第7話 出ましたよ、芋ジョブ 後編
「お」
「「おお!」」
「「「おおおお!!」」」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!
気が付けば、俺以外の奴らは全員測定器(仮)に乗り終えていた。
だいぶ話し込んでしまったようだ。
最後の最後まで、近衛騎士否応援団はハイテンションのままだったな。
それどころか、向上していやがる。今は、ハイハイハイテンションって感じだ。
「もう森君の番だね」
「(チッ、命拾いしたな、お前ら)」
「え?」
「ああ、いや、終始歓声がるっせぇなって」
「ははっ、頑張れ、森君ならきっと凄く強いよ」
「この期に及んでそんなの不要だよ」
戦略級人型汎用兵器が二十九体、様々な意味で頑張ってもどうにもならん。
俺は、気怠げに柊に手を振りながら測定機否洗脳台に向かった。
「………おい、海老名。下ろせよ」
「あははは〜、ショタがいっぱいで楽すぃ『ゴスッ』おごっ」
俺は、気怠げに柊に手を振りながら測定機否洗脳台に向かった。
それ以上もそれ以下もない。やばい目つきの長身褐色美少女なんてご存知ない。
………くっ、防御力670って硬いな。
後頭部を摩りながら測定器(仮)の前に立つが、さてどうしたものか。
普通に座れば、絶対ヘッドレストに頭が届かない。
いや、その前に拘束具が喉に巻き付いて窒息するな。
近くから観察しても、この現代アートは自動車のシートみたいに調整できそうにないし……
「へいへいっ、チビィ!何突っ立ってんすかぁ?まさか、怖過ぎてオネショしちゃったんすかぁ?あのグズになんか言ってやって下せぇよ、黒霧さん!」
「………黒霧言うな」
「へ?」
「黒霧って呼ぶんじゃねぇよ!カイトって呼べ!大体黒い霧って何だよ、霧って白だろ、バッカじゃねぇの!?黒なんて全っ然かっこよくないし!真っ黒のシャツって書道の時間にしか使えないし!むしろ、そんなの喪服だしぃ!!」
「お、落ち着いてくだせぇ、くろ…カイトさん!黒もカッコイイじゃないっすか!ほら、黒帯とかめっちゃ強そうだし!色違いのレック○ザもスンゲエ強そうだし!!」
仲良く脳細胞殲滅された外野は、取り敢えず無視してっと。
他の皆も測定機(仮)に座らない俺に訝しんでいる。
良いよな、問題なく遊園地の絶叫物に乗れる奴らは。
うーむ、どう座ればいいんだろう?
つーか、どの部分がステータスを読み取る機械なんだろう。
洗脳台さんの遺伝子が強過ぎて見分けが付かねぇよ。
「ん?」
その時、俺はふとした違和感を感じ測定機(仮)の後ろに回り込んだ。
「………」
「………」
「………」
「何してんの?お前」
背もたれの死角、そんな場所に体育座りで潜む者がいた。
それは、何と地下牢獄で出会った闇色の幼女、ヘレンだった。
彼女は、小一時間前顔を合わせた時と寸分違わぬ姿勢で野良猫の瞳に俺の驚き顔を捉えて来る。
そして、あの時のみたいに声を潜めるよう小さな人差し指を口に当てる。
唯一変わったのは、巾着に似た花柄の袋を肩から下げている点か。
「(やっぱり、ハルキに見つかっちゃった)」
「(むしろ、よく今まで気付かれなかったな)」
腐っても、ここは一国の王の謁見の間。
半裸になって踊りながらも、楽団で演奏しながらも、警戒を解かない騎士で溢れている。
いくら小柄でも、大きな椅子の陰に隠れただけでその監視の目を欺くなど不可能だ。
しかしながら、堂々と洗脳台の影から出ても異世界グループを含めて誰もこの子を気に掛ける様子がない。
今回は、あのキキョウって女も気付いてないようだ。
だから、何者なんだよ、このガキ。
「(で?こんな国家機密的な密会で何をしているんだ)」
「……(かくれんぼ?)」
「(なぜ疑問型なんだ。それは、他人の城でやる遊びではない)」
「(じゃあ、オニごっこ)」
「(謎々じゃねぇんだよ。誰が鬼だ。いい加減にしやがれ)」
かなり訳の分からない状況に正直混乱する。
それでも、ヘレンは無表情のままだった。
「(女のひみつ)」
うん、なかなかませたお嬢様のようで。
そうやって、齢不相応に背伸びしたがる気持ちは分かるぞ?
