幼少期 〜 辰年 〜
今年は戌年ですね。なので、今年の話ではありません。
私がまだ幼子だった頃の辰年です。たぶん幼稚園の頃かな?
あ、でも、正確にはまだ辰年にはなっていないときのはずだから……卯年、でしたっけ?
あの日。まだ可愛かった私 ーー 幼稚園児だった私 ーー は、お人形さんを持ってお父さんの部屋へ遊びに行きました。
私の父はですね、今でもそうですが、私のことで滅多に怒ることがなかったのです。怒りの感情を表さない人ではないので、怒らないというよりも「叱らない」といったほうがいいのかな。とにかく、何かいけないことをした場合、私を叱るのは母親だったのですね。
その日、お父さんはちょうど、パソコンで年賀状を作っていたのです。来年は辰年。パソコンの画面には、可愛らしいタツノオトシゴのイラストが。
陸地で生まれた幼い私は、タツノオトシゴなんてお魚を知らないものですから、「これ、なあに」と。そしたらお父さん、「なんだろうね」と。そして、親子二人でしばらく、
「なんだろうねぇ」
「なんだろうねぇ」
……と、言い合っていたのです。優しいお父さんです。
しばらくして、私はそれに飽きたのか、お父さんの部屋の棚に飾ってあった飛行機かなにか ーー 記憶が曖昧ですが、とにかくなにか ーー の模型をいじっていました。
え、やな予感? 先を読まれました?
そう、私はお父さんの大切にしていたなにかの模型を、うっかり棚の後ろ側に落っことしてしまったのです。
さて、大変。お父さんは豹変です。
「何やってんだよ!」
あーあ、怒らせちゃいました。
先に言った通り、滅多にこんなことはないもんですから、幼い私は大慌て。何を思ったか……というか、明らかに気をそらそうとして、パソコンの画像を指差して、
「なんだろうね、これ」
「うるさいっ、出てけっ!」
あーあ、やっちゃったぁ……
これが逆鱗ってやつ……だったのかな……?
そのあと私は、お母さんに言いました。
「お母さん。お父さんのお部屋にある僕のお人形さん、とってきて」
「忘れてきたの? 自分で行ったら?」
「お母さんとってきて」
「……怒られたの?」
「ううん、怒られてないよ。とってきて」
「……」
父は、クレーが好きなんです。
私はルノワール、父はクレー。
……ね、いい親子でしょ^^