第6話 出ましたよ、芋ジョブ 前編
世の中では、希少性にこそ価値がある。
考えてみよう、宝石や貴金属ならともかく、何故コレクターと言う人種は一見ゴミにしか見えない品物に大金を叩くのか。
至極簡単、珍しいからだ。
オンリーワンの称号にこそ感動があり、ロマンを感じるべきなのである。
誰かそれをこのバカどもに教えてやってくれ。
「お」
「「おお!」」
「「「おおおお!!」」」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!
るっせーーーー!!?
嫌な予感とはよく当たるもので、本日の二十四番目の勇者様を祝う近衛騎士団の皆さん。
平均九千第の生命力は、伊達ではない。
彼らの雄叫びは、止むことも弱まることもなく。
それどころか、今や半数が上半身裸になり謎の戦闘民族の舞踊を踊っていた。
一方、もう半数は即席の軍楽隊を編成し、ステータスが表示される度にメロディーを奏でる。
意味が解らん。
何なんだ、この自衛隊並みに多芸な集団は。
「良くぞ我々の元に舞い降りた!獣大帝王よ!彼の巨獣の支配者はs」
はい、カーット。
その辺の逸話は、もう十分だから。
どうせ、また『乱世の暦』とやらの大昔に大暴れして何処かの大陸や島を住居不可能に追いやった危険人物のことだろう。
今更、黙示録的な神話の一節を謳われてもテンションに着いて行けねぇよ。
二十四回世界が終わる物語に何を求めろと?
いちいち、誇張し過ぎた描写が厨二臭いんだよ。
丁度今、自分のステータスの痛さで床を赤面ローリングしているダークマターさんみたいに。
眼前にある己の未来予想図に早く気付いてくれないかなぁ。
「つーか、パネェな『乱世の暦』。やべぇよ、これじゃあ誰が誰の後ろで一列になればいいんだ?何のフォーメーションなら喧嘩しない?ウロボロスの陣?メビウスリング編隊?」
「べ、別に列に拘る必要なんてないんじゃないかな?みんなで協力すればいいし…」
「一人づつ挑むのではなく、囲んで魔王様袋叩きにすると?柊も言うようになったじゃねぇか」
「そ、そんな悪者みたいじゃなくて、えっと」
勇者様こと柊は、真面目に俺の現実逃避に答えてくれる。
そうだな、ここは現代人らしく効率重視のストラテジーで標的を抹殺するべきだ。
一騎で千の敵を討つのではなく、ボタン一つで敵本陣を総大将ごと吹き飛ばす理念には素晴らしい物がある。
なあに、戦略級人間兵器が最低でも二十四人、一山二山離れた位置から大陸間弾道ミサイル魔法で魔王城ごと更地にすればいいさ。
現在、自分は空気へと逆戻りした柊の隣で事の成り行きを見物中である。
ちなみに、吾輩にステータスは未だない。
あの後、はしゃぐ王様がウザかったので熱が冷めるまで待ってみたが、現状は以上の通り。
端的に言えば、出遅れたのだ。
この際、俺なんてもう関係ないがな。
結局、危惧した通り俺達のクラスは数国分の軍事力を担う軍団にクラスチェンジしてしまっていた。
計測して見たところ、皆レベル1で大体似通った数値、白兵戦系統と魔術系統のギフトを両方複数持ち、デフォルトで<全言語理解>と<上級鑑定>が付けられていた。
肉弾戦と魔術戦を同時に扱うには相当の才能が必要らしいが、そこはいかにも異世界補正といった感じである。
不思議なことに<上級鑑定>もオマケにあったが、生活に役立つだろうから良しとしよう。
「まあ、一つ確かな事実があるとしたら、それは俺らの旗がこの城に建つ日がグッと近づいたことだな」
「も、森君。王様の城に旗を建てるって、国を盗ることだけど……」
「そうだが?」
「ええーっ!?」
何を驚いているのかね。
あのクソ団長も説明したじゃないか、帰還法はこの国でしか見つからない。
なら、国ごと貰うのが妥当だ。
民意とかは、そこら辺に転がっているだろう王子を御輿に担いで魔王の首で何とかするさ。
「おめえ、よくそれで他人を犯罪者扱い出来るよな」
「全く、人の事言いえないわね!」
「旗のデザインは考えておきますが、身の潔白を疑われるなんて心外です」
お嬢様方は、大変ご機嫌斜めの様子。