俺は理想が低いから、年相応に背伸びたい程度だが。
だが、ミステリアスな雰囲気を纏ってるところ悪いんだが、弟十人妹十二人持つ者としての対応は一つに限る。
とりあえず頭を撫でる。
これで大抵の尖ったガキンチョは、一瞬で素直になるのだ。
標的は、初めて驚きを見せて、一瞬ビクッと抵抗したけどすぐに気持ち良さそうに目を細めてくれた。
ふっ、堕ちたな。
「おーい、チビ!さっきから誰とヒソヒソ喋ってんすかぁ?さっさとしろよ、そんなに怖いなら俺が<上級鑑定>で見てやんよ!」
「駄目だよ、細川君!そんなことしちゃ!」
「あぁ?って、柊かよ。てめえは、失せろよ。はい、<上級鑑定>…………ギャハハハハハ!!」
ヘレンに頭皮マッサージコースを施していたら、懲りずに冷やかしに来た細川が突然腹を抱えて笑い出した。
「どうした、ボッチ。いきなり笑い出して。寂しさ余りエアフレンドでも作ったのか」
「ボッチじゃねぇよ!ちょっとカイトさん!アイツに<上級鑑定>してみてくだせぇ。ウケますぜ!」
「あ?どうやるんだ、それ」
「念じればいいだけでさぁ。ほら、タイチも!」
「<上級鑑定>。おぉ、こんな感じか。って、全部見えねぇのかy……ブッ、ゲハハハハッ!!」
「ウホホホホホッ!」
今度は、三人揃って仲良く爆笑。
岡山ゴリラの奴……笑い方ガチでゴリラなんですけど。殴られた時、頭でも打ったか?
くいっくいっ、と制服の裾を引っ張るヘレンが少し不快そう表情で訪ねる。
「(なに?あの人たち)」
「(ああ、あれは)」
「(ナデナデやめないで)」
おっと。
ナデナデナデナデナデ
「(あれはな、ボッチと厨ニとゴリラと名称される、異界の生命体だ)」
「んぅ……(ぼっち?ちゅうに?ゴリラ……うん、ゴリラ。はじめて見た)」
前者二つに首を傾げたが、最後のには意外と強く頷く。
良かったな、岡山。
最早お前は、インターナショナルを通り越してインターワールドレベルのゴリラと認められたぞ。
「どうした、厨二バクテリア。呪われた右腕がくすぐったいのか」
「ハッ!三下は黙ってろよ。てめえこそ、職業【農家(辺境の)】ってなんだ、新ギャグか?辺境にいない農家ってあんのかよ!ヴァハハハハハ!」
はあ?
何言ってんだ、あのア○ス・ナイト?
ジャーン
奴の出任せを鼻で笑おうとした瞬間、なんの予告もなく脳内にシンバルの音が鳴り響き、 視界に突然ウィンドウが浮かんだ。
===============
鑑定結果:
【名前】: モリ・ハルキ
【歳】: 15
【LV】: 1 1/2
【種族】: 人族
【職業】: 農家(辺境の)
===============
……………いや、有り得ないって。
だって、女子も漏れなくカタカナか漢字とルビの合わない職業が付与されたんだぜ?
きっと、振り仮名を忘れられたんだよ。
本来、これもガイア・デストロイヤーとか読んで……
ブッブーッ
===============
鑑定結果:
【農家(辺境の)】:
辺境の畑を耕す農家。
===============
エラーブザーと共に新たな赤枠のウィンドウが追加され、希望を挫かれた。
つーか、誰だ!
さっきから他人の視野にスパム送ってくる迷惑野郎は!
貴様の所業か、<上級鑑定>!
レベルの1/2 ってどう言う事よ!
あれか、クソ団長の片魂の分か!?要らねぇよ!んな汚ねぇもん!
そして、何故肝心の能力値とギフトが表示されないんだ?
<上級鑑定>じゃあ出来ねぇのかよ。使えねぇ!
