんて天国ぅぅぅっ』
そんなこんなで仕事が終われば、みんなでちょっと羽目を外しに居酒屋へ……。
そこの店主は言う。
「いらっしゃいっ!残念ですが、21:00までがラストオーダーです!!」
「はいっ!?あと2時間ぐらいしかねぇのか!?」
「0:00まで働くなんてもうできません!片付け込みだと、私達のお仕事は1:00を超えてるんですよ!そして、朝は仕込みのために6:00からです!!ブラック企業、反対!!」
「お、おう……」
他にも、漫画喫茶の24時間営業停止。コンビニの営業時間の短縮。などなど。娯楽施設の時短は目立つようになってしまった。
「ま、まぁいいや。ネット通販でもするか、そこなら時間は関係ねぇ。買いたい服があったんだよなぁ」
ポチポチと欲しかったあの商品をネットで注文、購入。
まぁ、2,3日くらいで届く代物だ。宅配BOXに入っているだろう。それが……。
『お届けは1週間後となります』
「はいぃっ!?ちょっ、遅くねっ!?っていうか、送料が上がってるし、この前見た時より商品の値段がやたら高いぞ!?」
『ネット通販は全体の料金が上がっています。ちょっと探せば見つかる品物をネットで注文するから高くしていまーす。安いお金でブラック企業なんかできませーん』
「ふざけんなぁぁっ!!」
その他にもネット料金、光熱費、水道代も軒並値上げ。人手不足かつブラック企業根絶のため、こんな状態でも経営ができ、運営もできる料金にしないとやってられないのだ。
ブラックにさせない企業作り、その3。
給与、待遇良くしろ。サービスの料金を値上げしろ。
『別にネットしなきゃ、料金上げなくていいんだけど』
『水なきゃ暮らせないのに、安すぎるんだよ』
そんなこんなで一日が終われば。
「おーい!道路の舗装が全然できてねぇぞ!夜、何してたんだよ!」
「いや、勤務時間を守らなきゃいけないからさ。舗装する距離も短くなるのさ」
「ちょっとー!色んなところにゴミが残ってるんですけどーー!」
「ゴミを捨てられる日も削ったからね」
「大変なんだ!婆ちゃんが倒れたんだ!」
「すんません。病院も1週間の水曜日だけ全面で休むこと決めたんで。ホント、キツイんで。こっちが倒れそうなんだ」
「おいおい!2週連続休載ってどーいう事だ!楽しみにしてんだぞ!」
「漫画家だって人間なの。休ませてくれよ……」
「全然、仕事が捗らないぞーー!」
「仕事してる時間減ってるからね」
「つーか、会社が回らない!仕事が全然できない!!」
「いやだって、ブラックなくなった世界だからね」
「そもそも会社が多すぎるんだよ。同じ職種なのに、双方で人手不足って……アホなの?」
「合併とかしたらどうかな?」
「そ、そ、そしたらそこで働く俺達が首になるかもしれねぇじゃん!」
「せっかくブラック企業が脱したのに……」
「色んなところでサービス縮小!値上げばっかり!」
「もうちょっと、テメェ等!働けぇぇっ!」
黒のない世界。白一色に染まっても、この世界は混乱したままであった。
様々な不便を知って、住民達は灰色の世界を望むのであった。
◇ ◇
「びょ、病院がやっていないのはまずくないか?」
「じゃあ病院で働いてください。介護の現場、人手が足りてませんよ?ねぇ」
「……………」
「あ、介護と病院は違いましたか。とはいえです」
すっごく嫌な世界を見てしまった。
「ブラック企業があるのは悪なのは理解できますよ。ただね、そんな悪を利用している者達にも罪はあるんです。様々な技術が生まれても、人が怠ける理由にはならないんです。進歩しなきゃ、生きていけない。技術もそうだし、人間もそうです」
黒一色の世界で働くことを推奨しているわけじゃない。ハッキリ言えば、黒とか白とか。本人が決めろ。そーいう他ない。
「自分だけホワイト企業に入りたい。そんなもん、誰だって思います。ですが、その分。願った数だけ。日常にあった事を失うというのを覚えてください。それはとても些細な事かもしれませんが、納得行かぬというのなら、ホワイト企業には向いていない性格ですよ」
いずれ。本当に来るとすれば、人が働かない時代がきっと訪れるだろう。けど、それは人の社会と呼べることであろうか?もし、人に変わって時代を動かす者が現れるとしたら、人という小さな存在。生命の価値というのは、塵にも等しいものになるだろう。
ブラック企業とかホワイト企業は、その人が決める事だと思います。
楽な仕事を選びたかったら、給与下げるとか、勤務日数が少ないものとか。選ぶべきなのかなと。
ただ、ほとんどの利便の多くがブラック企業の頑張りでできているところもあるので、この一種の正常化に不便は出ますよね。今で言えば、コンビニとかですか。
当然、値上げとかもあると思います。人手不足が原因で潰れた会社もありますし。なかなか、難しいんですよね。