何の事かと問われたら、彼女達が叩き出した能力値の話である。
===============
【名前】: アンジェラ・オリハラ
【歳】: 15
【LV】: 2
【種族】:人族
【職業】:天護之神盾
【生命力】: 2100
【魔力】: 2600
【攻撃力】: 580
【防御力】: 760
【敏捷】: 670
【精神力】: 910
【ギフト】:
<対戦略兵器防衛術>
<地・海・属性魔術>
<固有詠唱>
<上級鑑定>
<全言語理解>
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【名前】: サクラコ・トウドウ
【歳】: 15
【LV】: 2
【種族】:人族
【職業】: 兆星之巫女
【生命力】: 1800
【魔力】: 3400
【攻撃力】: 540
【防御力】: 530
【敏捷】: 580
【精神力】: 1020
【ギフト】:
<万里時空掌握>
<全・属性魔術>
<固有術式>
<上級鑑定>
<全言語理解>
===============
【名前】: キョウカ・エビナ
【歳】: 15
【LV】: 3
【種族】:人族
【職業】: 鬼女大帝
【生命力】: 2200
【魔力】: 2700
【攻撃力】: 780
【防御力】: 670
【敏捷】: 780
【精神力】: 900
【ギフト】:
<対龍群闘争術>
<無・陽・天・属性魔術>
<固有詠唱>
<上級鑑定>
<全言語理解>
===============
フラグが立つ暇もなく、当たり前のようにダントツ、純然にこの三人だけ別枠だったのだ。
その場で戦女神のチャーミングなあだ名が命名される始末。
しかし、これを見て俺が口にするべき事は決まっている。
「はいはい、よくある事だよね、レベルが勝手に上がるの。俺の知り合いにもそう言う奴いたよ。うんうん、で?何人殺ったんだ?」
「だから!誰も殺していないってさっきから言ってるでしょ!」
「春樹君こそ、ミハイル拷問官のことが知られない為にステータスを測らないのでしょう? 職業が【ダイハード・デビルターミネーターI】であるのが知られたくないのでしょう?」
何その映画。
地味に見てみたいのですけど。
「あ、あの、森君。彼女達本当にそんなことしてないよ?森君が連れて行かれて凄く怒っていたけど」
「おう!よく言った、柊!もっと聞かせてやれ!」
おい、てめぇら!今何しやがった!
どうやってカモ……じゃなかった、俺の獲物……でもなかった、柊を味方につけた!
その雰囲気ですんなりオトモダチ?ふざけるなよ!世界が変わっても妙なカリスマ振り撒きやがって。
気弱少年、色香に惑わされるな!お前なんかが不用意に優しさを向けると、尻引かれるぞ!?
ここは、男同士の友情を育むべし!
豪快に彼をバシバシ叩く海老名と反面、折原は不服そうに顔を顰める。
「で?何であんたがここにいるのよ」
「え?」
「What?じゃないでしょう。まさか、そのまま春樹に何も謝らないつもりじゃないでしょうね?」
「!ぁ、うっ」
彼女の刺々しい言葉に柊は押し黙り、端から見ても解る逃げ出したい欲求に駆られる。
無理もない。生来の内気さと関係なく、美人の睨みには過剰な重圧感が重なるものだ。
だが、彼はすんでの所で止まり、深呼吸か溜息なのか見分けのつかない息を吐いた。
「そうだね、折原さんの言う通りだ」
そう絞り出しながら姿勢を正し、数秒口にするべき言葉を選択し吟味した後俺に向き直る。
またもや決意の宿った表情をしていた。
ならば、俺も相応に答えるべきか。
「森君、君に話すべき、白状するべきことが、あるんだ」
「ん?イジメのことか?許す!」
「………」
「ちょっと!最後まで言わせなさいよ!」
横からツッコム折原の平手打ち、と言うかフルスウィングを屈んで躱す。
勢いよく弾む母性の化身。眼福である。
俺は、その体勢のまま恨めしそうに睨んでくる彼女を鼻で笑った。
柊の奴はポカンと放心中だ。そういえば、こいつ未だにバレてないと思い込んでたんだっけ?ま、いっか。
