魔王様は村人・農民・宿人・その他大多数から人気者~私は朝のひと時が憂鬱です~
ちょっとした気分で書きました。
量は無いので気軽にどうぞ。
「ふわぁ~~~」
花形のステンドグラスの陽を受けて彼女は目を覚ます。
朝が来た、そこで一人彼女はあくびをする。
部屋一面がピンクや赤色が基準の可愛い部屋、所々にぬいぐるみなどが置かれている、それは彼女の存在からすれば余りにも似合わない事だろう。
彼女は魔王、ヴィルナ・マイ・メルク・ハーラード・アイン・ゴネスト・レーリア3世、魔族を統べる王なのだ。
だが、ここは彼女の私室である、ここは彼女ともう一人しか来ない場所であるから周りがこの部屋に入ることはない、そもそも魔王ヴィルナがこの趣味丸出しの部屋を観られたくはないのでこの辺り周辺は立ち入り禁止にしているのだ。
「う~ん~~~」
ピンク色の可愛い天蓋付きベッドから降りてその小さい体で背伸びをする。
魔王ヴィルナは背丈が138センチしかなく、髪が夜空に煌めく月の様な銀色をしていて、その瞳は何者をも屈することが無いかのように赤く煌めいている、体は引き締まり胸やお尻は無い訳ではないが、余り発育が良くないようだ、何も知らない者が見たら愛くるしくしかし筋の強そうな少女に見えることだろう。
「おはようございます、ヴィルナ様。こちらを」
そう言って今までずっとそこに居たかのように燕尾服っを着た背が高い青年が現れた。
その手には適温で暖められたタオルが合った。
魔王はそれを当然のように受け取り、顔を拭った。
「うむ、ご苦労」
まだ眠いな、だがそうもない言ってられない。
妾は横に立っている、この部屋を入れる事を許可している唯一の人物に顔を拭ったタオルを渡した。
子奴はテリオン・デーモンという悪魔だ、悪魔王の称号を関する悪魔界の王である。
妾専属の執事を遣っている者だ。
まぁそんなことはどうでもいいか、妾は時間を観た、もうそろそろアレが来る時だ。
いつからだろうか、魔王たる妾の朝がこうも憂鬱に感じるようになったのは。
「そろそろですね、ヴィルナ様。私が取りに行ってきます」
「……ああ。頼む」
少しして執事テリオンが帰って来た。
一見手ぶらなようだがそうではないことは妾は知っている、そして妾の部屋に在る結構デカい机に向かって行った。
『収納解除』
執事テリオンは収納魔法を解除して、机に収納していた数々の物を出した。
「はぁーーー」
妾はそれを見て深い、それはもう深いため息をこぼした。
「今日はまた一段と凄い量ですね……流石ヴィルナ様、毎日毎日こんなにも人間共からファンレターを貰うなんて、先代の魔王様達ではこんな事はありませんでしたのに」
「皮肉はよせ」
はぁーどうしてこうなってしまったのだろう、最初は何だっただろう、そうだった確か最初は―――
何時も道理の気持ちいい朝、そんな朝にいつもと違うことが起きた、思えばこれが妾の不幸の始まりだったのかもしれないな。
「ヴィルナ様。少しよろしいですか?」
「どうしたのだ、テリオン。急用か?」
妾の執事テリオンは何時も無表情で感情が分かりにくい、大事の事態が起こったとしても何の動揺も見せずにいつも淡々としている。
この執事テリオンは初代の魔王の時からずっと仕えている、妾が最も信用を置いている人物である、だがこの時の執事テリオンは、今までに無い微妙な表情をしていた。
そんな顔を妾は今まで一度たりとも観たことが無かったので、どんな大事件が起こったのかと内心酷く動揺していた、妾も執事テリオンのように何事も動揺しないような者になろうと見習っているのだ、だからいつも平静を取り繕っている。
どんな事をいうのかと身構えていたのだが、執事テリオンから発せられた言葉は予想の斜め上を言っていた。
「魔王ヴィルナ様宛の手紙です。しかも人間からです」
「はい?」
