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北条の未来


「しかし……」


「なぜ小田原征伐は起きたのじゃろうなぁ?」


 八幡から戦国の歴史を聞いた後、氏綱はつぶやいた。

「普通なら秀吉に従う道を選ぶじゃろうに」

 氏康も賛同する。

「確かにそうですね。相手は天下統一まであと一歩の天下人。挑むのは合理的ではない」

 

「それをふまえて、情報を整理してみるかのう」


 氏綱たちは、信長が生まれていないことをすぐに看破した。

 そのうえで応仁の乱からの年数で現在が1530年あたりとまで予測した。

 さらに他家の勢力を

「川中島と長篠で武田が戦をした。と、いうことは信濃は武田領になったのかもしれません」

「三方が原で戦をするなら駿府も武田領の可能性がありえるじゃろう」

「駿府は今川家がいます。今川の援軍に出た可能性も……」

 と、いった形で予想していく。

 大きな戦いを多く行った武田・織田の国境はわかりやすく、両家だけは大まかな勢力地図が作成された。


 上杉家については上野を何者かに追い払われて越後の大名へ身を寄せたと予想された。

「川中島を戦地とするには越後から降りてきた軍を信濃で受け止めたと考えるのが自然だろう」

 と、氏康が主張したからであった。


 徳川家は現在に存在していない家だったが、どこかで下剋上か改名が起こるのだろうとされた。

 徳川の領地を戦地から特定していくと三河か遠江が怪しいとされた。


「この家康という男が最終的に江戸に幕府を開くんじゃったな」

「三河からなぜ江戸に居を移したんじゃろうな?」

「え?江戸が栄えているからじゃないんですか?」

 八幡は驚いた。

 単純に東京が徳川の領地で一番栄えていたから首都にしたと思っていたのである。

「江戸は元々田舎だった上に戦場になることが多く、あまり人が住んでいないのだ」

「戦乱が始まって何人死んだかわからない」

 氏康が暗い声で話した。

 それを取り消すように氏綱が

「まぁ、何かしらの利点があったのじゃろうな」

「今度ワシが調査してこよう」

 と言った。


「しかしどうも勢力図からは征伐の理由はわかりそうにないな」

「ここは他の視点で見る必要がありそうじゃな」

 そうじゃな。たとえば……

 と、氏綱は考えながら口に出していく。

「氏康」

「お主なら天下人に刃向かう時というのはどういうときじゃ?」

「または」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「戦った相手を見ろ」

「徳川家康などの家臣の名前ではなく、豊臣秀吉とあるじゃろ」


「つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「となるとその時の北条は……」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「北条の勢力図がないとイマイチわからんが……その可能性は十分にあると、ワシは思う」

「天下人に太刀打ちできぬまでも周囲の大名を圧倒できる力はあったのではないか、と」

 氏綱の声は熱を帯びていた。

 滅びを回避するだけでなく、天下人に対抗できる可能性すら出てきたのだ。

 しかも()()()()()()()()切り札まで手に入れている。

「しかし天下人が恐れる戦力とは……」

「伊豆・相模だけでは足りません」

「関東平野の全て、またはほとんどを支配していなければ天下人が直々に動くことはないでしょう」

「そのような巨大な家が一瞬で滅ぶとはいうことがあり得ますか?」

 対して氏康は冷静であった。

 疑問を飛ばすことなく、解決するように努めていく。

「それについては戦国の世が明けるにつれて戦略に変化が起きるのではないじゃろうか」

「勢力の面積が増えるにつれて、常に戦っているという場所は少なくなり石高は上がる」

「石高が上がり生産した米を輸送により戦地へ送る。そして相手の家が滅ぶまで戦い続ける」

「と、いった具合にな。」

 それに……

「滅んだんじゃろ?武田も」

 確かに武田もすさまじい領土の拡大が予想されていた。

 しかも滅びの予言もされているのである。

 そう、()()()()()()

 それは氏康たちの知る戦が全く別のものに変化するということだった。

 長篠の戦、八幡の予言では武田家はたった一戦間違えてそのまま滅ぼされた。*1

 一つ敗北すればそのまま国自体が亡ぶ。

 そのような恐ろしい時代へ、である。

「小田原征伐前に北条が関東を収めていたとして、それでも敗退してしまうなら……」

「ならば、織田をたたかねば!」

「基本的に豊臣も徳川も織田の遺産で成り立つ大名です!織田の力を手にすれば天下も見えましょう!」

 今度は氏康が熱狂する番だった。

 しかし、それは興奮によるものではない。

「間には今川や松平がいる。とても手が届かぬぞ。そして西へ注力すれば上野から上杉が来るじゃろう」

「関東を平定している間に織田は大きくなってしまうじゃろうしな」

「それにせっかくわかっている歴史を変化させてしまうのはリスクも高い」


「しかしここまで拡大した武田・北条が瞬く間に葬られる相手なのですよ!」


 氏康のその一言で場は静まり返った。

 織田がどのように勢力を拡大したか詳しいことは定かではない。

 が、歴史通りに織田を動かせば待っているのは小田原征伐(めつぼう)である。


「……全てなら、どうじゃ?」


「尾張以西は手を出さず、織田には歴史通り動いてもらう」

「しかし尾張以東の全てを北条が収め、織田もしくは豊臣にぶつける」

「その時、九州の征伐が終わっていなければ、北条にも勝ち目が見えてくる」

 それは滅亡を回避するのではなく、それに立ち向かう策だった。

 その言葉に氏康の目にも少し希望が灯る。

「しかし関八州はまだしも、我らに尾張以東の全てを制覇することなどできるでしょうか?」

「ワシの代では終わらんだろうな」

「しかし大丈夫だ。お主ならば、お主とその子達ならきっとできるはずじゃ」

「違った未来を作っていける」

 不安がる氏康を父親が制した。

「そして八幡殿」

「これを実現するにはお主の力が必要じゃ」

「お主の世界の北条も最善を尽くしたはず」

「しかし、それでも届かぬ遠い遠い目標なのじゃ」

「どうかお主には、北条で力を尽くしてほしい」

「お主の来た世界のような未来には決してさせぬと誓おう」

 八幡は目の前の男がただ賢いだけでなく、約束を違えるような者でないことを、ここまでのやり取りで理解していた。

 それ故に

「自分で良いのなら、喜んで」

 と、答えた。

「決まりじゃな」

 氏綱は何か大きなものに宣言するように声をあげた。


「これより北条は決戦に向け、尾張以東のすべての国の獲得を目指す!」

*1これについては八幡の認識が間違っているのだが氏康はそれを知らない。

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