これは当人達にとって、決して譲れない復讐の壮大な序曲である
そうこれは虐待と監禁によって荒んだ心を持った人間による復讐。
その壮大な物語の序曲である。
誰が何と言おうと壮大な復讐なのである。
絶対になんと言おうと復讐なのだ。
貧乏子沢山とはよく言ったものだと思うよ、稼ぎが良い訳でもないのにポコポコ兄妹こさえてくれるもんだから毎日が食い物との戦いだ。
山の中や川に食えるものを捕りに行ってはどうにか凌いではいたけど、遂に日照りによる干ばつやらなんやらでアチコチの家から売り飛ばせる奴らを売り飛ばしてどうにか来年の分の食糧を買い付ける話になったときは……もう諦めたよ。
びーびー泣いてる姉貴達を見てるのも嫌だったしそもそも俺は人生が二回目でどうでも良かったのもある、一回目もそんなに良くない人生だったのにまた人生なんて地獄を味合わせてもらったおかげで、もう心が死んでいる実感ってのがあったからな。
とっとと親父達に話を通して俺は奴隷商に売り飛ばしてもらった。
どっか適当な悪人に買われて死のうが何されようがどうでも良かったのに、よりにもよって移動中の馬車が土砂崩れに飲み込まれて乗っていた連中は俺を残して全滅したあげく土砂に飲まれた山奥の森に一人で放り出された。
「おっと拾いもんじゃないさね、さっとっとと来るんだよ!」
適当に彷徨って魔物にでも食われようと思っていたのにあの婆あ……自称ちょっとした有名魔女の婆さんに出会ったのが運の尽き、婆さんは俺を魔法で拘束すると自分のアジトに連れ帰ると無理矢理衣服を引っぺがすだけでは飽き足らず俺をお湯にぶち込み刻まれてた奴隷紋章を消しやがった!
「はん! 魔女に拾われたからには簡単に死ねると思わんことだね、ましてや奴隷紋章なんて汚いもんを残しとくほどアタシはお人好しじゃないよ?」
それからは反抗出来ない拘束術式が刻み込んである服やアクセサリーを着こませる事で俺の自殺や逃亡を防ぐだけでなく自分の為にこれでもかとこき使ってきやがる、薬の調合鍋の掃除や火の当番なんてかわいいもので酷い時なんて煙突のスス掃除なんかもさせられるから毎日真っ黒。
森の中から食べられる薬草や山菜を見つけるだけでなく婆が魔術で仕留めた動物の血抜きから皮の剥ぎ取りに革の作成もされられ、ついでとばかりに地下の凍えるような寒さの氷室で保存食としての肉の加工作業までさせやがる。
「ほらグズグズするんじゃないよ、今日は狩りで体力使っちまったからソーセージ入りのしっかりとしたシチューを作るんだよ! それと成果が良かったから柔らかいパンと葡萄酒も保管庫から準備しな!」
慣れない手付きで料理をさせられるのは楽なもんだがこの婆は調子が良いとレパートリーを増やしてきやがるからチンタラする訳にもいかずテキパキと拘束魔術の応用とやらで身体を勝手に動かせれる……おかげですっかり料理を身体を覚えちまった。
当然料理が終われば調理器具の片付けから包丁などの調理器具の整備までさせられるうえに、この婆は調子に乗ると食べきれない量を作らせるから残り物をいつも俺が必死こいて腹の中に納めることで腐ったりしないようにしているのも知らないからいいきなもんだ。
「そら明日の納品の為にこの作業をこなしな!」
恒例の拘束魔術の応用とやらで婆あの薬作りを手伝う羽目になるのも困りものだ。
毒々しい色のキノコや薬草だけでなく、仕留めた魔物の内臓などを使った精力剤なんてのも作られるが婆あの奴は俺にはマスクの類なんて寄越さないからいつも煙を吸い込んでは心臓を掻きむしられるような痛みに苦しめられるだけならまだ良いさ!
この煙で死ねる可能性があるからこそ俺もマスクなんてなくても作業しようと思える。
だが中には精神的にヤバくなるもんもゴロゴロと作らされるから魔術の力で強引にそういった衝動の類を抑え込めるように身体を弄繰り回され、ついでに解毒剤の実験と称して色んな薬を打ち込まれていったおかげで大概の苦しみを感じなくなった……俺の死を的確に遠ざけやがる。
「そらこの薬を街に卸してきな! 言っとくけど買いたたかれたり食材の買い物でぽったくられるなんて間抜けな真似したら承知しないからね!」
最近になっては薬を卸すのも俺任せになってきやがった、最初は逃げるチャンスだと喜んだがやっぱり拘束魔術の応用とやらで街から逃げようとすると身体が言うことを聞かないばかりか遠隔操作でもされてるのか仕事と買い物を済ませたら一直線に屋敷に戻される。
街の人達に対しても余計な事を言わないばかりかいつもいつも自分の事を称える言葉を吐かされ、その度に街の人達から師匠想いの良いお弟子さんだと微笑ましい顔で見られるばかりか言葉を投げかけられる始末なのは本当にムカつく。
こうしてこき使われるうちに俺はこの婆に復讐することを誓う。
相手は自称高名な魔女様だ、真っ向勝負したところで勝てやしねぇ。
何度か試したが拘束魔術で身動きを封じられるか、死なない程度の威力の魔術をぶち込まれて動けなくなったあげく鎮静剤なんかの薬をぶち込まれてしばらく身動き出来なくなるからな。
しかし俺はそうした体験から婆の失策に気付くことが出来た!