いやね、実を言うと、彼奴だいぶ前から顔を強張らせそわそわしたり、口を開けては紡ぐを繰り返していたのだ。
それは、きっと好きな相手へ告白に踏み出せない初心な生娘、に似た華やかしさは全くなかったな。
どちらかと言えば、初めてテストで赤点を持ち帰った小学生。具体的には、お母さんにそれを報告するのが怖いが同時に嘘をつく度胸もない清らかな童子。
この純情少年が何を考えているか位手に取るように伝わるさ。
きっと何回もどうやってその話題を切り出すか、どう謝るかを頭の中で再生していたのだろう。
だからこれが俺の答えだ。つまり、この程度のこと、気にする必要すらない。
頭を掻きながらそう言ったら、柊は恥ずかしさ余りにみるみる赤くなった。
「あ、ぅ、その、すいませんでしたぁ!」
そして、結局90度に腰を折った 。
「ははっ!あまり気にすんなって。気に病むだけ無駄だぜ?春樹の常識とタフさは色々おかしいから」
「ああ、全くもっておっしゃる通りなんだがな?何でそれをお前が言うんだ、海老名」
「春樹君の見解も理解しますが、柊君の誠意くらい受け取っても良かったんじゃないですか?」
「いやだ!むず痒い!」
「はあ〜 まあ、それも春樹君らしいですね」
キッパリと断る俺に藤堂は苦笑いを浮かべるが、お前も似たようなモンじゃないか。
「あっ、えーっと、森君がダメなら折原さん!ごめんなさいっ!」
「え!?」
いや、柊よ、それもないだろう。
どんだけ謝りたいんだ。謝罪の押し売り業者か。
話を振られた折原も戸惑っているじゃないか。
「僕なんかが成り行きで森君に話しかけるなんて図太過ぎました!今すぐ向こうに行きますっ!」
「トチるなよ、卑屈少年」
「ぐえっ」
速やかに退場しようとする彼を海老名が制服の襟を掴んで阻止する。
成る程、色々と誤解している様子だな。
「おい柊、勘違いしているようだが折原は別に怒ってないぞ?」
「ケホッ、えっ、でも、怒って見えたけど」
「あれは、彼女なりの助け舟のような物だ。こいつかなり照れ屋だからあんな言い方になったんだよ」
「なっ!?」
折原の意図を翻訳してやったら、今度は彼女が赤面する番になった。
この場合に限って、赤信号はゴーサインである。
「そ、そんなんじゃないわよ!あれは、そう、あまりにもコイツがウジウジしてるから見てられなかっただけよ!」
「人、それを助け舟と呼びます」
「相変わらず不器用だな、アンジー」
「折原、もう自分を傷付けなくて良いんだ。ここには、お前を受け入れてくれる仲間しかいない。鉄仮面なんか捨てて、自由に生きろ」
「YOU’ RE WRO〜NG!!そして春樹!どさくさに紛れて安易なキャラ設定しないでっ!」
俺達の送る優しい眼差しに耐え切れず、涙目になって講義する翠眼美少女。
そんな恥じらう彼女に思わず見とれた柊だったが、再度睨まれて背筋を伸ばした。
俺としては大変自虐心がそそられるが、現在進行形で照れ隠しを兼ねて打たれてるので控えておこう。
このツンデレの『ツン』は些か物理的過ぎるんだよな。
元特殊部隊所属と言った、おかしな経歴を持つ執事に日々訓練を受けているから、妙な状況反射を身に付けただけかもしれないけど。
余談だが、柊誠也に対しての女子三人の共通認識は『黒霧カイトの虐めの被害者』である。
通常の場合、いくら脅されていたとしても犯人に協力した時点で共犯者と見なすべきなのだが、彼に限ってはそう断定出来なかったのだ。あくまで、心情的な理由で。
まあ、俺は本日までの嫌がらせを本格的な虐めとカテゴライズすらしていなかったので何とも言えないのだが、どうやら普通の感性の持ち主の彼女らは違ったらしい。
勿論、数ヶ月前教室の席に落書きが現れた当時は正しく怒髪天を衝く姿だった。
超ハイスペック美少女三人の超一級品の般若面。正直に言おう、俺でも怖かったさ。
地獄浅層の小学と地獄深層の中学から足を洗って辿り着いた先があの光景、最終的に世の中は何処でも戦場なのだなと達観したよ。
即座に待ったを掛けなかったら、あの小悪党トリオは激しくどうでも良いとして、柊がどうなったか想像したくもない。
え?