ジャジャーン
今度は、スライディングモーションでウィンドウが。
===============
鑑定結果:
【名前】: 森 春樹
【歳】: 15
【LV】: 1 1/2
【種族】:人族
【職業】: 農家(辺境の)
【生命力】: 4100
【魔力】: 5700
【攻撃力】: 1050
【防御力】: 1150
【敏捷】: 1400
【精神力】: 1000000000
【ギフト】:
<滅星拳法>
<魔法>
<男の娘>
<豊穣の男の娘>
<万象鑑定>
<全言語理解>
===============
はぁああ!!??
ちょっ、タンマ。どういう意味だ!こんなもん、知らねぇぞ!?
ヴォーン
柄もなく焦っていると、更に追い打ちの如くより壮大なゴングの音色が奏でられた。
続いて、キラキラ星で縁取られたウィンドウが他のを押し退けるように現れる。
何事!?
===============
鑑定結果:
<万象鑑定>:
『乱世の暦』に実在した幻のギフト。
ある物ない物の鑑定を可能とし、全てを看破する正しく神の眼、でゴダんす。常に所有者を楽しませる為、着信音豊富、アイコン表示の特殊エフェクト充実の万能っぷり、でゴダんす。
<上級鑑定>なんかと格が違う、でゴダんす。
<上級鑑定>なんかと訳が違う、でゴダんす。
===============
「……………」
俺の顔から、一切の表情が、抜け落ちた。
「ハッ、雑魚はどの世界でも雑魚かよ!しっかし、酷な話だなぁ、おい!魔王は兎も角、そのナリじゃあ株一個引っこ抜けねぇだろうよ!えっ?じゃあ、何?僕ちゃん実質無職?ブフッ、ゲハハハ!どうした!なんとか言って……」
「知ぃるるるかああああぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!!!」
ビリッ ビリッ ビリッ ビリッ
衝迫的に天を仰ぎ、肺活量の限りで吠える。
漏れ出た殺意が謁見の間全体を駆け巡る。
バカは尻もちを付き、近衛騎士団は一斉に武器を構えた。
だが、知らないね!
何だよ、このクソギフト!?自己主張強すぎるだろう!
鑑定結果の九割以上がてめえの主観じゃねぇか!!語尾『でゴダんす』って何弁だ!?聞いた事ないわ!!
コレに鑑定任せるくらいなら、詐欺師に任せた方がまだマシだぁ!!
「ぜーぜー……柊!!」
「ははははひぃぃ!!?」
肩で息をしながら、ぐりんっ、と振り返って近くにいた柊を呼ぶ。
答えの調子からして、折角結んだ友好関係をぶった切った気がしたが気にする余裕がない。
「お前の<上級鑑定>で俺のステータスがどう見えるか教えてくれ」
「えっ、でも…」
「あぁん?」
「マイロード、イエス、マイロード!!直ちにぃ!!」
軽く睨むと、妙なことを口走りながら、掌を額に当てたまま腰を90度に曲げて新鮮な敬礼を決める。
かつて見ない程の必死さだ。黒霧にパシられていた時以上に。後で謝らなければ。
「じょ、<上級鑑定>!えっと、【名前】: 森 春樹、【歳】: 15、【LV】: 1……と、二分の一?【種族】: 人族、最後に【職業】は……農家(辺境の)……え?そんな、どうして」
柊は、途中で信じられないとばかり絶句するけど、その様子だと能力値とギフトは見えてないのか。
それが<上級鑑定>の限界かどうかはさて置き、間違いなく職業は農家のようだ。
「ちょっと、あんた!本当にそれが春樹のステータスなの!?」
「お、折原さん。僕にも訳が解らないよ。どうして森君が……」
唖然とする異世界グループ。
何気に戦女神三人と同枠に思われていた分、ショックが大きいみたいだ。
いや、何度も言うけどさ、俺はギフトに反映されるほど男の娘要素が根強い奴だ。虎と猫を一緒にされても困る。能力値で勝ってしまっているが。
それとは別に、大の問題は……
「勇者様!この者の職業は、真に農家なのしょうか!?」
「あ、はい。でも、何かの間違いでは……」
刹那、場に舞い降りる沈黙。
近衛騎士達は一度顔を見合わせ、完璧なシンクロで各々が紙コップやちり紙を取り出して構えた。
全く無駄な所で連携の練度が発揮しているな。あのゴミ、どこから湧いて出たんだ?
そして、
BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!
降り注ぐ苦情とゴミの嵐。
「て、テンプレだ」
鳳クン、分かっているからわざわざ声に出さなくて良い。そんなに絞め殺されたいのか。