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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第1章 異世界逃走劇
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第3話 一矢報いる 前編


その部屋の全貌を少ない言葉で形容するとしたら、荘厳、壮観。

相応の地位を有して訪れる一握りの貴人は、そこに煌く光景を目に焼き付けた後、皆口を揃えてこう公言するだろう。


天上天下無双の宝だと。


世界最古の人族国家ヘクサドラゴン王国、王都アヴァンの中心に傲然と建つ王城。国の心臓たる謁見の間は、その趣旨に見合う貫禄を醸し出していた。

しかしながら、政治といった俗世の事情と密接に関わる場でありながらも、そこは不思議と、否、不自然なほど現実味の薄い場所と思えた。


それは、数多い芸術家が生んだ美麗な趣向故ではないだろう。

言わば、有給不変の存在が持つ特有な美しさ。

さながら古代の神殿の神々しい壁画の如く、それは既に歴史の一部と刻まれた、変更しようのない事実だ。善も悪もなく、正しさも過ちも鑑定されない。


故にこの空間に君臨する王は絶対者なのだろうが、同時にそうである限りこの国は“今日”と違う“明日”を見ることができないだろう。



………そして、それとは別の意味で、このままだと俺にも明日はないだろう。


「HARUKI〜!!Thanks God you’re alive〜!!」


ハーフ美少女に思いっきりハグされて、そのふくよかな胸部からぶら下がる少年の胴体と肢体。

以上の異物が豪華な広間にあった。ちなみに芸術作品ではない。どちらかと言えば殺人現場だ。


うん、君が来るまでは無事だったよ?

呼吸器官を的確に塞いで来る、この暖かい水袋のような感触。

それに興奮ではなく寒気を感じてる俺は、決してホモではないはずだ。

だから……下ろしてくれ…………折、原。


さて、何の恨みがあるのか時折斬り掛かってくる和風女に案内されて来たのは良いが、早速ピンチです。

束の間に目に入った風景を上でそれっぽく語ってみたが、余り気にしないでくれたまえ。

朦朧な意識で死直前の引き伸ばされた瞬間の内、悟りが開きかけているだけだ。でないと、あのような小難しい言い回しなんて使ったりしない。


実際の感想はこうだ。

くそっ、危ねぇじゃねぇかこの女ジェイソン!!

うおっ、眩しいなおい!?何だ、この成金趣味の部屋!

あっ、おそこにクラスの奴らがいるな。なんか折原がすげえスピードでこっちにk……


後は真っ白。


k、の辺りと迫る乳房で俺の視覚情報が途切れている。

なぜだ。途中までグラドルの収録みたいだったのに、なぜ最後はホラーテイストなんだ。


我としたことがヘマを踏んだな、後方の敵に気を取られ過ぎて前方の奇襲への警戒を怠るとは。

いや、折原よ、一応お前見方だよな?何気にこのボイン娘に殺されかけた経験が多いのだが。


全く関係のない話だが、人体の五感はそれぞれに特化した刺激に正しく反応するが、他の刺激にも多少は応える。

例えば、光や色に反応する眼球を圧迫すると瞼の裏で白っぽい色が認識されるのだ。


「完全に振り出しに戻ってるじゃねぇか。おいアンジー、そろそろ離してやれよ。春樹がそこでおっ死んだら豚箱から出してやった意味がねぇじゃねぇか」

「そうですよ、アンジェラさん。春樹君が心配だったのは解りますが、少し落ち着きましょうね」

「べ、別にそこまで心配してないわよ!……ただ、無事でよかったなって……」

「あら、そうなのですか?その割には、先程までかなり必死に見えましたが?」

「さ、桜子だって、すごい怖い顔していたじゃない!」

「大切な友人の事ともなれば当然のことです」


三途の川の浜辺ももうすぐのところで、海老名と藤堂の呑気な声が聞こえた。


お前らのガールズトークなんざどうでもいいんだよ!

いい加減離さねぇともぎ取るぞこの牛女!!