どうして、俺の方が先陣切ってバカ共を呪わなかったかって?
……いや、そんなの出来っこないから。良い加減、そこから離れようぜ。
あれ以来、柊以外は週に三度悪夢に苛まれて寝不足で登校しているが、きっとアレだ、業と言うやつだ。
個人的な人格判定上、柊誠也は気こそ弱いが他人を傷付けるより自分が傷付くことを選ぶ人間だ。
それが長所なのか短所なのかさて置き、怪訝した俺は何とか般若さん達を宥め、一旦柊の近状を調べることにした。
そして判明したのが、何と彼奴が俺と同じく全学費免除を認められた一般庶民だったことだ。
動機は、重い病気を患った妹の入院費に圧迫された家庭の為。
偶然にも、妹が入院しているのは一条智の父親の病院である。
更に、校則で禁じられたアルバイトに密かに勤めて臨時で働く母親を助けているらしい(父親は他界している)。
もう一度、正直に言おう…………………号泣したよ!四人揃って!
ありきたりの不遇設定?
誰だぁ!今そんなこと思った[ピーッ]野郎はぁ!!
原稿突き破って殴り飛ばしてやるっ!!
例えありふれていてもなぁ!柊のっ、あいつの血と汗と涙は本物なんだよぉ!!
かくして、俺達四人はこの家族思いの心優しい少年を応援しようと一致団結したのだった。
「柊!お前は、何も悪くない!安心しな、勇者の力を使えばあの厨ニ野郎もぶっ飛ばせる!絶対、共に日本に帰るぞ!」
「うわっ!?どうしたんだよ森君、いきなり」
回想に耽っていたら、思わず熱くなって柊の二の腕をガシっと掴んでやった。
二の腕だ、肩ではない。だって、身長差がね 。
……成長ホルモンめぇ
「い、痛いよ森君。そんなに力込めないでくれ」
おっと、ごめんね。
「やっぱり、黒霧君のこと知っていたんだ」
「柊よ、『黒霧君』じゃない。『黒虫G』だ。台所を徘徊する奴」
「えっ、なに言って…」
「または『黒[物凄く汚い言葉]』だ。不良には、あらゆる手段で反抗しなければならない。先ずは、呼び名から。心配するな。俺の元に師事すれば、お前もたちまち立派な【メタルジャケット・デスターミネーターII】になれるだろう。さあ!」
「森君?」
「森君じゃない!教官だ!口から出る文章の頭と尻に『マイロード』を付けろ!腹から声を……のわっ」
「春樹、熱くなりすぎだ。落ち着け。戻ってこい」
一瞬元中にトんでいたら、後ろから海老名に抱き上げられた。
どいつもこいつも、俺は抱き枕じゃないんだぞ!
兄妹達には、毎晩添い寝しているが。
「って、あれ?俺、今何を……」
「春樹君、一度お祓いに行ってみませんか?『教官』って誰ですか。貴方に取り付いている御方?」
「……こっち見ないで」
何だ、その危険人物を見るような目は。
ハッ、これだから女は甘くていけねぇ。
所詮、男衆は野獣の群れ。この汗臭くて生臭い世界で生き延びるにはハードな馴れ合いが不可欠なのさ。
な!柊よ!
「は、ははっ。やっぱり森君には敵わないな。黒霧君に屈しないし、海老名さん達と友達だし……僕なんか……」
「いやいやいや、全然大したことじゃねぇよ!?」
だから、そんな諦めたような顔をしないでくれ。
「そうか、黒霧君なんて大したことないんだ」
「あっ、あの小物は本当に大したことないな」
「でも、あの黒霧大臣の息子だよ?普通逆らおうと思わないよ」
「馬鹿か、貴様」
「酷っ!?」
くっ、また心の声が。
ええい、静まれ!内なる自分!