「呪いなどを警戒して内容を確認しましたが、どうもヴィルナ様を応援するような、所謂ファンレターの様なものでした」
ますます意味が分からなかった。
人間とは我々魔族と戦争はしていないものの敵対関係にある種族だと記憶している、そんな種族に何故ファンレターなど貰うのか妾には予想が付かなかった。
一応妾宛ということなので、読まなければ失礼に当たると思い、内容を確認した。
以下の通りだ。
魔王様へ
俺は村人のアレイというものです、突然こんなものを送られて、もしかしたらお怒りかもしれませんが、私は魔王様に伝えなければならないことがあります。
先日、我々人間の王国の王都で勇者が現れました、そいつ等は王族や貴族の命で勇者パーティーを組み、妥当魔王を掲げ、魔王討伐に乗り出しました。
そいつ等かまた極悪非道な者たちで勝手に俺の家に入って踏み荒らし始めました。
始めは『ヒャ! ハァー!! 金出せ金ー!!』なんて言いながら俺の家のツボを全部割って周り、タンスやクローゼットを開けて回り、俺の家の全財産、薬草などを奪って出ていきました、俺は血のにじむ思いをして観ているだけでした。
どうか、どうか、あいつらに天罰をお与えください。
俺は今日から魔王様の事を応援します、信仰だってします、ですからどうかあいつらに天誅を。
アレイより。
という内容だった。
正直書かれている内容に妾は只、困惑するしか出来なかった。
そもそも勇者とは何なのだ?
そこからだろう。
そのことを執事テリオンに聞いてみたところ心当たりがあったようだ。
「確か先代魔王様の時に一度だけそのようなものが魔王城に来たことを覚えています。魔王を倒し、世界に平和を。などと謳い、我々を倒しにきたのですが一瞬で返り討ちに会いそれからは何事も無かったようですが」
更に聞くとその時も魔族と人間は敵対関係にあったが戦争などはしていなかったそうだ。
そもそも人間が我々魔族の事を一方的に拒んでいる、確かそういうことを人間至上主義と行ったはずだ。
だが、それはあくまで人間たちの上層部の者達、王族や貴族と行った者たちの思考であるそうだ。
魔族と比べ、人間共の方が能力的に劣っているからそもそも我々にかなうはずも無いのだがな、魔族好戦的な奴ももちろんいるがそんな奴でも命の重みというものを知っている。
それは、我々魔族が偏に長寿であることが関係しているのであろう。
長年生きれば必然的に命の重みを知る事になる、そんな奴等が一杯いるからこそ我々魔族は無用な殺傷をこのまないのだ。
だが人間は魔族と比べ、遥かに短齢である。
そして、人間は直ぐに数が増えるにだ、それゆえか命を軽はずみに思う者がいるのだ、先に行った王族や貴族などがそうだ。
そして、そんな奴等は馬鹿であることが多いみたいだ。
勿論、中には賢い者もいるだろうが、皆無に等しい、そんな馬鹿共が我々の魔族領に侵略行為に出てくることがこれまで多々あったのだ。
だが、一度たりとも戦争にまで発展したことなどない。
理由は簡単で我々が圧倒的過ぎるからである、一瞬で壊滅状態へ追いやり、戦争まで行かないのだ。
少し話が脱線してしまった。
要は勇者とは我々魔族の敵という事だろう。
この手紙の内容を観てみるからには勇者とは人間達のヒーローの様な存在ではないのか? 何故そんな賊の様なことをしているのか。
その時の妾には何もかもが解らず只困惑するの身だった。
そして執事テリオンに指示を出した、情報を集めよ、と。
――確か始まりはこんな感じだったか。
あれから色々な情報を集めたものだな。
集めた情報はこんな感じだった、
一つ、王族や貴族のバカたちが勇者を使い我々の領土を狙っている。
二つ、勇者は略奪行為を繰り返して忌み嫌われている。
三つ、何故そんな事が許されるのかそれは、人間の王が許可しているから。
四つ、略奪された被害者が勇者パーティーを恨み妾に勇者を倒してほしく、ファンレターみたいなものをよこしてくる。