「!? 私のセンサーが!まずいぞお前ら、鬼春樹が復活しそうだぞ!!」

「「!?」」


視界が、今度は違う原因でどす黒く染まり始めた途端、海老名が意味不明の号令を出す。



ポイッ



すると、折原が投げ捨てる感じで俺を手放し藤堂を連れて海老名の背後に隠れやがった。完璧に教室の時と同じ絵面だな。

俺は、新鮮な空気を取り込みながら、何を伝えたいのかビーム状で目から放出しそうな目付きで冷や汗をかく三人を睨んだ。


「い、言っておくがあたしは止めようとしたからな!悪いのはこの二人だ」

「Wha!?酷いわよ杏花!友達を売るなんて!!」

「そうです!ここは連帯責任で二人が地獄へ堕ちるべきです!」

「辞書で連帯責任の意味を引いて来な、桜小」

「………で?てめえら、そんな下らないもんが遺言でいいのか?」

「「「ごめんなさい!」」」


揃って頭を下げる三人。


全く、仲がいいのか悪いのか。それとも良過ぎるのか。

そこまで怖がる必要なんてないだろう。

お前らがそんなんだから、他の奴らも時限爆弾を突っつくような顔をしながら遠くからこっちを伺っているんだろうが。


改めて辺りを確認すると、皆な無事のようだな。隷属的な首輪や刻印がされていないし亀甲縛りになっている奴もいない。いても放置するが。

悲しいことに黒霧スリーマンセルも健全である。細川が微妙に仲間外れにされているけど、知ったことではないな。


「まあ、とにかく無事で何よりだよ。俺が一歩先に目覚めたとき、王様っぽいオッサンが隷属とか魔法とか危ねぇこと言ってたからな」

「隷属と魔法、ですか。なるほど、穏やかではありませんね」

「ああ。で、向こうはなんて言ったんだ?テンプレ通り魔王を倒してください、とかぬかして誤魔化してんのか?」

「んいやぁ、それが、最初にちと一悶着あってな。オメェを解放しない限り話は聞かねぇって、突っぱねたんだ。だから、取り敢えずここで待ってろって、あの顔の長ぇおっさんに言われたんだ」


それは、迷惑をかけたな。


見ると、確かに数学の授業中の中坊並みにつまらなさそうな顔をした金髪のオッサンが、玉座らしい豪華な席の横にいた。

意匠を凝らした白銀の甲冑に何かの鳥類を模した紋章付きのマントを羽織っているが、何故か微塵の覇気も感じられない。


それは、既にボロボロな姿であるためか 。それとも、今俺を連れてきたサイコ女の斬撃を双剣で受け止めて、鍔迫り合いの危うい体制になっている為か 。


「近衛騎士団団長のヴィクトル・アリア・ゲラルヴァンとか言っていたわ。そして、一刀両断しようと切り掛かっているのが副団長のキキョウって人ね」

「……なんで、部下に襲われてるんだ?」

「帰って来て早々『大丈夫でしたか?漏らしませんでしたか?』と尋ねたみたいですね。全く、レディーに向かって失礼な方です」

「それに兜割りで答える女なんてレディーとは呼ばんがな。つーか、何でボコボコなんだよ?」

「右目の痣は、杏花さんの飛び膝蹴りですね」

「左頬が膨れてんのは、アンジーの肘鉄だな」

「髪型が乱れているのは、桜子の一本背負ね」

「いや、何やってんだお前ら!?」


どこか得意げに語る三人に俺は思わずツッコむ。


近衛騎士団団長って、王様のエリート私兵の元締め役ってことだろ?!

そんな危ねえ奴と相対するなよ、逃げろよ。

ちょっと一悶着って嘘だろ、絶対大立ち回りしたってこいつら。

よく見れば、召喚された時にいた騎士のほとんどに痣とかたん瘤とか出来ているじゃん。


何故騎士共を特定できるかって?俺と絶対視線を合わせようとしないからだよ。

つーか、世界跨いでも怖がれるのかよ、元中作法の哀殺(あいさつ)


「しょうがねぇだろ。いきなり凄ぇ怖ぇ怒鳴り声が聞こえたと思ったら、辺りが剣や槍を持った奴らで一杯でよ。おめぇも変な奴らに連れて行かれちまうし」

「Blitz 作戦です、又は Surprise attack です」

「疾きこと風の如く、動くこと雷霆の如しだわ」


セリフが入れ替わっているぞ、純和風娘に舶来品娘。

まあ、結果的にその陰で変なことされなかったから、良しとするか。


そう納得していると、今度は向こうの質問の番となった。


「んなことより春樹、おめぇの方こそ何があった。スゲー騒ぎだったぞ?」

「え?なんのことだ?」

「あのね、私達が春樹の解放を要求してから数人騎士が地下監獄に迎えに送られたんだけど、全員逃げ帰って来たのよ。悲惨な顔をしながら。だから余計に心配、は、ちょっとくらいしたかも?」

「はい、皆さん漏れなく『なんて罵倒だ』とか『声が、声が直接頭にっ』とか『とても近付けない』とか言いながら任務失敗の報告を挙げるのです。任務でもないのに。ミハイルという拷問官の葬儀を準備する者もいました。春樹君何かやらかしましたか?」


………はい、元中流儀で完膚なきまで殺りました、とはとても言えない。

まさか、脱獄未遂が釈放の邪魔をしていたとは…………っ!


「ま、まあ。俺たちを奴隷にできなかったから、計画を立て直すための時間稼ぎだったんじゃねぇか?」

「なーる。やらかしたな、春樹」

「私の心配かえしてよ、もう」

「ミハイルさん、お気の毒に」


なぜバレた!?