そう、拘束魔術によってこの数年間身体に刻み込まれた調理や調合の技である。
婆あの調合物の中にはちょっとした睡眠薬なんかもある……コイツを死ぬ量まで調合したいところだが材料が手に入れづらいうえに、街で買うにしても元々俺が卸した物だから大量に買い付けるのは当然ながら怪しまれちまう。
だから本当に少しの量だが婆あの機嫌が良い日の料理や酒にこの特性睡眠薬を入れてぐっすり眠って貰うとその間に屋敷の書庫にある魔術に関する書物を寝る間も惜しんでとにかく読んでは内容を叩き込んでいく、文字に関しては婆あの手伝いのおかげで最低限は読めていたからそこからすぐに内容を知ることは出来た。
くくくくくくくっ、よもや自分が教えた技でぐっすりと眠られてるとは思うまい。
しかし薬を盛れるのは大抵は月のない夜の日ばかりで、こうなると夜中に読むにはカンテラの油なんかの金がとにかくかさむ。
そこで婆の納品だけでなく俺自身の薬を密かに余分に作成しては道具屋のオッサンに卸してその分の金をロウソクや油代につぎ込むことで俺は気付かれずに道具屋だけでなく冒険者達といった面々との独自の繋がりを作り上げていった。
冒険者なんて犯罪者一歩手前のロクデナシ共だ、こっちが効き目が悪いと説明してもそれなりの値で商品を欲しがっては買い上げてく金づる共なので俺もしっかりと繋がりを作っておく、しっかり頼んでおけば格安の依頼料で欲しい材料を仕入れてくるからな。
「二日ほど森を離れるから留守を頼むよ?」
婆あは時折だが森の屋敷から出ていく、当然ながら俺はこの間は森から出ることは出来ず街にすらくり出せないがあの婆あに復讐する為の貴重な準備期間である事は俺にとって値千金の事柄だ。
【土・水・火・風・木の五つの魔術を使いこなす。基礎にして我が魔術の真髄なり】
懸命に覚えた鍵外しの魔術で婆あの私室に入り秘伝としている様々な書物をひたすらに読み、記されている内容を叩き込み、森の一角にある開けた場所でただこれを会得せんと力を奮う。
魔術に踏み込めば踏み込むほど悔しいがこの服やいつも身に付けさせられるアクセサリーに刻み込まれた拘束魔術の応用というものが高等極まりない事が判ってしまう、だが魔術も調合も使うものに対して必ず解毒などのものを用意するものだ。
私室の本の中には確かにこの魔術の解呪に関するものも存在していた、ならば後は基礎五属性を会得することでその解呪に俺は手が届くだけでなく婆あのいる魔術師として立場に追いつくことで真っ向から立ち向かえるようになるのだ。
そう、復讐の時は近い!
そしてその機会は意外にもすぐに訪れた!
「ちょっと一月ほど出かけるけど、馬鹿な真似すんじゃないよ?」
愛用のホウキにまたがって飛んでいく婆あをすっかり身に付けさせられた礼儀作法でお見送りする。
「ついにこの時かきた、待ちに待った時だ!」
数年掛けて調達した材料の数々。
その調達した材料を使った解呪の道具の数々。
書物に記された真髄を会得したことで使えるようになった魔術の数々。
こき使われる事で積み重なった魔力や体力によって支えられる精神。
その全てを使ってこの拘束を解き放つ!
「土の両腕・水の血潮・火の心臓・風の頭脳・木の両足は我が肉体……今こそ、その呪縛を解き放ち我が存在を世界へと解き放たん!」
身に付けさせられていたアクセサリーの数々がこの術式に耐え切れずに砕け散り、身にまとっていた服の全てが千切れ飛ぶ……素っ裸になるがこれも自由になる為の代償と思えば何ら恥ずかしくはない。
すぐに用意しておいた自分で作り上げた服に袖を通してみるがやはり拘束魔術の妨害は起こらない、いつもなら袖を通そうとすると身体が動かなくなっていたのだがそれも起きない、本当に俺は自由になったのだと実感する。
復讐の準備期間はまだまだたっぷりとあるがさてどうしてやろうか?
帰ってくるまでに保管庫をこじ開けて秘伝の材料や薬の数々を使って婆あのコリコリの身体をほぐしにほぐして骨抜きにするのも良し、いや秘伝の書に記された超複合術式をぶち込んで圧倒的な力量差が無くなったことを実感させて精神的に追い詰めるのも捨てがたいな。
むしろ俺から拘束魔術の応用をぶち込んで婆あの嫌いな野菜をふんだんに使った特性料理の数々を無理矢理喰わせて涙で咽び泣かせるのも有りだ、それとも金庫の金を使って婆に不釣り合いな豪華絢爛で煌びやかな衣服やアクセサリーを身に付けさて街の連中の笑い者にしてやるのも想像するだけで心が躍る。
なんなら街の綺麗な姉ちゃんを引っかけて適当な理由と一緒に屋敷に住まわせていずれは実権をこの手で奪い取って毎日何も出来ずに少しずつ弱らせていく、そして全てを奪われて何もなくなった事を実感させながらベッドで衰弱死させるのなんて最高じゃないか!