まぁざっくり言えばこんなところか。
そもそも何で人間の王は民に略奪行為をしている勇者を野放しに、いや、推奨すらしているのか。
それは、前回の勇者が撃退された事を王はこう考えた訳らしい。
『前回破れたのは、勇者に良い装備が買えなかったせいだ。それなら民から金品を奪えはいいじゃないか』
正直アホとしか言いようがない。
そんな事よりも単純に強さが足りないだけであろうに。
そして、勇者達は民に略奪行為が王から許可されているのだ、もしこれに少しでも抵抗使用ならそれは国家反逆罪で死刑になるとか。
そんな理由があり勇者達には逆らえないらしい。
そして、恨みに怨んだ結界、打倒魔王を謳う勇者の標的の魔王の妾に応援の声が送られてくるという訳だ。
全く、迷惑の何物でもない。
そんな手紙が毎日毎日毎日来るのだ、それに日に日に量が増している。
妾宛の手紙なのだから読まずに捨てるなど礼儀に反すると思い、全て読むことにしているのだが、やはり数が多い、これで内容も恨みつらみが綴ってあるのだ。
そんなもの滅入るに決まっている。
だから妾はあれから朝は何時も憂鬱な想いをさせられる。
勇者パーティーが通った村には金品が一切残らないとされている、付いたあだ名が〖破滅者〗。
勇者が通った村は村の維持が困難になるまで追い詰められる正に〖破滅者〗だろう。
正直なところ妾も何とかしてやりたいが、今迄の人間の行動から観ても自業自得な面もあるし、人間を助けるような行為をしたら配下に示しが付かないので妾も手をこまねいている状況だ。
そして今日の手紙はいつもよりも一段と多い。
本当に気分が滅入る、憂鬱だ。
ふと、視線の先にあるものが映った。
それは禍々しいオーラを放つ剣だった。
「これは呪剣ですね」
執事テリオンが言ったようにこれは呪剣だ。
それは、製作者が造る時に剣に対して恨みつらみをこれでもか、というくらい込めて初めて完成する剣の事だ。
その剣はある特殊な効果が付与される。
物凄く有能な剣ではあるのだが、一歩間違えればこちら側が呪われてしまう危険な剣でもある。
この剣がどの様な想いで造られたかなど想像に難くない。
一緒に手紙が有る。
それを開いて読んでみた。
魔王様へ
僕は18歳のジンと言います、僕の家族はおじいちゃんだけだった。
ある時村には〖破滅者〗がやってきました、僕達は鍛冶屋を遣っていたから彼等の真っ向の獲物だったのです。
ですが、家宝の家が代々に渡って受け継が手てきた剣だけは死守しようと、家宝。宝刀ベニマルを家の奥に隠しました。
そんな僕達をあざ笑うかのように、手慣れた動きで〖破滅者〗達は家の隅々まで荒らし、宝刀ベニマルを見付けて奪おうとしました。
おじいちゃんは〖破滅者〗に対して地べたに頭を付け、返してくれ、と、言いました・
そんな物では返してくれるはずもなく、僕達をあざ笑いながら出て行きました。
そのショックでおじいちゃんは他界してしまいました。
勇者達が憎い憎い憎い!!!
そんな思いで村になし崩しの鉄で剣を作りました。
これでどうにか勇者達を倒してください。
どうか、この世のゴミを掃除してください。
ジンより。
本当にどうしてこうなってしまったのだ。
こんな者を貰ったのは今までに十や二十ではない、日常茶飯事だ。
少しはこんな手紙を毎日毎日読む妾の事も考えてほしい。
この日は昼近くまでやっとのことで読み終えた。
妾のスキル【時間圧縮】【思考加速】などを駆使してもこんなにも時間が掛かるとは……勘弁してほしい。
そもそも勇者は打倒魔王を謳いながら、ちっとも魔族領に来ないのだ、略奪を楽しんでそのことにしか興味が亡くなって仕舞ったのではないだろうか。
こっちに来なければ手の打ちようが無いというのに。
妾の朝のひと時の憂鬱は何時無くなるか、もうひと時ではないような気もするが。
感想くれたら嬉しいです。