こうして現場確認を終えたタイミングに上司と部下のチャンバラも幕を引いたようだった。

双剣と大太刀を鞘に収める団長に副団長。結果は、引き分けか。


「ヴィクトル、後でケーキ三個」


違った、団長殿の敗北だった。


「はいはい、皆さん、長らくお待たせして大変申し訳ありませんでした。改めて紹介しますが、私はこのヘクサドラゴン王国の近衛騎士団団長を務めているヴィクトル・アリア・ゲラルヴァンという者です。今から陛下が自ら此度の事件を説明いたしますので、静粛にお願いしますね」

「あぁ?ふざけてるんじゃねえっすよオッサン、なめてんのか!突然変な所に呼び出した上、こんなに待たせやがって!土下座だ土下座!!なぁ!黒霧さん!」

「………細川、てめえ俺を売っただろ」

「茶も出さずに待たせるなんて、てめえ常識ってもん知らねえの?廊下に立ってたメイドでも呼べよ!ついでに、お・れ・た・ち、が遊んでやりやすからよぉ。な!タイチ!」

「………(うほっ)………ぺっ」


死に物狂いで友達アピールしているバカはさておき、この男は本当にやる気があるのだろうか。

話し方も始業式の校長の口調そっくりだ。あくまで想像の域だけどね。俺、普通な校長先生なんて会ったことないし。

それでも、一種のカリスマ性が宿っているので不思議である。


その雰囲気に臆さず前に出たのは、医者の息子である一条智だ。

優等生お決まりの仕草で眼鏡のブリッジをクイッと押し上げ、至極真剣な表情で問う。


「ふむ、森君の件の他に時間の有する事態でも起きたのか、ゲラルヴァン殿。不用意に長い待ち時間に感じたが?」


流石は優等生。

向こうの不自然に後手な対応に気付いて、追求してる。


「私の事はヴィクトルか団長で構いませんよ。陛下はアレです、緊急軍事会議の時間だったので仕方なく…」

「白昼堂々、公衆の面前で漏らした羞恥で引き籠っていた」

「……キキョウさん、貴方こそ公衆の面前で王家の醜聞を晒さないでください。不敬罪で懲罰を下せざるを得ませんよ」

「……ケーキ五個」

「解りました、ケーキでもお小遣いでもあげますからあっちに行って下さい。帰って来なくても良いですから」


そら見たことか!

やっぱり裏でしこしこ緊急会議してたよ、こいつら!

つーか、なんでそれを堂々と言っちゃてるんだ、こいつら!?俺が聞き耳立ててたのしらねぇのか?


王様か?漏らしたことを誤魔化してくれと、王様に頼まれたのか?


ん?何故クラスメートは皆恐れ慄いて俺に目を剥いているんだ?


「ぷっぷ〜、聞きやしたか黒霧さん。王の奴、クソ垂らして……」

「貴様あぁ!!陛下を愚弄するとは何事かあぁ!!!」

「うわあぁ!!?すいやせんでした!!こいつらが悪いんです!俺は何もしてませんっ!!」

「細川ぁ!!!」

「うっほお!!」


おーい、誰でも良いからこいつら他の世界に拉致してくれ。事故死で召喚でも急死で転生でも良いからさ。この際、生き返らせなくても良いからさ。


「とまあ、そんな感じで陛下は便器との緊急会議に勤しんでいました。御理解頂けたでしょうか」

「う、うむ」

「それでは、陛下に御入来………あっ、そうそう忘れる所でした」


見事に出鼻をくじかれた一条をよそに、ヴィクトルは何処からか金属製の腕輪を取り出した。

何の飾り気もなく、光を吸収する鉛色は装飾品より手錠を連想させる。

何故か、嫌な予感しかしない。


「貴方方はそれなりの教養があると見受けますが、どうも血の気が多い者がいるようですのでこれを付けて貰います」

「それは?」

「装着した者の位置特定、命令違反した際に激痛を与える、まあ一種の隷属用具ですね」

「なっ!?」


あまりにも大胆な要求に一条に止まらず全員絶句する。

やはりろくでもない代物だったか。

まずいな、回るくどい方法はやめて、直接きたか。


隣で折原が憤慨した。


「断るわよ!勝手に連れてこられた上、何でそんなの付けないといけないのよ!!」

「おや、貴方は先程の肘鉄のお嬢様ですね。まあ、我々としては元々そのような理由で召喚しましたからね。少し工程が変わっただけの事です。これでも、貴族界では一種の愛好家まで存在する大人のオモチャ……優秀な魔具ですよ?」

「余計に付ける訳ないでしょう!?」

「しょうがない人達だ、では、もう少し丁寧に要求しましょう」


そう言いながらヴィクトル団長が手で合図を送った直後、壁際に直立不動でいた騎士達が一瞬で俺達を取り囲み、槍を突き付けて来た。

打って変わって緊迫感に満ちた空気の中、変わらずやる気のない声音が届く。


「装着してください、お願いします」


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