もさ子その1
高校デビューなんて夢のまた夢。
もさ子はずっともさ子でいいのよ。
「さあ、次は綾子の番ね」
どうして私の人生を狂わそうとするの?
あなたは私の親友のはずでもさ子の私を認めてくれたじゃない!
「大丈夫、ちょっと髪をいじって化粧するだけなんだから」
いいわ、私もぜっっったいにこの机から離れないんだから!
「………言っておくけど、やるまで帰れないからね」
教室の窓際にある机にベッタリと体を付けて、無言で拒否の姿勢を表しているのは自称他称もさ子の私、岡沢綾子。
それを呆れて半眼で睨みつつ説得するのはもさ子の親友、笹井由美。
「名前は伏せるし、イメチェン前の写真も掲示しない約束してるから」
学園祭でイメチェンを提供するということらしいけど、どうしてもさ子の私が広告塔にならなければいけないのか…。
一番インパクトが出ると、親友の由美ちゃんが推薦したのだ。
もさ子は髪型変えても、化粧しても変わらないのよ。
笑い者にされるだけなんだから!!
「そうね、帰りに綾子の好きなアレ、買ってあげる」
アレのために人生を投げ出せって言うの?!
でも今月はお小遣いも限界で、もうダメだと思っていたのに…
だから…
でも…
数秒の葛藤の末、もっさりした前髪の間から見た親友は自信満々だった。
そして、私もその誘惑に負けたのだ…。
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