そうやって復讐計画に心を躍らせる俺の希望を打ち砕く事が起きる。
ちょっと街に繰り出そうと思い森から出ようとすると身体が結界によって弾き飛ばされた。
突然現れたコイツは五属性術式でも解除出来ない結界の壁のようで俺の全てを賭けてもヒビ一つ入れる事すら出来ず、魔力の使い過ぎでどうにも動かない俺に対して忌々しいあの婆あの幻影が現れたと思うとゲラゲラと俺を指さしながら笑っていやがる。
「この森にはちよっとした仕掛けがあってね、大昔の伝説の魔法使いが自分の後継者を意地でも作り出すためにそれはもう容赦ない結界と結界内で生きられる箱庭を作ったのさ。アタシも昔はちょっとした貴族の令嬢だったけど馬鹿やって捨てられた所にあの糞爺に拾われて魔女にされちまったのさ
んでこの森を出る方法はただ一つ【後継者と呼べる人間を育て上げた一人前のみ】
つまりアタシが森から出られる距離はお前の魔法使いとしての技量に比例するって寸法で森から完全に出られるようになったってのはお前が一人前の弟子になった証なのさ……そしてアタシはこれから私をこの牢獄にぶち込んでくれた爺に復讐しに行ってくるわけさ!
しかも後任となったお前は結界によってアタシを追いかけてくることは最低でも数年か数十年は出来ないから姿をくらます時間もたっぷりとあるって訳さ、どうせお前の事だから残しておいた書物なんかを読み尽くして復讐しようとしてるのは見えるんだよ!」
やれ婆は語る。
どうせどこかの国で贅沢しているであろう爺の部下達をこの若くて美しい肉体で篭絡してその実権を奪い取り隠居に追い込む。
そして散々マズい飯を食わせてくれたお礼に爺の嫌いなキノコをふんだんに使った料理を毎日破裂するまで食わせてやる。
似つかわしくない贅沢な服なんかを奪いつくし装飾もへったくれもない質素な服を着せて信頼している筈の部下共から笑い者にしてやる。
やりたい仕事はあえて自分達が代わりにこなすことで実力や権力の衰えを実感させることで精神的に追い込みゆくゆくは仕事の全てを奪いつくし片田舎の籠の鳥にしてやる。
最後には衰弱しゆく枕元でアタシを置いて逝くことを後悔させ、アタシがいかに自分の人生に必要な存在であったかを実感させながら笑い飛ばしてやる、と。
「それ復讐じゃねぇ……言い方変えた恩返しだろ」
延々と壮大な計画を聞かされた疲労から気絶した俺は誓う。
復讐の為に一人前の弟子を見つけねば、と。
そして森の魔法使いとして生活させられ二年が過ぎ去った頃に運命が転がり込んできた。
白い髪に赤い眼をした少女が森に捨てられたのだ。
大方そうした迫害かなんかで捨てられたんだろうよ、ソイツは自分を捨てていった連中が逃げていった方角を涙を流しながらずっと眺めていたが今は時間が惜しい。
そもそも日が沈みかけるまで自分を捨てた連中の方向を見続けるなんてコイツも中々に狂っているがそうした奴の方が魔術を仕込んでいくには都合が良い……ゴブリンのハラワタを抉り出してすり潰して煮詰めて作る絶倫精力剤とか高値で売れるからな。
「おいお前」
驚いているコイツの腕をとり無理矢理立ち上がらせて屋敷へと連れ込む。
「俺が拾ったからには楽になれると思うなよ?」
これは俺の復讐の為の第一歩だ。
なおこの時の俺は知る由もない、この最初にして最高の弟子が俺に対して狂気染みた愛情を抱き数年掛けて行った教育課程をたった一年で終わらせる魔女界隈きっての教育者となることを。
自分を置いて行った俺を決して許さず母国の宮廷魔術師とするために、迫害から守る為に森に捨てた国王夫妻や王太子である弟に対して協力を仰ぎ一国を動員して俺に対して壮大な復讐劇を行う事を……弟子を手に入れたばかりの俺は決して知りえないのである。
拾った猫を虐待してみたのアレです
まぁ猫側からすれば苦手な水攻め、弱った身体に酷い食べ物を食わされる、適度に薄めないとお腹壊す飲み物を与えられる。
狭い世界に閉じ込められて、自由を奪われて、丁寧にしているようで乱暴な構われ方をするから疲れる毎日を送って最後には衰弱死してしまう。
そうきっと猫達にとっては酷い仕打ちの毎日なのだ。
いやそうに違いない!
なお突っ込んでる俺君も自分の計画を復讐と信じてやまない狂人です