「柊君、例え父親が政財界の重役だとしても、息子が好き勝手を許される理由にならない。森君が言いたいのはそういう事です」
「わ、解るけど藤堂さん。その、親に頼んで逆らう人を酷い目に合わせるとか……」
「やっぱり馬鹿ね。テレビ見ないの?あの冷血政治家がそんなバカ息子のワガママに答える訳ないじゃない」
その通りだ。
黒霧議員が率いる政党は異常なまで能力主義で、私情で汚職を犯した者はまるで国賊の扱いを受けるとかで有名である。
あれはあれで到底まともな人格と呼べないが、少なくとも殿様気取りの小悪党ではない。
実際の問題は、その鉄人の唯一の隙であるバカ息子に協力して、間接的に恩を売ろうとする雑魚どもだ。
それでも、折原と藤堂の家柄もかなりの物だから、本気で取り掛かればどうにかなりそうだったが、流石に頼まれてもないのにそこまで世話を焼くのはどうかと思った 。
だから、先ずは相談に乗ってやろうとしたのだが………近付こうとする度に涙目で土下座されて、脱兎を蹴飛ばして逃げられてたんだよなぁ。これが。
……うん、柊君、土下座って許しを請う為にあるからね?
無言でやっても仕方ないし、許す前に全力疾走されたらこっちが困るだけだからね?
「野郎はバカだ。どんだけバカかと言うと、由緒正しき伝統を誇るうちのセレブ高の史上初の不良になるほどのバカだ。そんなの権力の誇示じゃねぇ。辺りの支持者からも早々に見限られてたさ」
「そうだったんだ」
「奴は色々と豪語してるがな、世の中には世論っつーものがある。一条の親も人格者らしいし、妹のことは心配ないさ」
「……うん、ありがとう森君、藤堂さん、折原さん、海老名さん。やっぱり同じ高校生と思えないや……あれ?なんで美来のこと知っているの?」
「ああ、それはだな……」
丁度いいから、この際カミングアウトして 全部話すか。
こいつも向こうに残した家族が心配だろうし。
実は、前々からいざという時のために東堂の所の忍者隊……じゃなかった、侍女たちが妹さんの様子を密かに見張ってるんだよな。
そう気遣って話そうとしたが、ふと目尻で折原と藤堂からのサインを捉えた。
二人共、えらい慌てふためいて柊に見えないよう唇に指を当てたり腕をクロスさせたり俺に喋らないよう要求している。
なんだ?
あいつら、また何か余計なことしたのか?
「森君、もしかして……」
「ひいらぎぃ!!」
「は、はいぃ!」
いろいろ腑に落ちないが、取り敢えず表情の影を強めて劇画タッチを描きながら怒声をあげる。
案の定、抱き始めた疑念などほっぽりだして敬礼を決めてくれた。
「良いか、柊。確かにお前は強者による理不尽の被害者かもしれない。しかぁし!それは、何の権利にもならないっ!被害者がその立場に甘んじていられるのはほんの一時だ。後は、乗り越えろ!強くなれ!」
「!!!」
やべぇ、自分でも何を力説したいのか解らなくなって来たぞ。
行けたか?
柊はしばし打たれたかのように俯き、両手の拳を力いっぱい握って面を上げた。
……こいつ、こんな凛々しい顔してたっけ?
「森君の言う通りだよ!僕、黒霧君にも魔王にも負けない位強くなってみせる!」
よっし、誤魔化せた!
そして、何か罪悪感半端ねぇ!
汚してはならない純白を弄んだ気がしたぞ?
そこの二人、白い目で俺を見ているが、本当にそれでいいのかな?
彼女達のあの慌て方を知っている。
何かやらかした、或いはやりすぎた時にする表情だ。
ふふっ。そんなに青ざめるな、ちゃんとみっちり問い詰めてやるから。ふふっ。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「ふんふんふ〜ん。メロン、メロン〜」
「ふんふんふ〜ん。メロン、メロン〜」
とある長期入院患者用の病室。
そこで治療を受けている少女は、何時も世話をしてくれている看護婦を誘っておやつの時間を楽しんでいた。
本来微かな憂鬱感がくすぶる筈の室内から、今は二人の陽気な鼻歌が聞こえる。
それも仕方のないことだろう。
彼女達が頬張っているのは、一般庶民なら一生口にすることのない北海道の特産品。
一個数万円で競り落とされる特秀夕張メロン。例えメロンの嫌いな人でも、高級な桐箱に入ったそれを見舞い品に貰えば気を最高潮にするだろう。
「…………でも、ちょっと、多いかな?」
少女は、少し困った表情を浮かべながら、寝台の横で小山になっている桐箱を眺めるのだった。